Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji ❤ 🌟 🎀 🍎
    POIPOI 417

    85_yako_p

    ☆quiet follow

    道漣。劇場版少女☆歌劇レヴュースタァライトを見てもらったお礼に書いた。推敲してない。(2021/07/07)

    ##道漣

    六畳一間ホームシアターバトル「円城寺さん、これ」
     タケルから差し出された袋の心当たりはなかった。大きさは台本よりは小さいほどか。バラエティの台本よりも一回り薄い。
     きょとんとしていたら、困惑はタケルにも伝播してしまった。タケルもきょとんとしたあとに、困ったような、苦いコーヒーを口にしたときのような表情をする。
    「えっと……アイツから聞いてないのか?」
    「……漣が?」
     要約するとこうだ。
     タケルと隼人、そして恭二の三人で映画の話をしていたらしい。とても面白い映画で、タケルはDVDを買ったそうだ。
     あそこが面白かった。ここが熱かった。そんな話に花を咲かせていると、ふらりとやってきた漣が聞いてきたらしい。
    「それ、おもしれーのかよ?」
     コイツが映画に興味を持つなんて珍しい。そう思ったタケルが言葉を返す前に、語らいあっていた熱をそのままに隼人がそのおもしろさを熱弁する。隼人の言葉と恭二の言葉に漣はふんふんと聞いているのだかいないのだかわからないリアクションを取った後、事も無げにタケルに告げた。
    「それ、らーめん屋に渡しとけ」
    「ん?」
    「え?」
    「え?」
     漣は隼人と恭二の疑問には答えず、タケルにだけ返す。
    「らーめん屋とオレ様で見る」
     そう言うだけ言って漣は立ち去ったという。タケルの困惑はもっともだし、残された二人の困惑はそれ以上だろう。なにせ、二人は──タケルと師匠以外は自分と漣がいわゆる恋愛関係にあることを知らない。ここは単純に、DVDを観れる環境のない漣がうちに来るというだけだと思っていてくれればいいのだが。
    「てっきり聞いてると思ってた。でもアイツ、円城寺さんになにも言ってないんだな」
     タケルは一瞬ムッとして、そのあとすぐに得も言われぬ顔をした。おや、と思えばチャンプへ向けるような声色で笑う。
    「円城寺さんと……恋人と映画が見たかったってことか。アイツにもそんなとこがあるんだな」
     うっすらと考えていたことだが、言葉にされると照れてしまう。すました猫がすり寄ってきたようなむずがゆさと愛おしさで身動きが取れなくなっている自分にタケルは言う。
    「恋人と見る映画かはわかんねぇけど、面白かったのは本当だ。楽しんでくれ、円城寺さん」
     次のオフはいつだったか。いや、漣は最近たいていは自分の家にいる。晩飯が終わってから見始めても翌日には響くまい。
     ポップコーンとコーラがあれば喜ぶかもしれない。じゃあ晩ご飯はホットドッグにでもしてみようか。たくさん食べ過ぎた漣は眠たくなってしまわないか。漣だってきっと映画を楽しみにしているから、眠ったりはしないと思うけど。
     考えると楽しくて愛おしい。このときの自分は漣があんなことを目論んでいるだなんて思いもしなかったのだ。

    ***

     夕飯はホットドッグにした。足りないと思って作った唐揚げは完食されたがサラダの人参は丁寧に残されている。ウインナーだけではなくコロッケや焼きそばやチョコやあんこなども並べたこの食卓を漣はいたく気に入ったらしく、次はチビとどちらが多く食べれるか勝負をするのでまた作るようにと笑っていた。
     満腹になった漣は珍しく横にならずにテレビの前に座り込んだ。やはり映画が楽しみだったんだろう。コーラとポップコーンを準備して自分も横に座れば、猫のように距離を積めてぴったりとくっついてくる。
     映画は面白かった。序盤から能力を使った派手なバトルで盛り上げつつ、少年の成長が描かれていてよい作品だと思う。声優に俳優が起用されていて、演技の仕方などは学ぶところがあった。ようは、ちゃんと集中して見ていたのだ。自分は。
     そう、自分は集中していた。だが、漣はそうではなかった。
     すす、とすり寄っていた漣はいま自分の膝の上にいる。あぐらの真ん中にちょこんと座り、テレビの画面ではなくて自分を見ているようだ。ようだ、というのはそのままの意味で、自分は映画を見ているので漣がなにをしているのかを正確には知らなかったからだ。思えば、見てたならそれは敗北だろう。そのとき、漣と自分は勝負の真っ最中だったのだから。
     最初は漣も映画を見ていたのだ。いや、いまから思えばあれは機を伺っていただけだ。猫が目をまん丸くして爪を研いでいるあいだ、自分はのんきに漣にポップコーンなんかを差し出しながら恋人の時間を享受していただけだった。
     映画も中盤に差し掛かる頃、漣が仕掛けてきた。ぱたんと膝に倒れてきたと思ったら、上半身とぐっと近づけて腰に巻き付いてくる。おや、と思った自分に投げかけられた声はコーラよりも甘かった。
    「らーめんやぁ」
     舌っ足らずな声だ。年齢よりもうんと幼い甘えを滲ませてこちらを見上げる瞳は、情欲よりは好奇心できらめいている。
     いきなりだ。そもそもいまは映画を見ているわけで、この映画は漣が見たいと言い出したものだ。それなのに漣は画面など意に介さずこちらにからだを預けてくる。
    「ん? どうした?」
    「んー?」
     漣が太股に頭を乗せてくつろぎはじめた。真っ白なうなじと、さらさらと流れる髪が心拍を乱す。
    「どうした、漣。映画はみないのか?」
    「らーめん屋、こういうの好きだろ?」
     唐突な言葉だった。漣は視線だけをこちらに向け、音もなく笑った。
    「……したくなったんじゃねーの?」
    「な、いまはしないぞ。何を言ってるんだ漣。映画が観たいんじゃないのか?」
     よしよしと頭を撫でながら宥めていたら、その手を取られてぺろりと舐められた。
    「映画のがいいなら、それでいいけどな」
     そう言いつつ、漣はこてんと力を抜いた。視線こそ退屈そうにテレビの方を向いているが、手持ち無沙汰にこちらの太股を撫でている。
    「れーん……」
    「んんー?」
     わかってきた。いや、わかったつもりになってきた。
     漣にとってこれは勝負なんだろう。勝負というか、遊びなのだろうか。きっとどこかで聞きかじった足下のおぼつかない恋愛の駆け引きに自身の最強大天才論を混ぜ、それを勝負事にこだわる気質でコーティングしたのち270度ねじ曲げて誕生した何かだろう。
     勝負というか、遊びというか。試されているようにもからかわれているようにも思えるが、いま自分が足をもつれさせたが最後、この猫におもちゃにされて転がされるのだ。
    「漣、映画が見たいんじゃないのか?」
     面白い映画と聞いてピンときたんだろう。悪巧みを思いついたと言ってもいい。
    「らーめん屋はどうなんだよ」
     つまり、映画と最強大天才の勝負なのだ。ライバルであるタケルが絶賛していた映画をほっぽりだして、自分が漣になびいたら漣の勝ちなんだろう。
    「試さなくても漣が一番に決まってるだろう。そういうことをするんじゃない」
     そんなことをするなんて漣らしくない。そんなことは言えなかった。漣を決めつける資格なんて自分にはないし、漣が変わったとしたらそれは自分のせいだという自惚れもある。
     抱きしめてしまおうかとも思った。映画なんていますぐ消して、このまま押し倒して漣の思惑通りにぐちゃぐちゃに混ざってしまおうか。そうしない建前は甘やかしてはならないという感情で、少しだけの本音は負けず嫌いな本性が首をもたげたというだけの話だ。
     流されてはいけない。漣の好きなようにはさせてやるし望みは出来うる限り叶えるが、叶えるのはこちらだ。主導権は渡さない。
     考えているうちに漣が動いた。のっそりとからだを起こしてぴったりと抱きついてくる。漣は密着する熱さをそのまま吐息にのせて耳元に囁きかけてくる。
    「らーめんやぁ」
    「…………したいならしたいって言うんだ。しないなら映画を見るぞ。漣がタケルに貸してもらえるように言ったんだろう?」
     背中をぽんぽんと叩いてあやす。そのままからだをテレビの方に向けてやろうとしたが思ったよりも動かない。それどころか、漣は自分のからだをよじよじと登り始めた。勝手に俵抱きされる体制になった漣はちからを抜いてくったりと寛ぎはじめた。猫は液体なんだっけか。だったら漣も液体だ。甘い甘いはちみつのような存在だ。
    「れーん、重たいぞ」
     顔の横にある尻をぺちりと叩いても反応はなく、やる気のない声が聞こえてくるだけだ。降ろそうとしてもぐにゃぐにゃになった漣はいつもよりも重たかった。体幹がしっかりとした漣は抱えたときに自分でバランスを取ってくれるから体重よりも軽く感じるが、こうやってみるとそれなりに重みがある。この背格好の人間を持ち上げたことはないが、漣は軽い方だと思う。思うのだが、いまは状況が状況だ。いつもは軽々と持ち上げている漣の重みに集中力が削がれている。
    「漣、いまいいところだぞー」
     映画は盛り上がりを見せている。さっき少しだけ内容が入ってこなかったから台詞の意味がほんの少しだけわからないのだが、自分はまだしっかりと映画を観ている。観ているのだ。
     漣はからだをよじって自分の首に巻き付いてくる。どれだけからだが柔らかいんだろう。するりと自分の手を抜けて、気がついたらまた自分の腕の中に収まって首元に鼻を寄せている。
     正直いい匂いがする。同じシャンプーと石鹸なのにこの違いはなんなんだろう。そんなことを思った矢先に漣は言う。
    「らーめんや、いいにおいがする」
     正直、たまったものではない。
    「……さっきのウインナーの匂いかな。肉は焼いたときに匂いがつくから」
    「らーめん屋の匂いだ」
     鼻先が頬に触れた。試されてて、遊ばれてる。腰を抱いて見つめれば蜂蜜色の双眸が細められる。期待か愉悦か、正体の知れない笑みをからだごとテレビに向け、こちらに振り返ろうとしたからだをがっちりと固定する。
    「…………らーめん屋ぁ」
    「どうした? わからないところでもあったか?」
     漣の肩にあごをのせながら観る映画は佳境を迎えていた。派手な爆発と主人公の雄叫び、悪役の断末魔とヒロインの涙。そして甘い匂い。
     ふわりと漂うシャンプーの匂いが集中力を削いでいく。自分からはウインナーの匂いがしているのに、なんでこの子はこんなにも甘くおいしそうなんだろう。
     漣の吐息が唇にかかる。漣に灯された熱をグッと押し込めて、その目を見つめ返す。
    「…………漣、大人をからかうと痛い目にあうぞ」
    「らーめん屋にそんなことできんのかよ」
    「……たまに、してるだろう。今度は泣いてもやめないぞ」
    「そーしろって言ったら?」
    「……そう、ねだるならな。ただ、こんなねだり方じゃあダメだ。ほら、映画も終わるぞ」
     少女と分かれた少年が次の旅へと旅立つ。ようやく、物語が終わるのだ。
     つまり、勝負は終わったのだ。思ったよりも大人げなくて負けず嫌いだった自分の勝ちだ。
    「……漣、ふてくされるんじゃない」
    「ふてくされてねーし」
     きっと気を損ねたに違いない。しかし、甘やかしてばかりもいられない。そう思い声をかけたが、思いの外漣の返答は楽しそうだ。
    「…………あの女の過去、わかるか?」
    「……主人公と昔にあっていたんだろう。ちゃんと観ていたからわかる」
    「それ、勘違いだったの観てなかっただろ。あってたのは双子の妹だ」
    「………………そうなのか?」
     完全に見逃していた。それを聞いた漣が笑う。
    「どうだかな。もっかい観てみりゃいいじゃねーか」
     我慢できるならな、と漣は八重歯を見せる。正直、スタッフロールが流れて何かから解放された自分がいることも事実で。
    「…………漣」
    「くぁ……集中力なくなってるらーめん屋は見てて面白かったぜぇ。じゃ、オレ様は寝る」
    「えぇ? …………なぁ、引き分けじゃダメか?」
    「なんのことだよ。らーめん屋は映画見てただけだろ?」
    「…………ふてくされてたほうがかわいかったぞ、漣」
     布団に戻ろうとする漣を抱きしめる。もう一度膝に乗せ、腕の中に閉じこめた。
    「なんだよ。もっかい見んのか?」
    「…………見ない。明日は昼からだから、セックスもしない」
    「つまんねーの。ま、今日のところはこれで勘弁してやるよ」
     自分は負けてない。が、漣のなかでは漣の勝ちということになっているらしい。
     まぁ、それくらいならいいか。漣は知っているのかわからないが、自分は負けず嫌いに加えてズルいところがある。自分は負けたことにして、腕の中のぬくもりに顔を埋めた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖🙏☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works