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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    タケ漣ワンドロ27「ごちそう」(2019/11/22)

    ##タケ漣ワンドロ
    ##タケ漣

    月夜の晩餐 コイツの意識がなくなるまで抱き潰さないと、って焦燥感がこの肺を焼くようになったのはいつからだろう。それは加虐心とか征服欲とか劣情や、ましては愛情なんかじゃなくて、純然たる恐怖だ。力の及ばない生き物がむやみやたらに暴力を振るうような幼稚な手段だ。大型犬を前に獰猛になる小型犬のように、噴き上がる衝動を押さえつけていられない。
     そのことに気がついたときの俺の心は俺にしかわからない。絶望なんて二文字じゃ計り知れなくて、呼吸の浅さだけが手がかりになるような、むりやり言葉にするなら靄の中でうろたえるだけの迷子のような心境だ。それほどまでに、今俺の下で真っ白な胸を動かしている、全てを暴いたはずの存在が得体のしれないものに見えて仕方がない。内側を暴いたはずなのに。心臓を飲み込んだはずなのに。
     さっきまで、たしかに繋がりあっていたはずだ。月はあまり傾いていないのに、途方も無いほど遠いビジョン。始めはじゃれあいで、半ば意地で、噛み付くようにもつれ合って絡まって溶け合って、最後はいつもバラバラに。粘膜が離れる時、いつもコイツが限界であることを祈っている。ピロートークなんていらないから、眠りの淵で目を閉じていることを願っている。
     コイツは限界のはずで、俺も限界だった。それでも祈るように捉えた琥珀は明確な意思をもってこちらを見ている。ああ、ダメだ、まだコイツには意識がある。決死の思いで放った必殺技を持ってしても化け物が倒れない時のヒーローの心境。もしくは悪役。ようは袋小路。
     琥珀のような目には何が閉じ込められているのかがわからない。ただ、そこには圧倒的な優位を感じる。これを見ると自分が本当にちっぽけな人間に思えて、五歳児みたいに泣きたくなってしまう。こんなところは円城寺さんにも見せられないし、コイツだって円城寺さんがいたら今こうやっておとなしく組み伏せられてなんていないはずだけど、もしもここに円城寺さんがいたら俺はその背中に隠れてしまうかもしれない。さっきまで体温を分け合っていたはずの、愛おしいはずの存在が、それくらい、遠い。
     コイツが口を開くと牙が見える。普段はそれで舌を噛んだらさぞかし痛いだろうとしか思わないけれど、こうして全部を出し切って二人向かい合っている時、その牙は俺の喉元を噛み切る想像を頭いっぱいに広げてくる。
    「……くははっ……」
     呆れたような、楽しそうな声。
    「あー……ごちそーさん」
     ぐっと俺の後頭部が掴まれて、引きずり降ろされて触れるだけのキスをされる。その牙は俺を傷つけることはないしその指は俺の髪をやさしく通り過ぎるのに、俺の背中はゾクリと凍る。うさぎが食い殺される前に自らを慰める脳内麻薬みたいに、恐怖とないまでになった欲に支配されて俺はそのままシーツに縫い付けていたコイツの呼吸を飲み込んだ。
     舌が絡み合って脳がビリビリと痺れる。俺もコイツも限界で、もう吐き出すものなんて何にもないはずなのに、俺はまだコイツにぶつける何かがこの体から溢れないか躍起になっている。それは心でも熱でも欲でもよくて、愛ですら投げ出したっていいのに、こわい、ってたった一言がどうしても形にならない。
     なんか、今ならわかる気がする。コイツが俺を受け入れた理由。俺はコイツがほしかったけど、コイツは俺を手に入れる確信があったんだ。
     きっとコイツは俺が好き、だと思う。俺だってコイツのことが好きだから、絶対に誰にも見せない情けない顔で無様に腰を振っている。コイツの普段とは違う声が聞けたら嬉しい。俺にだけ見せる顔があるのが愛おしい。コイツが俺の手で果てる瞬間に胸に広がる気持ちには嘘はないのに、ただすべてを終えて離れてしまったこの瞬間がどうしようもなくこわいんだ。
     ごちそーさん、ってなんだよ。俺がオマエを食ったんだ。オマエが唾液を飲み込めないほどぐちゃぐちゃにかき回して、その真っ白いとこ全部を汚して、オマエがオマエじゃなくなるくらい奥まで打ち付けて、俺がオマエを暴いたんだ。その証拠に、オマエは俺のこの、世界に取り残されちまったみたいなからっぽからくる震えを知らないだろ? 知ってて笑うならあんまりだ。馬鹿にするなよ。ほとんど泣きそうになりながら睨みつけた目は笑っている。琥珀に俺が映って、ああ、閉じ込められてるってわかる。
     やめればいいのに続けてる。だって、俺はコイツが好きだしコイツは俺が好きだから。普段はちょっと鬱陶しいけど横にいないと寂しいし、ラーメンだって他の誰でもなくコイツと一緒に食べたいし、俺のロードワークについてこれるのはコイツくらいだし、コイツがいないときっと俺ってアイドルは成り立たないし、コイツには外じゃなくて円城寺さんちでもなくて俺の隣にいてほしいし、正直やってる時の相性は最高だし。これくらい理由があれば好きって言ったっていいだろ? 好きでいたっていいだろ? もう手段が目的になってるみたいな意地だけど、俺はオマエが好きなんだよ。それくらい、わかってるくせに!

     それでも俺はとんでもない馬鹿だから、こんな恐怖は喉元を過ぎてしまえば忘れてしまう。
     今日も俺の前でにやにやと笑うコイツは、俺にとってはとびきりのごちそうなんだ。
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    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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