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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    タケ漣ワンドロ11「よる」(2019/08/05)
    卒業(二人が高校生)

    ##タケ漣ワンドロ
    ##タケ漣

    宇宙でテレパス 名前も忘れた本で読んだんだ。夜は宇宙なんだって。
     
     
     虫の知らせとか、ましてや運命なんかじゃない。これは、たんなる偶然。たまたま、ボールペンのインクが切れただけ。
     コンビニで買える、缶ジュース程度の値段のボールペンが俺は一番気に入っていた。どうせ明日の朝、登校ついでに買うんなら、夜涼みがてら今買っちまえばいい。そう思ってパジャマ代わりのジャージのまんま、ポッケに財布だけ突っ込んで家を出た。財布の中身は見てないけれど、流石にボールペン代くらいはあるはずだ。余裕があったらスイカを模したアイスを食おう。そう思ってた。
     街灯があったってなくったって月なんか見やしない。それでも、月よりも街灯がやかましいと思ったのは蛾が集っていたから。セミの声に風情を感じることもなく、さっきまで書き取りしていた英単語を思い出そうとして曖昧なスペルを脳でなぞっていたときに、声が聞こえた。
    「おい」
     ふてぶてしい声だ。振り向くまでもない。そのふてぶてしさだけで声の正体がわかるくらい、ふてぶてしい声だ。
    「……なんでオマエがいるんだ」
    「こっちのセリフだ、バァーカ」
     牙崎漣。因縁と言うにはあまりに短い付き合いの男だ。数ヶ月前に転校してきて学年中の話題をかっさらっていった男が、街灯に照らされてぼやりと立っていた。大判のスポースタオルを首からぶら下げているが、ランニング帰りには見えない。
     俺は買い物だ、と言えば、つまんねぇの、と返される。その少しだけ上がった口角に向けて呟く。「じゃあ、オマエにはさぞかし愉快な用事があるんだろうな」。
     俺の嫌味がわからなかったのか、はたまた本当に愉快な用事があるのか、アイツはニタリと悪役のように笑ってみせた。そうして、偉そうに口にする。
    「チビも連れてってやろうか」
    『チビ』。因縁の始まりの言葉。そのトーンは数ヶ月前となんら変わらない。
     
     
     一目見たとき、すぐに気になった。だなんて言うと誤解されそうだけど、本当に気になったんだ。
     特徴的な声。見たことのない髪の色。俺とは違う目。お決まりの質問に「どっかそのへんから来た」と返す、なんだかズレたようなところ。感じたのは話してみたいって気持ちと、特別になれたらきっと誇らしいんだろうなって気持ち。
     休み時間になって、取り囲む人間すべてを無視して眠ろうとするコイツに駄目元で話しかけた。図書室の場所なんか、教えてやろうと思って。いきなり下の名前は呼べないから、「俺は大河タケル、よろしく。……なぁ、牙崎」って話しかけたんだ。そうしたらアイツは、初対面の俺に対して、一言。
    「は? なんだよチビ」
    「…………あ?」
     たった一人、返事をもらったのは俺だけだ。学級委員のおさげでもなく、クラスの中心にいるやつでもなく、一番かわいいクラスのマドンナでもなく、返事をもらったのは、俺一人。
     その一言で俺はコイツのことを二度と名前で呼ばないと誓ったし、コイツは周りに馴染むまで──いや、周りがコイツに馴染むまで──俺としか喋らなかった。

     
    「おい! くんのかこねーのかハッキリしやがれ!」
     数ヶ月前の付き合いでわかったことだが、コイツはたいがい短気だ。焦れたようなコイツに、なんて答えるのが正解なのかはわかっていた。断る。宿題があるんだ。オマエも家に帰れ。
    「……行ってやる」
    「オレ様が連れてってやるんだよ!」
     数学と同じくらい、コイツといるときは不正解が多い。
     それでも、不正解は間違いじゃない。大人が『青春』の二文字で鍵をかけたものの正体を、俺たちくらいの年頃はみんな理解してるもんだ。

     
    「不法侵入じゃねぇか……」
    「フホー? なんだって?」
     コイツは授業態度こそ悪いけれど、犯罪をするようなやつじゃない。みんなそう思ってる。きっと、ただ、ちょっと、一般常識を知らないだけ。
    「……勝手に入るのは犯罪なんだよ……」
    「あ? 地球はオレ様のもんなんだ。勝手もクソもあるか」
     そう言って、フェンスに空いた人間一人がやっと通れるくらいの穴からコイツは学校へと侵入してみせる。よくもまあ、見つけたもんだ。背の高い雑草に隠された通路を通りながら、少し感心してしまった。
     見つかったら絶対に怒られる。というか、警報装置とか、鳴るんじゃないか? そう思いながらもキラキラ光る銀のしっぽを追いかける。さくさくと、足音は裏手を抜けてフェンスにかかる。ぎし、と抗議の音が鳴る。
    「オマエ、ここって、」
    「くはは! 暑いときはここが一番だ」
     フェンスの向こうに見えていたのはプールだった。体育の授業で何回も見た、しょっちゅうトンボが寄ってくるいつものプール。そのプールサイドに、フェンスの上の方からコイツがすたりと着地する。フェンス一枚を隔てて、アイツが満足げに立っている。
     その瞬間、なぜだろう、俺とアイツを隔てるフェンスを見たら、とてつもなく憤りと途方も無い悲しみが押し寄せた。足元を飲み込みそうなそれから逃れるようにフェンスに足をかける。俺がフェンスを乗り越えたらアイツが変わらずに待っていて、それに心底安堵した。その理由はきっといつまで経ったってわからない。それでも、その後髪をつかもうと思案してしまう。
    「…………なっ、オマエ何して」
    「はぁ? 脱がなきゃ入れねーだろ」
     ぼんやりとしていたら、コイツがいきなり服を脱ぎだすから驚いた。着替えのときに見慣れてるはずなのに、意識したことなんてない真っ白い肌が月光を取り込むようにして浮かんでいる。温度の見えないそれに釘付けになっていると、突然コイツが視界から消えた。そして、どぼん、という音。
     少しだけ足元に水がはねた。そう思った瞬間、膝辺りまでがずぶ濡れになった。ハッとプールに目をやれば、パンツ一枚のアイツが楽しそうに俺に水をかけている。
    「いつまでボーッとしてんだ。オマエも入れよ」
    「……俺は水着を着てない」
    「オレ様だってそーだよ。いいだろ別に。パンツなくったってズボンありゃ帰れるだろ」
     聞くに、俺がいなければいつもコイツは全裸らしい。不法侵入に加え、露出か。罪状はなんて言うんだっけ。
     でも、パンツはいてればいいか。暑いし、ちょっとこのシチュエーションはワクワクする。ここまで来たのならやらなければ損という気もしてくる。断る理由よりも、プールに入りたい気持ちが勝った。ジャージを脱ぎ捨てる俺を見て、コイツが愉快そうに笑う。
     
     
     コイツはいつも俺に勝負をふっかけるけど、今夜はそんなこと言わなかった。
     ただのんびりと泳いで、俺に水をかけて、木の葉みたいにぷかり、真っ暗なプールに浮かんでみせた。
    『夜は宇宙なんだって』
     なんとなしに思い出したフレーズがふと真実味を帯びる。沈んでみせた真夜中が広がって、この二五メートル×六コースが宇宙になって、コイツのからだが惑星のように浮かんでいる。自分も一緒に浮かびながら、その銀河の一部になる。太陽を失った小さな宇宙。月だけが、枠の外と海の中、どちらからもこちらを見ていた。
     大きな満月だ。きれいだなって思ったし、その気持ちをシェアしたいと思った。だけど、国語の授業でふと先生が口にした雑学が、俺から「月がきれいだな」って声を奪っていった。あのとき、コイツはぐーぐー寝てたから気にすることなんてないのに。
     コイツも月を見てたらいい。そう思って横を見る。そこには誰もいなかった。
    「……え?」
     誰もいなかった。ただ、のっぺりとした真っ暗が広がっていて、そこに宇宙のきらめきなんて一つもなかった。ただ太陽が奪われて、暗く、冷たい舞台の裏側を曝け出している。
     さっきまで柔らかく火照った肌を包み込んでいた水が、急によそよそしく態度を変える。楽しかった夢が些細な掛け違いで悪夢に変わっていくように、現実感のない乾きに喉がひりつく。
    「…………おい……オマエ……」
     投げかけは、自分にしか聞こえないようなか細い声。それでも。
    「……………………牙崎?」
     瞬間。
     ざばっ! と大きな音がして、真っ暗闇の中からアイツが顔を出した。水面が揺らぎ、さざなみが生まれ、月明かりにキラキラときらめきながら水滴が飛び散る。そうして、水で髪をぺたんこにしたアイツが出てきた。イタズラが成功した時の子供みたいな顔で。
    「くっはは! 何ビビってんだよチビ! いなくなったと思ったか!?」
     その表情と言葉に、不思議と苛立ちは湧いてこなかった。ただ、そこにあることを、コイツがここにいることを確かめたくて手をのばす。ただ確認できればよかったはずなのに、俺の手は思いの外強い力でコイツの腕を掴んだ。コイツは笑ってたけど、それは水から出てきたときに浮かべていた笑顔とは本質が異なるように思えた。
    「……そんなにビビったか?」
    「…………わからない」
    「……イテーんだけど」
    「うん……」
     痛いとは言われたけど、離せとは言われなかった。だから俺はずいぶん長いこと、コイツの腕を掴んでいたように思える。
     ああ、心と体が合致しない。痛いって言われたのに、俺の爪はどんどんコイツの皮膚に突き立てられていく。でも、それ以上コイツはなにも言わずに俺と月を交互に見ていた。
     ずっと、水の中に居たんだ。俺もコイツもプールの水と同じ温度をしている。だから、俺とコイツの境界なんて、この薄皮たった一枚。それすら俺の爪が侵略している。ぷつ、と人差し指を立てた場所から感触がして、じわ、と滲んだ血がプールに希釈されて見えなくなる。
    「ごめん」
     何に対して謝りたかったんだろう。
    「……変なの」
     コイツは許す言葉なんてくれなかった。だけど、きっとそれは怒ってないからだ。怒ってないから、許すも許さないも、ないんだ。
     変なの。もう一回言って、またコイツが仰向けにプールに浮かぶ。それに倣って俺も浮かぶ。宇宙空間にたゆたう、たった二人。
    『夜は宇宙なんだって』
     溶けそうな意識に響く誰かの言葉。ここが宇宙だとしたら、たった二人は一人と一人になるんだろうか。声を運ぶ空気のない宇宙空間で、言葉は、意思は、気持ちは、どうやって結ばれるんだろう。
     一人と一人は嫌だな。きっと、気持ちが繋がれたら嬉しいな。数ヶ月前、コイツに話しかけたときと同じような気持ち。ただ、それを言葉にするだけの頭も、それを乗せる空気すら今はない。
     それでも空想してしまう。漫画みたいな超常現象。今だけ俺に目覚める力。
     テレパス、不思議な力でもって、コイツと心が繋がればいい。
     なぁ、そうして流しこまれた俺の気持ちを咀嚼して、この正体のわからない気持ちを暴いてくれ。
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    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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