ライフイズファンタジー「僕はアマミネくんが嫌い」
この人ともだいぶ仲良くなれたと思えてきた矢先、百々人先輩が歌うよう囁いた。なんだか楽しそうだから、そこだけは好ましい。
「……理由を、聞いても?」
思い出したように、ひさしぶりにこの人が少しだけ怖くなる。表情には出なかったんだろう、俺を気にせず百々人先輩は笑う。
「キミが世界の主人公だから」
「は……?」
「それでね、僕はラスボスなの」
そうして百々人先輩は人差し指をくるくると動かした。その動きに合わせてレッスン室の鏡にひびが入る──なんてことはない。起こるわけがない。
「主人公とラスボスが仲良くなっちゃったら、ハッピーエンドになっちゃうでしょ?」
ぴた、と止めた指を百々人先輩はそのまま俺に向けて告げた。
「エンディング、わかる? 世界が終わっちゃうんだよ」
だから好きになっちゃいけないの。そう言って百々人先輩は可愛くもない泣き真似をしてみせる。
「……いいんじゃないですか、悲恋。エモいってやつですよ」
昔の映画のように、その人差し指に俺の人差し指をぴたりと当てる。
「否定しないんだ」
「百々人先輩がラスボスでも、別にいいって思うから」
そう口にすれば百々人先輩の指先がそっと離れていった。百々人先輩が閉じたまぶたで、紫陽花のような瞳が隠れる。
「……違うよ。キミが世界の主人公だって話」
そういうとこ、と百々人先輩は呟いた。
「別に、誰だって主人公でしょ。それぞれに人生があるんだから」
「……やっぱり嫌い。はい、エンディングにはなりません。世界はまだまだ続きまーす」
百々人先輩はレッスン室の床にごろりと寝転んでしまった。その隣に同じように寝転び、顔を近づける。
「……なぁに?」
「いまやってるゲームにキスする攻撃がありますよ。俺はそれに弱くて」
「はたくって技もあるよね」
百々人先輩の平手が、不埒な俺の額をぺちりと叩いた。