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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    薫輝(2018/10/24)

    ##薫輝

    カレイドスコープ夢を見た。現実と地続きのようなそれは、一目で夢だとわかるようなものではなかったが、脳は正しくこれが夢だと理解していた。明晰夢というやつだろう。
    意識が浮上した時、そこは寝室だった。真っ暗なはずのそこは、なぜかぼんやりと薄暗い。夢特有の都合の良さに、妙に現実味を帯びた時計の秒針が響く。カッ、カッ、カッ、と。
    眠った時と寸分変わらない景色に、何故だか君だけがいなかった。二つ並んだ枕は片方だけがぽっかり空いていて、見慣れた赤い頭がないことに少しだけ苛立った。夢に腹を立てても仕方がないが、夢なのだから望み通りに世界が回っていたっていいだろうに。
    夢の中だが意識はある。手は思い通りに動いた。体を起こしても、違和感はない。もしかしたら、現実なのかもしれないと思うほどリアルな夢だ。
    眠る気にも、キッチンの方に向かう気にもなれなかった。何の気なしにカーテンを開けてみる。街の光で滲むはずの窓ガラスは相変わらず暗いままだ。
    窓を開けてベランダに出てみる。やはり街の明かりは見えず、変わりに僕を照らしたのは満天の星空だった。
    思わず息が漏れた。夢だからだろうか、夏の星座も冬の正座も存在するごちゃごちゃの空。その真ん中に一際輝く星があった。位置も高さもちぐはぐな場所にあったそれを僕は良く知っている。あれは、一番星だ。
    夢の中で目が覚めてから、ずっと探している男のことをより強く意識する。天道がこの星空を見たら、きっと誰よりも喜ぶに違いない。そう思った。
    天道に見せてやりたい。夢の中の天道だけじゃなくて、現実の天道にも。
    不可能だと知っている。夢は一人で見るものだから。それでも願わずにはいられなかった。僕の頭の中だけに存在する、この美しいものをどうにかして伝えたかった。
    「桜庭」
    天道の声がする。そんな遠くにいないでこちらにきてほしい。一緒にこの星空が見たいのに、意識はずるずると声のする方に引き寄せられる。
    「桜庭」
    柔らかい陽光のような声が、空を明るく照らす。星々が、滲んで溶けて消えていった。


    目を覚ましたとき部屋は朝日で明るくて、部屋にはコーヒーの匂いが漂っていた。
    二つ並んだ枕は相変わらず片側がぽっかりと空いていたけれど、視線をドアのほうにやれば見慣れた赤毛が顔を出した。
    「桜庭」
    夢で聞いた声だ。
    「おはよ。相変わらず寝起き悪いな」
    そう笑って差し出す手にはコーヒーカップがあって、いつも通りの休日が始まる。
    コーヒーを一口、夢の話をしようか少しだけ迷ったけど口を噤んだ。夢は一人でしか見られない。僕の夢を、誰も見ることはできない。それはきっと、悲しむようなことではない。


    この頃、ソロの仕事が増えたように思える。
    元々、経歴がバラバラの三人だ。バラエティに顔を出すようになってから、求められるものもそれぞれで違うものになった。天道は法律を扱う番組に出ているし、柏木はグローバルな番組に呼ばれている。
    僕は僕で忙しかった。2人に土産を買うような機会も増えた。今日もそんな日だった。
    柏木への土産はあまり悩まない。その場所で一番美味しいと思ったものを買っている。
    問題は天道だ。天道への土産が厄介なのだ。あの男は何でも喜ぶ。それも心から喜ぶからたちが悪い。正直に言えば癪なのだ。何を選んでも同じ反応と言うのは、逆に失礼だと思うのは自分だけだろうか。
    「気持ちが嬉しいんだよ」と天道は言う。それがわからないわけではない。だが、どうせなら土産そのもので天道を喜ばせてみたい。
    それでは何を土産にしようかと考えるのだが、あの男は必要なものは自分で揃えていて、物にはこだわりがあるように思える。ありあわせの、間に合わせのような物を所持していないのだ。認めたくはないが、天道の所持品はセンスが良い。だから、自然と天道が持っていそうなものは候補から外れる。
    そんなこんなで、土産はだいたいいつも食べ物や消耗品になりがちだ。今回もそうしようかと思ったところで珍しいものを見つけた。
    万華鏡だ。
    悪くないのではないかと思う。少し子供っぽいとは思うが、天道は子供じみたところがあるし、いいだろう。天道がそう言った訳ではないが、きっと天道はキレイなものが好きだと勝手に思っていた。それは願望のような思い込みだ。
    万華鏡を買い物かごに入れる。たくさんの菓子で埋まったかごの隙間に万華鏡は窮屈そうに収まった。


    結論から言えば万華鏡を天道が喜んだのかどうか、最初はわからなかった。万華鏡を渡した天道は、いつも通りに喜んでみせたから。
    ただ、食事が終わって風呂からあがると、先に風呂を終えていた天道が万華鏡を見ていた。声をかければ返事は返ってきたが、目線は万華鏡を覗いたままだ。気に入ったのだろう、と思う。
    「いやー、見てて飽きないもんだな」
    そう言ってくるくると万華鏡を回す天道を僕は眺めていた。
    「確かに飽きないな」
    「ん?何がだ?」
    「なんでもない」
    僕からは天道にどんな景色が見えているのか知る余地もないが、天道の表情は万華鏡のようにくるくるとめまぐるしく変わる。真剣に何かを探すような顔だったり、宝物を見つけたような顔だったり、なくしものをしたような顔だったり。それを見ている時間は存外悪くなかった。
    「あ!ちょっとこれ!これ見てみろよ!」
    「うるさい。だいたい万華鏡は一人で見るものだろう」
    「そーっとやれば大丈夫だって!」
    そう言って天道は万華鏡から瞳を離す。付き合うのも面倒だったが、放っておくほうが後々面倒なのも知っている。しぶしぶ万華鏡を覗き込んだ僕に天道が言う。
    「その、真ん中にオレンジの星が」
    「星?そんなものはない」
    「あー、動かしちゃったか……」
    想定内のことなのに本気で落ち込んでみせる。その真っ直ぐさは愛しくもあり、煩わしくもあった。
    「夢と一緒だ。同じ景色は共有できない」
    少しだけ、前に見た星空の夢を思い出していた。共有できない、美しいもの。
    「……俺たちの夢は一緒だろ。俺と、お前と、翼の三人は同じ夢を見てる」
    「どうだかな」
    僕の言う夢と天道の言う夢には差異があったが、些細なことだ。僕と天道は、いや、柏木も含めた僕ら三人は様々を分かち合ったが、根っこの部分がわかりあえていないことを知っている。
    「……そういうとこだぞ、桜庭」
    納得がいかないと言うような天道の声。付き合う前も、付き合うようになってからも飽きるほど聞いた声だ。僕らの間に些細な諍いは絶えない。
    天道は譲らないが、僕だって譲る気はない。いくら僕が天道を好きで、天道が僕を好きだって、お互いに知り得ないことはある。
    いつかの夢と同じだ。それはきっと、悲しむようなことではない。


    珍しく、三人のオフが揃った。天道が連れて行きたい場所があると言う。三人でだらだらするよりは建設的だろうと了承した。天道も柏木も嬉しそうで、悪い気はしない。
    新幹線に乗って西へ。そこからさらに電車に乗ってタクシーに乗って5分。しばらくして見えてきたのは小さな建物だった。
    十人も入ればいっぱいになってしまいそうな建物に入る。出迎えたのは様々な万華鏡だった。
    「わぁ~、キレイですね」
    「だろ!展示品もあるし、自分で万華鏡を作ったりもできるらしいぜ」
    「なんだ、万華鏡を作りにきたのか?」
    「違う違う、俺の目当てはこっちだ」
    そう言って進んだ先には入口があった。何か、箱のようなものへと続く入口。
    案内を見ると、『世界一の巨大万華鏡』と書いてある。
    「中に入って、一緒に万華鏡が見られるんだ」
    そう言って天道が中に入る。柏木が続いたので僕も続いた。僕は以前にした、天道との言い合いを思い出していた。


    「キレイですね……」
    「ああ……」
    「……悪くはない」
    自分ほどの大きさの景色が変化していく巨大な万華鏡は確かに美しかった。宇宙に投げ出されたような感覚がして、まるで明晰夢のようだ。
    「調べたんだけど、同じ模様の出る確率は4600億年に一回なんだってさ」
    「4600億年……」
    「それって、奇跡みたいな確率ですね」
    「ああ。俺たちは今、奇跡を見てるんだ」
    そんな話をしている間にも、景色はどんどん変わってゆく。きっと二度と訪れない光景が次々と顔を出す。
    「夢みたいだろ?」
    そう言って、天道は笑顔を見せた。
    「同じ夢も、奇跡も、俺たちは一緒に見られるんだよ」
    きっとこれはあの日への返答だ。4600億年の奇跡に照らされて天道が言う。
    柏木がそっと頷く。僕はと言えばまだ納得はしていないが、不思議と悪い気はしない。


    いつか、天道に話そう。夢に見た星空の話を。その空を一緒に見たいと願った、僕の心の話を。
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