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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    鋭百。らぶらぶです。
    同性婚の話をするし、それに対して楽観的です。(2021/11/03)

    ##鋭百

    まほろばレイトショー「マユミくんとラブホに行ってみたいな」
     唐突な言葉は脈絡がない。ただ、それは俺の意識を目の前の映画から簡単に引き離す。アクションシーンの爆発の音が少しだけ遠くなって、俺はただ横に座る百々人の顔を見た。
     百々人はこちらを見ていた。いつからそうしていたのだろう。百々人の目線は俺の鎖骨の辺りと瞳を行ったり来たりしていて、映画で画面がちかちかと光るたびに瞳の明暗が踊る。欲を煽るような言葉とは裏腹に、その視線は申し訳なさそうにおどおどとして痛々しかった。
     百々人にはこういうところがある。たまにふと願いを口にしてみせては怯えるような、試すような目でこちらと見ていることがある。例えば自分には子供はいないけれど、叱られた子供が母親の機嫌を伺うときにはこういう顔をするのではないかと考えてしまう。そういう目だ。
     願いがあって、口にする。それを断られるのが怖いのだろう。それは理解できた。しかし、百々人はその願いが叶うことすら恐れている節が見受けられる。是でも、非でも、他者からの感情を恐れているのだろうか。それはこうして二人きりでシアタールームに籠もって映画を見たり、キスをしたり、バレたら大変なことになるなと思いながらセックスをするようになってからも変わらなかった──否、こういうことをするようになって初めて見えるようになった百々人本来の特性だった。
    「……セックスがしたいのか?」
     さすがにここでは気まずいのだろうか。まぁ、確かにここは俺の家で、ほとんど俺が使っているような部屋だが、正確には俺の部屋ではない。ただ、俺たちはこの場所じゃなければムードが出ないうえに、俺の部屋ではなにもやることがない。俺の部屋に連れ込むなんて、それこそセックスをしようと告げているようなものだ。どちらかが、あるいは双方がしたい、と思っても、まずはこの薄暗い部屋で肩を抱いたり、キスしたり、見つめ合ったりと手順を踏まなければ俺たちはなにもできなかったのだ。
     しかし申し訳ないことをした。ただ、百々人は嫌がる素振りを見せたことがない。それがマイナスの感情を飲み込んで吐き出した甘言ならばと考えると、申し訳ないような、裏切られたような気分になる。
     ラブホテルに行きたいだなんて、理由はひとつしかないだろう。そう思えば、先ほどの自分の発言は間抜けな質問だったと思う。しかし、それに対しての百々人の返答も同じように蒙昧なものだった。
    「セックス? ……ああ、うん……したい。だから、ね?」
     まるでラブホテルとセックスが結びついていなかったようだ。少しだけ意外そうに口にする百々人の表情がスクリーンに映る爆破シーンにあわせて薄ぼんやりとオレンジに滲む。少しだけ映画の音が戻ってくる感覚がした。
    「……百々人の年齢ではラブホテルは使用禁止だろう。俺は十八才だが高校生だから条約に引っかかる。セックスがしたいなら、俺の部屋があるから、そこで」
     うん、と頷いてそれきり、百々人は黙ってしまう。表情は全く悲しそうには見えないが、何かが損なわれたことは手に取るようにわかった。また傷つけてしまったと、悟られぬように後悔する。取り返しがつかないことではない。それなのに、妙に心がざわざわとして仕方が無い。
    「……あのさ、」
    「ん? なんだ」
    「じゃあ、僕らが高校を卒業したら、いい?」
     百々人の指先が伸びて、俺のシャツの裾を弱々しく掴んだ。ああ、いまこの目の前の人間は、勇気を振り絞っているのだとわかる。思い至った。百々人が欲しいのは誰にも邪魔されずにセックスができる場所ではない。
    「……ああ。だから心配するな。一年経とうが、高校を卒業しようが、俺たちは今のまま……いや、今よりもよりよい関係を築いている」
     だから不安がることはないと告げる。きっと百々人は未来の約束がほしいのだろう。そうではないとしても、どんな未来がこようとも、その指も、からだも、心も、何一つ逃す気は無いことだけは伝えておかねばならない。百々人は他人の表情を読むことに長けているが、たまにとんでもない勘違いをするときがある。それには大抵自己評価の低さが伴っているから、何度も言葉にして伝える必要がある。
    「好きだ。それは生涯変わらない」
    「……そういうこと、言っちゃいけないんだよ。世の中に絶対なんてないんだから」
    「絶対はある。人は必ず死ぬ。太陽は必ず昇る。雨はいつか止む。それと同じ事だ」
     それは美しい反面痛みも伴うことも理解していた。夜明けを望まない日もある。雨に濡れていたい日もある。百々人が俺から離れたくなる日がくるかもしれない。そういう願いをねじ伏せるような、暴力的な希望と隣り合わせにこの愛はあった。
    「……ふふ、スケールがすごく大きいね」
    「百々人も同じ気持ちで……同じ覚悟でいてくれないと困る」
     部屋に響いていた音が映画のようなタイミングで消えて、沈黙が俺たちの声を浮き彫りにする。どこか楽しそうな百々人の声と俺の声はすぐに空間に飲み込まれて、繋ぎ止めようと見つめた瞳はスクリーンからの光を失って、薄暗い灰色のフィルター越しに甘く歪んだ。
     ざらざらとした暗がりに、徐々に目が慣れていく。どうしようもない距離は触れないと確かめ合えない。そっと近づいて肩を触れあわせれば、百々人の手がじゃれつくように俺の腰にまわされた。
    「ねぇ」
    「ん、」
    「僕ね、マユミくんとカラオケでオールもしてみたい。本当はアマミネくんもいれてあげたいけど、先にふたりで行っちゃおうよ」
    「ああ」
    「嬉しいなぁ。あとね、僕はマユミくんとレイトショーにも行ってみたい」
    「レイトショーは俺も行きたいと思っていた。……百々人が行けるようになるまで待っていよう」
    「いいよ。先に行って慣れておいて」
    「なら、完璧にエスコートする」
     アイドルなら、ここで手を取ってキスをするべきだろうか。しかし今の俺はアイドルではなく目の前の愛おしい人の恋人で、なにより腰に回された体温を無下にしてまでやりたいことではない。
    「……二十歳になったら、酒を飲もう」
    「うん」
    「あとは、なんだろうな。煙草は吸う予定がない」
    「僕も」
    「そうだ、結婚もしよう。二十歳になれば親の承認はいらない」
    「……え?」
     百々人がきょとんとした顔でこちらを見る。抱きつかれているから百々人の視線は自然と上目遣いになって、とても愛らしい。
    「結婚、してくれるの?」
    「する」
     想定外のような表情で、百々人は驚いたように呟く。半分は独り言のようなそれに端的な返事を返せば、百々人はこちらの意図を探るように弱々しく口にした。
    「……いまって、男同士は結婚できないよ?」
    「法改正まで待てばいい。俺たちが変わるように世界も変わる」
     ずっと一緒にいる予定なのだから待つぶんにはなんの問題もない。俺たちが年を重ねて変わっていくように、世界も、変わるだろう。
     楽観的だろうか。百々人はいちど俺をぎゅっと抱きしめて、意を決したように口にした。
    「……レイトショーの帰りにさ、夜中に出そうよ。婚姻届」
    「夜に出せるのか?」
    「確かそうだよ。調べて見ないとわからないけど……」
     双方、調べる気はおきなかった。百々人が抱きついてきたまま俺の胸に頭を預けるから、俺も百々人をそっと抱きしめる。
    「レイトショーってビール飲めるんでしょう? だから、レイトショー見て、ビール飲んで、感想を言い合って、その足で役所に行ってさ」
    「そうだな。婚姻届を持って行って、そんなことを誰にも気づかれずに映画を見よう」
    「……あはは、なんか、おかしいね」
     抱きしめた百々人が囁くように笑うから、少しだけ髪が揺れてこそばゆい。ふわふわした髪に埋もれるように唇を寄せて、つむじのあたりにキスをする。
    「……そんな未来、くるのかな」
     それは、世界に対する不安ではないとわかっていた。
    「必ずくる。いつか、きっと」
    「あ、スケールの大きい『絶対』だ」
     くすくすと笑う抱きしめた百々人はあたたかくて、なんだか甘い匂いがする。こうやって肺一杯に満たされると俺は腹が減ったり眠たくなったりしてしまって、今日は少し眠くなった。眠いというか、いますぐ百々人を抱いて夢の世界に踏み入れてしまいたくなる。体温を分け合って、一緒に眠りたい。
    「映画、もっと見る?」
    「……いや、百々人がいいなら、もう少し……このまま」
    「マユミくん、セックスしないで抱き合うときはいつも寝ちゃう」
     僕も寝ちゃおうって呟いて、百々人は俺に体重をかけてソファーに押し倒す。どかしてしまうより、俺は翌日のからだが痛むことを選んだ。映画を見ていて眠ってしまったということにして、今日はこのまま眠ってしまおう。
     俺たちも変わるから、世界も変わりますように。できれば、百々人がより安らげるように。こんな時間になっても叱られることのない百々人のことを考えて、俺は目を閉じた。


    ***


    「変わらなかったねー!」
    「そうだな。まぁ、また今度だ」
     念願叶ったレイトショーの帰り道、百々人は心底楽しそうにそう言った。俺のカバンのなかには記入済みの婚姻届が眠っているが、世間がそれを認めるまではもう少し時間がかかるらしい。
     歩道の段差を平均台のように使ってふらふらと歩く百々人の手を握ってこちら側に降ろす。車がきたら危ないと告げれば、百々人はニコリと笑った。少しだけ、アルコールの匂いがする。
     俺たちは二十歳になって、変わって、こうやってレイトショーにきて酒を飲んだ。いや、変わったのは俺たちではなくて、世間なのかもしれない。俺たちを子供と見なしていた世間が、俺たちを少し大人だと認めただけ。
     俺たちは変わらずに愛し合っているし、世界は変わらずに俺たちの関係を認めない。でも、いつかは結婚できるという確証がある。あとは八十年俺たちが生きて愛し合うのだとしたら、少しくらい気の長い話になっても構わない。
    「婚姻届、どうしよっか?」
    「……秀にでも出すか?」
    「あはは! じゃあアマミネくんに誓おうか」
     ちょうど秀はミュージカルで神父の役をやったばかりだ。名演だったから、秀に祝われるのは悪くないだろう。
    「アマミネくん何て言うかな」
    「……別に、驚かないと思うが」
    「そうだね。今からアマミネくんに婚姻届出しに行っちゃおうか」
     俺たちの関係を、その想いの深さを知っている秀は婚姻届には驚かないと思うが、流石にこの時間は別の要素で驚くだろう。秀は俺たちに比べるとだいぶ夜更かしをするが、それはこの時間に押しかけていい理由にはならない。そもそも、電車もない。
    「出すなら明日だな」
    「本当に出しちゃう?」
    「出してもいい。取って置いてもいい」
     繋いだままの手から、じわりと熱が伝わってくる。この温度が続く限り、絶対はある。
    「百々人」
    「……なぁに?」
    「長生きしよう」
     俺の言葉に弾かれたように笑った百々人が繋いだ手に力を込める。未来の全部が俺は楽しみで、それは百々人も同じだという根拠のない気持ちがあった。
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