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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    鋭百と深爪とセックスとイチゴ味の話。(2021/10/31)

    ##鋭百

    君のための僕はイチゴ味 シアタールームってでっかい音を出してもいい部屋のはずなのに、なんの音もしてない。マユミくんの呼吸は一定で、僕は自分の呼吸になんて意識が向かなくて、心臓の音は平常だ。
     真っ暗な画面は始まりを待ってはいない。いまは、映画が終わったばっかり。それなのに僕らは感想も言わず、興奮も得ず、ただぼんやりといつものより近い距離で、この快適な空調の効いた部屋で体温をわけあっている。
     マユミくん、と呼びかけて彼の首筋に頬を寄せた。ゆっくりと血の通う感覚があって、ふいに首筋に歯を立てたくなる。イタズラをするつもりで口をひらけば頬を撫でられて、そのままマユミくんは僕の呼吸を飲み込んだ。舌が絡んで気持ちが良くて、もうマユミくんの首筋なんてどうでもよくなってしまう。背中に回された手に体重を預ければ、そのまま柔らかいソファに押し倒された。
     するんだろうな、って思う。映画を見終えたばかりのシアタールームは薄暗くて、マユミくんが妙にざらざらと映る。翡翠の瞳も、赤い舌も、思いのほか薄い皮膚も、全部スクリーン一枚を隔てているような感覚で、それは妙な安心感を伴った。
     明確に口にしないまま、僕はマユミくんのシャツに手を滑り込ませて皮膚を辿る。人の肌って気持ちいいときと気持ち悪いときがあるけど、マユミくんの肌はいつも気持ちよくて安心する。いや、安心したり、興奮したりする。いまは興奮するために撫でていて、興奮させるために触れている。そのはずだったんだけど、ふと僕は気がついてしまった。
     マユミくんの背中に、傷がある。
     びっくりして、つらくなって、思い至る。こんなところに、ひっかき傷のかさぶたなんて、僕には心当たりがありすぎてどうしようもない。
    「……マユミくん、服脱いで」
     マユミくんは素直に服を脱いだけど、僕が脱いでないことに少しだけ驚いたように口にする。
    「百々人のは、脱がせればいいのか?」
    「マユミくんのえっち。それはちょっと待ってて」
     腹筋を使って起き上がる。そしてマユミくんの肩を掴んで、くるっと後ろを向けるように力をいれる。意図を汲んだマユミくんは素直に背中を見せた。
    「…………やっぱり」
     やってしまったと、大きなため息を吐いてしまった。いや、こんなの呆れたいのはマユミくんだろうに。彼の背中には僕がセックスの時につけたであろう裂傷が数本、真っ赤なミミズみたいに這っている。どっからどう見ても、これはセックスの相手が引っ掻いた傷だった。
    「僕だよね……?」
    「百々人だな。俺は百々人と以外こんなことはしない」
     よかったけど、よくない。
    「……ごめん」
    「構わない。爪が伸びていたのだから仕方ないだろう」
    「……気づいてたなら言ってくれればいいのに」
    「俺がしたかったからな。知っていて止めなかったのだから俺の責任だ」
     そう言われると僕からはもう何も言えない。なんとなしに視線が下がれば、それなりに伸びた自分の爪が目に入った。
     マユミくんはこういうときはマイペースなもので、僕の爪なんて気にせずに僕をめちゃくちゃにしてしまうために首筋に舌を滑らせてくる。
     流されるまえに形の良い頭にチョップして、ほっぺを掴んで引き離す。ハテナマークを浮かべたシェパードのような目をじっと見つめて口にした。
    「爪切り貸して?」
    「む……」
     健全な男子高校生である僕の性欲がそれなりにあるように、健全な男子高校生であるマユミくんにもそれなりの性欲がある。せっかく出来上がったムードを壊すのはちょっともったいなかったけど、僕はマユミくんを物理的に傷つけたくない。壊れたムードにマユミくんは精神的にへこんじゃうかもしれないけど、そこは仕方が無い。
    「爪。切らないとまたマユミくんのことひっかいちゃう」
     じわじわと心当たりが広がっていく。いや、イメージする。きっとマユミくんでいっぱいになってしまった僕は気持ちがいいだとかもわからないくらいにめちゃくちゃになっちゃって、まるで蜘蛛の糸に縋る罪人みたいに彼の背中に手を回したんだと思う。ぎゅっと抱きしめて、それでも快感が逃がせなくて、無意識にねだったキスの熱を逃がすように爪を立てたんだろう。これは願望だけど、きっとそのときにはマユミくんも自分の背中なんて意識する余裕はないだろうから、終わってからシャワールームでボディソープがしみて気がついたんじゃないかな。誰もいない浴室で、シャワーの音にかき消されるマユミくんの小さな悲鳴を想像すると、ちょっと申し訳なくて、ほんの少し笑えた。
     マユミくんは、続行は不可能だと理解したらしい。待っていろと耳元で囁いて、シアタールームを出て行った。僕はシアタールームでぼんやりと反省してみせる。何気なく見た手元には、いつも通りの長さに整えた爪が悪びれもなく存在していた。
    「……アイドルって、深爪ダメなのかなぁ」
     そうなるとちょっと困る。でもダメって言われたら、僕は爪を伸ばす。その爪はマユミくんの皮膚をうんと傷つけて──いや、抱きしめるためのクッションでも買おうか。クッションなら口元にも持っていけるから、喘ぎ声を抑えるのはマユミくんの口付けじゃなくて布と綿になる。
    「待たせた」
     マユミくんが戻ってくる。爪を切るのだから、ということだろう。シアタールームにパッと光が満ちる。なんだかマユミくんの正しさみたいで、少し目が眩んだ。
     使い慣れない爪切りで爪を切る。パチリ、パチリという音を、マユミくんはただ見ている。視線が気になるけど、なんとも言えない。早く終わらせてしまおうと思って手を動かした。
     左手の薬指まで爪を切り落としてふと気がつく。口にすれば、それはなんとも愉快で滑稽だった。
    「ねぇ、マユミくん」
    「なんだ?」
    「僕、いま、セックスのために爪を切ってる」
     切って、の辺りで笑っちゃって、なんかダメだった。そしたらもうどうしようもなくおかしくなっちゃって、僕は控えめにくすくすと笑ってしまう。
    「……俺のため、だな」
    「セックスのためって、言ってるじゃん」
     マユミくんのポジティブを一蹴して僕は自虐してみせる。なんだか、ひどく自分が浅ましく思えた。セックスなんてマユミくんと以外はしないけど、あんな前後も左右も自分の名前もわからなくなるくらいドロドロになるために、僕はいま爪を切っている。パチリ、と言う音は、抱いて、という言葉と同意義だ。そして、その音をじっと聞きながら、マユミくんは僕を丸呑みにする瞬間を待っている。
     左手の小指、右手の親指、人差し指、中指、薬指、小指。君に食べられる準備が出来ましたって手の甲を差し出せば、その指をぺろりとマユミくんが舐めた。
     マユミくんは良く出来た男だから、きっと爪も揃っているに違いない。出会ったときの爪の長さなんて覚えていないけど、きっとその爪は僕のために短く切り揃えられてるはずだ。確認してやろうと両手を取れば、右手の人差し指と中指と薬指だけが妙に深爪気味だった。
    「うわぁ……露骨」
     気づかれる前に全部深爪にしたほうがいいよ。そう言えばマユミくんは悪びれも困りもせずに白状した。
    「さっき切ったんだ。やすりをかけるとなると、全部切っている時間がなかった」
    「なにそれ……期待してたんだ?」
     笑って、いつもよりちょっと短くなった爪を背中に回す。近づいた距離に我慢できなくなったのはお互い様で、そのまま貪るようにキスをした。
     舌が深く入り込んできて顎の裏側がくすぐったくなる。甘ったるい刺激はすぐにビリビリとした電気信号になって背筋から腰までを伝っていった。無意識に動いた腰を、普段の品行方正さでは考えられないほど行儀の悪い足が絡んで押さえ込んでくる。そのまま押し倒されそうになるからぎゅっと抱きしめて道連れにしてやった。密着したまま、自分でもびっくりするような甘ったるい声を形のいい耳に流し込む。
    「爪を切ったんだ」
    「ああ、見ていた」
    「君のため……君とのセックスのために。マユミくんもそうでしょう?」
    「そうだな。いままではこんなに短く爪を切ることはなかった」
     いつもだったら切り落とさない場所までゴミにして、マユミくんは僕を抱く。僕だって僕の体から僕を切り離してゴミにして、こうやって背中に手を回す。
    「全部そうなるのかな。僕も、切った爪も切った髪も、そうやってゴミになった僕自身もマユミくんの為にあるの」
     マユミくんは熱に浮かされているのか、ひとつ頷いただけだった。でもね、僕は天才じゃないけど、わかる。僕はアイドルのために爪を伸ばせって言われたら爪を伸ばすし、髪の毛だってマユミくんのためには切らない。マユミくんがたとえ坊主が好きだって言っても、宣材写真が坊主じゃない以上、僕は坊主にはなれない。
     アイドルになって、成功したい。ぴぃちゃんのためになんでもしてあげたい。マユミくんに全部あげちゃいたいけど、僕は僕のことを半分も持っていないんだ。
    「……ねぇ、マユミくんと夏祭りに行きたいな」
    「二人きりでか?」
    「アマミネくんが拗ねないかな? 別に三人でもいいよ。ただ、そうしたら一瞬だけ僕らははぐれてさ、誰もいない暗いところでキスをしよう?」
     舌なら、まぁ、あげてもいいのかな。ましてや、一過性の甘さなんて。
    「…………マユミくんはかき氷、何味が好き?」
    「……いちご」
    「ふふ、かわいい」
     かわいいかわいいかっこいい人がとびっきりのおやつを我慢するような目でこっちを見ている。それでもちゃんと僕の無駄話を聞いてくれるから、僕は上機嫌になって言葉を紡ぐ。
    「僕ね、キスの前にイチゴ味のかき氷を食べるよ。だから大好きなイチゴ味になった僕の舌を舐めて? 味がわからなくなるまでキスしよう」
     それだけ、って呟いたら彼の食事が始まる。唇に噛み付いて、舌を入れて、首筋を舐めて、僕のいいところを全部なぞって、深爪になった指先で知らなかった部分に触れる。
     花火みたいな酩酊が頭の中でちかちか光る。そういえば、電気を消してって頼むのを忘れてた。
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