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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    タケ漣ワンドロ16「いろ」(2019/09/06)

    ##タケ漣ワンドロ
    ##タケ漣

    影のてのひら その日は雨で、俺は憂鬱で、食べたメシは味がしなくて、つけっぱなしのテレビは頭に入ってこなかった。
     雨が降ればいいって思った。曇天を後押しするようにそう願う。星の見えない道、街灯がチカチカと瞬く道を歩いて、アパートの階段を上る。カンカンカン、って音ががらんとうの頭に反響してひどく痛い。俺はこんなにも雨音を待ち望んでいるのに。
     鍵を差し込まずにドアノブをひねる。がちゃがちゃと反抗的な音が脳を揺らす。カンカンカン、がちゃがちゃ。埋まる音を言葉にしてなぞる。観念したように鍵を差し入れる。なんとなしに、負けた気分になる。
     合鍵は作ったことがない。渡す相手なんていない。きっとここで倒れたら、俺を抱きかかえるやつなんて一人も居ない。死ぬ予定はないけれど、合鍵がほしくなる。受け取ってほしい相手を描く。乱雑にポケットにそれを放り込んで、勝手に上がり込んで我が物顔でテレビを見ているアイツが浮かぶ。
     ああ、雨が降ればいいんだ。
     雨が降ればアイツがくる。来ない日もあるけど、来ない日のほうが多いけど、アイツがうちに来るときは絶対に雨だから。
     雨宿りをしにきたくせに、アイツは『来てやった』という態度を崩しはしない。俺が屋根を貸してやってるんだ。普段ならそう思うはずなのに、今だったらきっと、『来てくれたんだ』って思うんだろう。
     つけっぱなしのテレビは消した。余分な感覚を削っていくように、部屋の明かりを消して目をつむった。そうやって、雨音を待った。本当に待っていたのは、誰かが階段を上がる音。カンカン、カンカン。
     一分か、一日か。暗かったからわからない。きっとこうなる予感があった。雨の音。ぽつぽつ、そうして、ざーざーと。全部の音をかき消して、世界をすべて洗い流すように。
     雨が強ければ強いほどいい。月を消し去って、アイツの居場所を奪ってくれ。自分の身勝手さに吐き気がした。なんでこんなことを思わないといけないんだろう。俺はただ、アイツに会いたいだけなのに。
     カンカン、カンカン。
     ハッと、音に身を固くする。待ち望んだ、恐れていた音がする。会いたい、会いたい、でも、こんな姿は見られたくない。泣きそうなのは嬉しいからか悲しいからか、怖ろしいからかがわからない。
     どんどん、って、音がする。逃さないというような、大きな、乱暴な音。待ち望んだ、愛おしい音。
     扉を開ければずぶ濡れのアイツがいた。不機嫌そうな顔は俺と真っ暗な部屋を見て、どうでもよさそうな驚きに変わる。こんなこと初めてのはずなのに、それなのにアイツはいつもの通りため息をついてみせる。こういうとき、コイツは騒がない。寄り添い方が、影に似ている。
     アイツは電気をつけると、まっすぐにケトルを手にとってお湯をわかす。そのまま風呂場に移動して、狭っ苦しいユニットバスにお湯を張る。沸いたお湯にティーバッグを入れて、一度だけ口をつけて俺に差し出してきた。俺は終始無言でそれを受けとる。コイツの体温じゃない、火傷しそうな暖かさが手のひらを満たす。
     アイツはタオルの場所を知っているはずなのに、髪も拭かないで俺の隣に座る。それは俺の望む距離だった。雨が降って、ずぶ濡れになってここにきて。でも、こんなはずじゃなかったのにな。俺は文句を言いながらアイツの髪の毛を乾かして、梳いて、増やしたマグカップで一緒に暖かいお茶を飲んで、買い置きのカップラーメンを一緒に食べたかったのに。
     胃に落ちた感情を溶かそうと、熱いお茶をすする。こうしてコイツが隣りにいてくれればいつか融解するはずの感情。それなのに、それなのに。
     コイツが立ち上がる。頭に手のひらが乗る。何か、コイツが言っている。読み取れない唇の動きを追う間もなく、コイツは玄関へ、まっすぐに歩き出す。
     認識が脳を焼く。腕を掴むはずの、伸ばした手。何を間違ったんだろう。気がついたら俺はコイツを抱きしめていた。一拍遅れで、フローリングをマグカップが転がる音が聞こえる。きっと、お茶がたくさん溢れた。そんなの、どうだってよかった。
    「……ここにいろ」
     ここにいろ、って。
     ここにいてくれ、って。言えたらよかったのか、わからない。でも、俺はコイツにお願いができなかった。俺はコイツにお願いをしない。仕事ならともかく、こんな、閉鎖された小さな箱では、言えないんだ。
     だって、オマエもそうだろう。オマエは俺にお願いをしない。きっと、二人して恐れてる。お願いなんてしたら、俺達の中の何かが変わってしまう気がして怖いんだ。こんなにも弱さを、醜態を晒してなお、そう思う。
     だからって、命令も何か違うのかもしれないけど。
    「ここにいろ」
     返答が降ってくるのを待っているのに、聞こえる音は階段の音。カンカン、カンカン、上っているのか下っているのかわからない、硬質で無機質な足音。俺が一人の部屋に帰る音。コイツが屋根を求める音。踏み外した時、オマエは手を取ってくれるんだろうか。引き上げられるのも落ちるのも変わらない。一緒なら、どっちだっていい。
    「……メシ」
    「え?」
    「メシ、買ってくるだけだ」
     笑いもせず、振り向きもせずに言う。
    「熱い茶飲んで、風呂入って、メシ食えば治る」
     だから、大丈夫だと言う。
     無責任だと思った。優しいと思った。突き放されたと思った。愛されていると錯覚した。
     この腕を離したら、コイツはどこに行くんだろう。行き先なんて近所のコンビニに決まってるのに、今離れたら取り返しがつかなくなるような気がして、俺はさらに力を込めてコイツを抱きしめる。
    「おい」
    「こうしてれば治る」
     だから、ここにいろ。三度目の命令。聞き覚えのあるため息。触れ合う手と手。
    「食いたいもん、買ってやるから」
     だから、と手を取って、コイツは俺が拘束を解くのを待っていた。俺が力を弱めた瞬間、手をひかれる。優しくもない、強引でもない力。そういえば、手と手が触れ合うなんていつぶりなんだろう。力加減に心当たりはなくて、もしかしたらこの手はうんと優しい手なのかもしれないと、ぼんやり考える。
     そうやって、俺たちはコンビニに行く。コンビニの自動ドアをくぐるまで、手をつないで歩く。俺はきっと、なんにも食べたくないのにコイツと一緒にカップラーメンを買う。目についた、どうでもいいカップラーメンを買う。
     本当は、ずっと手をつないでいたいのに。
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    Replies from the creator

    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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