Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji ❤ 🌟 🎀 🍎
    POIPOI 424

    85_yako_p

    ☆quiet follow

    百鋭。おなかのすいた百々人くん。
    100本チャレンジその18(2022/2/6)

    ##百鋭
    ##100本チャレンジ

    最初で最後 目が覚めて悲しくなった。どうしようもなく、僕はおなかがすいていた。
     視界にはマユミくんの部屋がぼんやりと映っている。僕は寝返りを打つ。そうすると、目を閉じて規則的な寝息をこぼすマユミくんが当たり前にそこにいた。
     片手の指では足りないほど、こうやってマユミくんのベッドで眠ったことがある。こんなに大きな家に客用の布団がないわけなんてなくて、つまりはそういうことだ。ただ伝えたい気持ちと性欲がどうしてもうまく噛み合わなくて、ちぐはぐなまま指を絡めたり、抱きしめあったりして夜を過ごした。
     ここは僕の家じゃないから勝手に食べていいものはない。マユミくんは寝ているから空腹を訴えることもできない。もっともマユミくんが起きていたとしても、何かをうまくねだるというのは僕にとってはとても難しいことだった。冗談混じりに笑うか、表情を崩さずに我慢するか。それが僕に取れる『最善』だった。
     正しく眠るマユミくんの手を取った。僕より少しだけゴツゴツした、それでも高校生の枠にぎりぎりに収まるような、そういう指先をしている。うまく見えないけれど、なぞった爪は少し短めに切り揃えられていた。
     小指、薬指、中指を辿って人差し指をきゅっと握る。僕よりも温かい指先を数度弄んで、思いついたようにその指先に歯を立てた。
     僕の指じゃないから痛みは感じない。マユミくんが目覚めない程度の力でその指を噛む。もっと深く咥え込めば舌が指の腹に触れた。
     こうやってマユミくんの体温を感じるとき、僕は命について考える。死にたいと思ったことはないけれど、死ぬとしたら僕はおなかがいっぱいのときに死にたかった。
     空想がある。僕は渋谷なんかを歩いている。少し大通りから外れると道のすみっこに鈍色のアクセサリを並べる老婆がいて、僕を視界に納めると、黄ばんだ歯を見せて魔女のように笑う。
     興味に少しの嫌悪を混ぜて僕は近寄る。ふと、指輪を見つける。目立たないそれからうまく視線が逸らせなくて、それを見た老婆がしわがれた声を出す。
    「お目が高いね。それを使えば、あっという間にバケモノになれるよ」
    「……バケモノ?」
     ずいぶんと幅の広い指輪だ。見たことのない模様がびっしりと彫られていて、触れるとくぼみに指が引っかかってなんだか好ましい。
    「これください」
    「はいよ」
     僕はなにひとつ対価を払わずに、指輪をポケットに突っ込んでまた歩き出す。
     そうやって手に入れた指輪がこういう夜中に、マユミくんから借りたパジャマのポケットに入っていないかな、だなんて考える。僕は空腹に耐えられず、ごめんなさいと呟いて左手の薬指に指輪をはめる。
     ゆっくり、僕はバケモノになる。目がみっつになって、爪がうんと伸びて、牙が鋭くなる。あとは、よくわからない。ただ、牙が立派で顎が強い。それだけのバケモノに、僕はなる。
     バケモノはマユミくんの指を取ることもなく、いきなり脇腹に噛みついて内蔵を引きずり出す。マユミくんはそんなことになっても規則正しい寝息を保ったまま、なにも疑うことなくバケモノになった僕に食べられてしまう。
     ニンゲンなんかみたく、食べ散らかしたりバラバラにしたきり残してしまったりなんてしない。僕はライオンみたいに、あるいはハイエナみたいに、ひとかけらも残さずにマユミくんを食べる。シーツに奪われる前に血液を飲み干して、肉を引きちぎって、骨だって噛み砕いて全部を胃袋に納めてしまう。そうして、体を極力小さくして目をつぶりたい。もうなにも食べたくない。喉を潤した血液が乾いて息がひりついても、なにも飲んだりしない。
     死にたくはないけど、死ぬのならおなかいっぱいになって死にたいけど、バケモノになった僕はゆるやかな死を選ぶ。喉が乾いて、おなかがすいて、僕は誰にも気づかれずに、マユミくんだけを抱えたまま終わる。
     そんなことをするなら、初めからマユミくんのことは食べちゃいけないんだ。なにも食べず、飢えたまま死んだ方が、絶対にいい。それでも僕は半ば自暴自棄になって、バケモノになって彼を食べる。
     理想なんだ。キミの最期は僕が良いし、僕の最後はキミがいい。
    「……マユミくんの全部をください」
     マユミくんの指先からはぐれた唇で、そっと彼の額に触れる。
    「僕の、最後の恋人になってください」
     おなかがすいていた。マユミくんを起こすことは出来なかった。マユミくんが起きていたって、こんなことは言えないんだけど。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘❤💞👏👏💞💞❤💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works