十八歳友の会・八年目 時刻はすでに午前様。でもでもここは勝手知ったるれんの家。
あたしとロールが設立した『十八歳の会』も今や『二十六歳の会』。数年前から定番の開催場所になったれんの家に、都合のついた飲んだくれたちは集結していた。
もう八年。長いような、短いような。仕事に熱中して、環境も変わって、恋する人はしたりなんかして。深く関わったこと預かり知らぬこと、多々大小あれどあたしたちはそれなりの心情を共有しているわけで。
今日の話題、その中心はれんだった。いや、たけるだったって言ってもいいかも。恋バナ、って言ったら少しちがうかもしれないけど、あたしたちはれんがとってもたけるを大切に想ってて、同じくらいたけるに想われているのを知っていたから。
れんは口にしないけど、れんはお酒が好き。違うな、きっとお酒を飲んでるこの空間が好き。気を許した仲間と共有する、このまどろみと熱狂の中間みたいな時間が好き。酔ったれんは少し饒舌になる。あたしたちは今日、初めてれんとたけるの出会いの話を聞いたんだ。
「……なんだか、運命的だね」
話が一段落して、ロールが感慨深く呟いた。酔っぱらい特有の誰にともなく投げかけた問をあたしはキャッチして、ロールに代わって二の句を継ぐ。
「ほんと。だって……すごい偶然が何個も何個も重なって、今の二人がいるんだから。あの日、たけるの通り道にいてよかったね」
「オレ様の通り道にチビがいたんだよ……ヒック……それに、倒されちゃ、いねえ」
気絶した、ってとこまで説明しといて、倒されてないってのは通用しないぞ。れんって素直。こういうところがすごい好き。きっと、みんなもそう。
すごいなぁ、って。はるなが二度頷いた。ホント、すごいよね。れんはそれっきり黙っちゃったからそのあと何があったのかは想像の中だけど、そんなスタートからこんな関係になっちゃうなんて。
「運命のイタズラ、ってやつ?」
「神さまのお導き、とか」
ゆうすけときょうすけが笑う。でも、あたしたちはわかってる。夢を与えられて、夢に手を伸ばして、夢を振りまいて生きるあたしたちは知っている。神さまの気まぐれだとしても、結果を決めたのはあたしたち自身だってことを。
「……あたしはさ、二人の関係が愛に成れて、よかったと思うよ」
変な意味じゃなくて、二人は本当に愛し合ってると思う。想いあってるっていうのが正しいのかな。れんがたけるを見る目、たけるがれんに返す声。全部がたった一人のためにあるものだって、見ててわかる。八年前の二人を知ってるから、なおさら。
実は二人、本当にたくさんは変わってない。れんは相変わらずたけるに噛み付くし、たけるはすぐにムキになる。たけるの背がどんなに伸びたってれんはたけるを『チビ』って呼ぶし、お互いに名前を呼び合ってるのを見たことがない。きっとそれは変わらないことで、二人にとっては何よりの『特別』なんだ。
「てか、なんで……チビの話になってんだァ……?」
「漣が言い出したんだろ」
とろんとしてきたれんにはるなが笑いながら返す。きりおがしみじみと口にする。
「きっと、タケルクンもレンクンの話をしてるに違いないぞなもし!」
そうやって、たけるの模写をしてみせる。たけるの言わなそうな、甘い言葉なんかを追加して。
「ばっ……チビがんなこと言うわけねーだろ!」
「言ってほしくなったりしないんですか?」
「しねーし!」
もともと酔っ払って真っ赤なんだから、声を荒げたりしなきゃ照れてるってバレないのに。やっぱり、漣って素直。畳み掛けるゆうすけときょうすけの波状攻撃。
「でも二人っきりだと言われるんでしょ?」
「あれあれ? そう言えば二人ってどういう仲……」
「うるせー! 全員締め出すぞ!」
「え!? あたしも!? とばっちりだよー!」
「終電とっくにないんだけど」
「知るか!」
グラスを一気に煽ってれんがわめく。あたしたちはそれを笑って、それを合図に会話が切り替わる。
れんとたけるがどんな関係かはわかんない。あんまりこういう言い方は好きじゃないけど、俗に言う『世間一般』ではない恋仲じゃないのもわかってる。でも、それでも二人の絆は特別ってわかるから、幸せでいてほしいって思うんだ。