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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    神谷と都築さん。(2019/4/20)

    ##カプなし
    ##神谷幸広
    ##都築圭

    星を数えて その日、事務所は賑わっていた。原因は俺たちだ。
     東雲の作る菓子は華やかで、好きだ。その色とりどりの宝石たちが、応接室のテーブルに並べられていた。
     ピスタチオの緑。ラズベリーの紅。チョコレートの茶。レモンの黄。バニラの白。ごまの黒。数えるならば片手では足りなくなってしまう。思いつく限りの色を、東雲は洋菓子に閉じ込めてみせた。
     そんな数々のマカロンを前に、都合のついた事務所のみんなが楽しそうに話している。
    「んだこれ」
    「マカロンって言ってな、洋菓子の一種だ」
    「ヨウガシ……? まぁ、食えるもんなら、全部オレ様のモンだなぁ!」
    「人の話を聞いてなかったのか? これは一人一個だ」
    「ああ? なんでチビに指図されなきゃなんねーんだ」
    「漣っち、今日なんで呼ばれたのか聞いてなかったんすか?」
    「アンケートって言ってたよな。意外と責任重大だったりして」
    「ハヤト……緊張してる……?」
    「思ったとおり答えればいいんだって。ドーナツ味のマカロンがあったらいいなー」
    「……ドーナツ味?それ、マカロンですか……?」
     THE虎牙道のみんなと、High×Jokerのみんなが話し合っている。隼人くんの言う通り、今日は東雲の作ったマカロンの試食会だった。
     なんでも、店に並べるマカロンの種類を絞りたいらしい。こんなにキレイでおいしいマカロンだ。少し勿体無い気もするけれど、アイドル活動との両立を考えると、全種類を店に並べることは難しいのかもしれない。東雲は俺にただ試食会をするとしか言わなかった。理由を説明することはしなかったけど、俺は勝手にこれが理由だと思っている。東雲が何も言わないということは俺の考えは間違っていないのだろう。
    「煎餅みたいに持つんじゃねえぞ。意外と脆い菓子だったはずだ」
    「うおお……確かに、言われてみると……女子っぽいな?」
     マカロンを前に緊張した面持ちの神速一魂の二人に、輝さんが笑いかける。
    「二人とも慎重だな? まぁ、軽んじていいもんでもないしな。マカロンなだけに!」
    「……ん?」
    「お、おう?」
    「…………天道」
    「え? 薫さん? ……ああ、今のってもしかして……」
     輝さんの言葉に、薫さんの手元のマカロンがくしゃりと割れた。それを見た朱雀くんが一言、気をつけねぇとな、と言った。
     それぞれが、紙皿にマカロンを一つずつ取って、眺めたり、食べたりしている。その賑わいの中で、紙コップに注いだ紅茶を、一人一人に配って回った。
     本当はこの紅茶に似合うティーカップがあればよかったんだけど、事務所にあるのはプロデューサーさんと賢くん、二人のマグカップだけだ。集まった人数も多い。紙コップというのは妥当な判断だったと思う。
     咲が紙を配っている。簡単なアンケートだ。おいしかった順に、紙に書かれたフレーバーの横に数字を書いていってもらう。
     めいめい、紙皿を持ってバラバラと動く。あれがおいしい、こちらが好みだ。ざわざわ、会話が聞こえてくる。そんな中で、四季くんが麗くんと漣くんを引っ張って、写真を撮っているのが見えた。
    「麗っちは何から食べるっすか?」
    「ああ、わたしはバニラ……か? こちらの白いものから頂く」
    「あ? コレ、なんか違いあんのか?」
    「漣っち、本当に話、ぜーんぜん聞いてないんすね! ってか、もう全部食べちゃったんすか?」
    「こんだけじゃ、全然たりねー」
    「ふふ、まあ、おいしく食べてくれればそれだけで嬉しいよ。はい、紅茶」
    「あ、神谷っち!」
    「幸広さん。感謝する」
     三人に紅茶を差し出せば、漣くんは得意げに、四季くんは楽しそうに、麗くんは柔らかく微笑んで紅茶を受け取ってくれた。三人と、少し話をした。四季くんと麗くんはまだマカロンを食べていないという。何から食べるか迷っていた、と。
     四季くんはラズベリーの色が好きだと言っていた。麗くんはバニラの匂いが気に入っているらしい。漣くんはもう食べ終えてしまっていて、どれが好きかと問いかけたら、どれでもいー、と返された。漣くんらしいね。そう言って、そこから離れた。
     残念ながら予定の会った人は来られなかった。全員が集まれなかったのは残念だけど、来られなかった人には後日人気のあったマカロンを配ろう。そんなことを考えながら、俺は最後の一人、圭さんに紅茶を手渡した。
    「圭さん……なんでそんなにすみっこにいるんですか?」
     圭さんは、賑わいから離れた事務所の壁に背を預けていた。
    「ああ……うん。僕がアンケートに参加していいか、わからなくて」
     なんだか困ったみたいに笑う圭さん。参加しない理由が俺にはわからなかった。
    「……? マカロンは嫌いですか?」
    「いや、そんなことはないんだけど」
    「嫌いな味があったら、それは食べなくても大丈夫ですよ」
    「嫌いな味……いや、僕はね、マカロンをそんなに食べられる気がしなくて……」
     きっと、一つか二つでお腹がいっぱいになってしまう。だから、アンケートに協力できないと圭さんは言った。
    「ああ……そういえば、とても少食ですもんね」
    「そうなんだ……頑張れば、小さいラーメンなら食べられるんだけど……」
     話を聞くと、道流さんが圭さんのために小さなラーメンを作ってくれたらしい。俺は、レンゲに作られた小さな小さなラーメンを想像した。
     そうか。こんなに小さな、片手にいくつもいくつも乗っかるお菓子が圭さんには多すぎるんだ。なんだか、とても衝撃的だった。おもてなしって、やっぱり難しい。いくつも、いくつも与えたいけど、それが受け取りきれない人もいるんだ。そう思った。
    「……じゃあ、アンケートとかは抜きで、召し上がってください。おいしいですよ」
     迷惑じゃなければ、と俺は言った。そうしたら圭さんは嬉しそうに笑ってくれたから、俺もなんだか嬉しくなった。
    「……二つ。二つなら食べられる気がするな。ねぇ、幸広さんのオススメを頂けるかい?」
    「任せてください。ちょっと、待っててくださいね」
     そう言ってマカロンを取りに行く間に思った。圭さんにちょうどいいおもてなしって、なんだろう。
     あんな、カップ一杯の幸せにも溺れてしまいそうな人に、過不足のない贈り物。
     なにかしてあげたいな。そう思った。
     マカロンを二つ、手に持って戻る。圭さんは一つ目も二つ目もゆっくりゆっくり、おいしそうに食べて、二つ目のほうが好きかな、って笑った。そうして、しみじみと紅茶を飲んだ。いつも水を飲んでいるイメージの彼が琥珀色の液体を飲んでいる。なんだか不思議な気分だった。
    「…………ねえ、圭さんは紅茶、お好きですか?」
    「……? うん。どうして?」
    「なにか、好きな紅茶があったら、ごちそうしたいなって」
     なにかしてあげたいな。そう思ったから口にした。それはマカロンを食べきれない圭さんに対する同情とか意地とかじゃなくて、単に圭さんを喜ばせたかったからなんだと思う。
     それに、やっぱり俺は気になっていたんだ。圭さんにちょうどいいおもてなしって、なんだろう。って。
    「そうだね。……じゃあ、星空にぴったりな紅茶が飲みたいな」
     そう言って、圭さんは空のコップをもって、ふよふよとゴミ箱のほうへ向かっていった。俺はそれを見て、巻緒が読んでいた漫画に出てきた、ケセランパサランを思い出していた。

    ***

    「お邪魔します」
    「いらっしゃい」
     俺は圭さんの自宅に招かれていた。もてなされる側になるのは、なんだか不思議な気分になる。嬉しくて、照れくさい。
     星空にぴったりな紅茶。たくさん、たくさん考えて。八回目でようやく納得のいくブレンドができた。それが、昨日の出来事だ。
     事務所で、紅茶を入れた魔法瓶を圭さんに渡そうとしたら、圭さんは不思議そうな顔をして俺に言ったのだ。「夜にならないと、星が見えないよ?」
     だから、俺は魔法瓶は明日にでも返してくれれば、と言った。そうしたら、圭さんはまた不思議そうな顔をした。そうして、俺に問いかけてきた。
    「二人で飲まないのかい?」
     それは思いもしなかった言葉だった。俺の中には、たった一人、夜空を見上げて星を見ながら紅茶を飲む圭さんのイメージがあった。万が一、そこに並ぶとしたらそれは俺ではなく、麗くんだと思う。それでも、圭さんは俺と紅茶を飲むと言う。
     そうして、あれよあれよと話は進んで、俺は圭さんの家にいる。アスランが持たせてくれた軽食の、小さな小さなサンドイッチを見て、圭さんは楽しそうにしていた。俺は、指先でつまむほどの小さなサンドイッチを見て、アスランは器用だな、って思っていた。
     星のきれいな、いい夜だった。空気は冷えてきていたけど、息が白く濁るほどではない。手はかじかまないけど、アイスティーよりはホットティーが飲みたい季節。なんだか、穏やかに星を見るにはいい夜だと思う。
     圭さんの家には庭があって、そこには華奢なテーブルと、椅子が一脚あった。圭さんは椅子を譲ってくれようとしたけれど、俺が遠慮すると「そうかい」と言って、椅子にすとんと座った。
    「おいしい」
     紅茶を飲んで、圭さんは言った。そうして、口にする。
    「この紅茶には、本当に星空があうんだね」
     夜空のための紅茶があったんだ。そう、しみじみと圭さんは呟いた。そう言われてみると、この美しい液体は、本当に夜のために存在している気がしてくる。
     そうして、温かい紅茶を飲んで、二人で星を見ていた。体が冷え切ることはなく、むしろ紅茶で温まった体からストールを外した。星がたくさんあって、数えていたらあっという間に朝になるんだろうな、って思った。
    「ねぇ、幸広さんは星を数えたことがある?」
     そんなことを思った矢先にこんなことを聞かれたから、俺は少しだけドキッとした。俺の持つ、星の記憶を辿る。
    「ありますよ。空はどこにいても変わらずにありますからね。旅先なんかで、よく眺めてました」
    「ああ、幸広さんは色々なところを旅していたんだっけ」
     なぜか、俺の言葉を聞いた圭さんは何やら考えこんでしまった。何か変なことを言ったかな。何か、言うべきなんだろうか。
     メキシコで追い剥ぎにあった話でもしようか。そう思った矢先に圭さんは言った。
    「幸広さんはさ、何を数えて生きてきたんだい?」
    「……はい?」
    「月でも、花でも。……旅をしていたのなら、何かを数えないと自分の年を忘れてしまうと思って」
     年を忘れる、と圭さんは言った。そんなこと、と言いかけてやめた。圭さんに年を聞いたことがある。圭さんは、忘れてしまったよ、と言っていた。
    「ああ、でも、花だったら。旅先に同じ花が別の季節に咲いていたら。年を数え間違えてしまうかもしれないね」
     一年で、二つ年を取ってしまう。そう、合点がいったように頷く。
     その点、月なら数えやすい。そう言われる。満月が十二回きたら、一つ年をとる。それはカレンダーを見るよりもずっと理にかなっている気がしてきた。
    「……圭さんは、月を数えなかったんですか?」
     年を忘れてしまった人。
    「圭さんは、何を数えて生きてきたんですか?」
     知りたいな、って思ったんだ。きっと、きれいなものを数えていてほしい。自分勝手な願いが生まれた。
    「……僕はね、星を数えていたんだ」
    「……星、ですか」
    「月にしておけばよかったかな。星を数える。ひとつひとつ、星の音を辿るんだ。そうすると、星を数えるのに夢中になってしまう。何度の夜を超えたかを覚えてないといけないのに、毎回、星に夢中になって数え忘れてしまうんだ」
     だから、数えるなら満開の桜に出会った回数にすればよかった、そう言った。桜とともに年を取ればよかった、と。
    「……数えるものには、桜だって向いていませんよ」
    「どうして?」
    「きっと、花びらを数えるのに夢中になるだろうから」
     何回も花びらを数えて、何回も桜に感動して、一年に三回くらい年を取ってみせる圭さんの姿が、ぷか、と浮かんだ。
     ふふ、と圭さんが笑った。その通りだね、って笑ってみせた。
    「難しいんだよ。楽しいとね、音を辿るのに夢中になってしまう。悲しいとね、音に慰められて時間を忘れてしまう。時間って、不思議だね。ああ、アイドルになってよかったことはたくさんあるけれど、みんなが誕生日を祝ってくれた日は嬉しかったな。あの音が鳴る日、僕は年を取るんだ」
     星を数えて生きてきた人。夜を忘れて生きてきた人。たぶん、この人は俺と同じ時間を生きていない。そう思う。生きた時間を数えるための、指標を間違えてしまった人。
     それでも、そんなひょんなことからこんなに不思議できれいな人が生まれるなら。彼が選んだ星はあながち間違いじゃないのかもしれない。自分勝手に、そう思う。
     ただ音だけを受け取って生きる、彼の時間を考える。俺の二十一年と、彼の忘れたいくつかの時間を考える。
     たいして長い時間、考えていたわけじゃない。それでも、気がついたら圭さんは星を数えていた。俺の視線に気がついた圭さんが、少しだけバツが悪そうに口にする。
    「この紅茶が星空にぴったりだったから」
     二つの音がね、綺麗に揃うんだ。そう言った圭さんは満足げだった。
     俺が、いや、事務所のみんなが、このマイペースな人と出会えてよかったなって、そう思う。俺たちが圭さんの代わりに、年も時間も数えてあげられたら、と思う。
     だから、この人には今までどおり、時間を忘れて生きていてほしいなって思った。やっぱり、これも自分勝手だ。
     圭さんはこれから年を取っていく。俺たちの鳴らすクラッカーの音で、ひとつひとつ年をとる。
     だけど、これからもずっと、自由に星を数えていてほしい。夜は、俺たちが数えるから。
     そんなことを考えながら星を見ていた。ふ、と疑問が浮かんだ。
     そういえば、と口にする。
    「ねぇ、圭さん」
    「なあに?」
    「圭さんは、星の見えない夜を数えなかったんですか?」
     圭さんは、少しだけ残念そうに、口にしてみせた。星の見えない夜はね、って。
    「生きた心地がしないから、生きた時間にはカウントしないんだ」
     そういうものなんだな。そう思ってもう一度、星空を見上げる。
    「……これからは、そんな夜を数えるのもいいかもね」
     ぽつり、圭さんはそう言った。
     圭さんは、昔と比べて変わったのだろうか。まっくらな夜でも生きていられるような、光を得たのだろうか。そうだといい。そして、それが麗くんやプロデューサーさんや、俺たちであったらと、強く、願う。
     星のきれいな、いい夜だった。
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