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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    タケ漣ワンドロ6「雨」(2020.1.4)

    ##タケ漣ワンドロ
    ##タケ漣

    未来で一番美しい声を 俺たちの世界は、雨の止まない世界になってしまった。いや、もしかしたら雨はいずれ止むのかもしれない。だけど現状、止む気配がない以上、ここは雨の止まない世界だ。
     そんなもんだから、誰も彼もが傘をさす。空は灰色になったけれど、窓から見下ろす街並みはずいぶんとカラフルになった。傘は個人を表す記号になり、店先には色とりどりの花が咲く。人気モデルが手首にぶらさげた傘は品薄になり、俺は雑誌の特集で真っ青な影からレンズを見つめていた。
     人々は傘同士がぶつからない距離感を学んで、今日もスイスイと歩道を泳ぐ。俺は事務所の窓から、咲き誇る円を縫う影を探している。
     牙崎漣。
     アイツはこんな世界に迷い込んでも傘をさそうとしなかった。小雨だろうが豪雨だろうが、お構いなしだ。雨ばかりの世界が始まって数週間のある日、ずぶ濡れで上がりこんできたアイツに文句を言ったらアイツは家にこなくなった。俺は吐いた言葉を飲み込むことができなくて、アイツに触れる機会のひとつを失った。
     円城寺さんはタオルを持ち歩く。プロデューサーは着替えを持ち歩く。俺は何もせずに、濡れ鼠になった猫を見ている。ドライヤーでも持ち歩けばよかったのかな。いや、別にいいんだ、メイク室にあるんだから。なんにもしてやれないまま日々は過ぎて、なんでアイツになにかしてやらなきゃならないんだって、もやもやとした気持ちを持て余す。そんな、献身的で、傲慢な気持ち。取り出した気持ちと善意の押し売りを箱の中に詰めて、それを更に押入れに仕舞い込んで蓋をした。

    ***

     この世界に降る雨は大抵は小雨だ。毎日大雨だと困ってしまうから、地球も気が利いていると思ったものだ。本当は晴れている方がいいけれど、数ヶ月もこの雨だから晴れている日は思い出に変わってしまう一歩手前だ。人々は今日も少しだけ重たい霧の中を歩く。俺は青地に白い猫が一匹住んでいる傘をさす。銀の猫は、この些細な軒先すら借りようとしない。なんだか俺がいじわるで傘が作り出す影から締め出しているようだ。少しだけ、バツが悪い。
     行き先は俺の家で、コイツはそれを渋っていた。それでも押し通したのは、押し入れの中身を見せたかったから。小雨なら濡れてるうちに入らない。だから、って。
     コイツは俺の言い訳じみた言葉を受け入れた。自分の可愛らしいパーカーが絞れるほどに濡れているのをわかっていて、俺の部屋のすすけた畳を踏みつけた。水滴を吸い込んだ薄茶色の表情は変わらない。俺の表情はどうだったんだろう。アイツが浴びるシャワーの音を見つめながら、ぼんやりと窓を滑り落ちる水滴を眺めていた。
     交代。風呂からあがるとアイツは外を見ていた。さっきの俺と全く一緒だったけれど、それは言う必要のないことだ。俺はアイツと目を合わさずに、押し入れを開く。
     蓋をした、箱を取り出す。
     収められているのは俺の心が帯びた温度だ。優しい気持ちとか、呆れた気持ちとか、施す気持ちとか、憐れむ気持ちとか。あとはなんだろう。捧げる気持ちとか、差し出す気持ちとか、優しい気持ちとか、そういうのがあったらいい。そんなごちゃごちゃとした気持ちが真っ赤な傘に閉じ込められて、丁寧にラッピングされている。
    「なんだぁ? これ」
     差し出された箱を見て、コイツは言った。見れば傘だって一発でわかるものを見て、そう言った。なんだ、ってのは俺の行動をさしている。俺がどんなに心を砕いていたって、口にしなければ伝わるものは少ししかない。
    「……似合うと、思った」
    「傘はささねえよ。邪魔くせえ」
    「知ってる。それでも、」
     傘を贈りたいって思ったのはなんでなんだろう。コイツに濡れてほしくなかったんだろうか。それともコイツに何かが贈れたら、なんでもよかったのか。もしかしたら、この傘をさして俺の家にきてほしかったのかもしれない。わからないけど、それを傲慢だと思うことはしたくなかった。家族に贈るように、友人に贈るように、恋人に贈るように、コイツにきれいにリボンをかけた気持ちを受け取ってほしかった。
     白く、細く、長い指が真っ青なサテン生地を解いていく。俺は心を暴かれているようで、少し背筋が固くなる。コイツはあっさりとボタンを外し、ワンアクションで傘を開いてみせる。
    「んー、やっぱめんどくせえな。手が空かねえのがうぜえ」
    「……そうか」
     残念だった。俺が好きでプレゼントしただけなのに、残念だった。赤い傘は白い蛇のようなコイツによく映えた。それだけで、この傘はコイツのために生まれたのにって根拠もなく信じ込んで、まるで親に捨てられた子のようだと同情してしまう。
     俺はどんな表情をしていたんだろう。コイツは何かに気がついたような顔をした。そして妥協点を探るようにして視線を泳がせて、大仰に口を開く。
    「……手が空かねえのがうぜえだけだ。これはもらってやるよ」
     だから、って。偉そうに笑う。ああ、これが見たかったんだなって心が揺れる。
    「これはチビが持つんだな! オレ様の頭に届くよう、チビなりに背伸びしてさしやがれ!」
     バカなこと言ってるな、コイツ。でも、こんな言葉を受け入れそうな俺だって大概だ。俺は青い傘を仕舞って、従者のように赤い傘を差し出して、コイツと並んで歩くのだろうか。そんなの、ずっと一緒にいないとコイツを雨から守れないじゃないか。
    「俺が濡れるのはごめんだぞ」
    「チビはチビだから、隙間に入ってろ」
     そういったコイツの耳が朱に染まっていたら何かが変わっていたのだろうか。コイツは相変わらず白い肌をしていて、俺を劇的に変えることはない。
    「ま、そういうことなら悪くねえ。色も嫌いじゃねーし、チビがオレ様に尽くすのも気分いいぜ」
    「尽くすわけじゃない。勘違いするな」
     じゃあ、どういうわけなのかと言われると、わからないのだけれど。
    「……あー、腹減った。おい、コンビニ行くぞ」
     そうやって真っ赤な傘を俺に手渡してくる。俺もコイツも、買い置きのカップ麺の場所を知っている。
    「……そうだな」
     俺たちは玄関の扉を開く。カンカンと階段を降りて、屋根の庇護下から這い出ようとする俺たちに降り注いだのは、雨ではなくて。
    「………………晴れた……?」
    「嘘だろ……?」
     日差しがうっすらと、雲を割って俺たちを照らしている。あちこちで悲鳴のような歓声が聞こえてきて、街中ではない俺のアパートまでパレードのような陽気が流れてはじけた。世界は作り変わってなんていなかった。ただ、ちょっとの気まぐれと偶然が続いただけ。
    「……どーすんだよ、それ」
     俺の手元で出番を待ち望んでいる赤を指す指は相変わらず白い。
    「……いつか雨が降るだろ」
     その時にさせばいい。その時まで、オマエがこの傘のことを覚えていたら、肩と肩を触れ合わせて一緒に歩こう。真っ赤な影の下で、普段とは違う響きに揺れる言葉を交わそう。
     何かが変わるとしたら、その時でいい。もう一度世界が変わるのか、俺たちだけが変わるのか。考えたってわからないことは置いておいて、とりあえずコンビニに行こう。いつもどおりの距離感で、俺は役目のない傘で片手を塞いで、オマエは相変わらず両手に自由をぶらさげて、二人で歩こう。
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    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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