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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    Fesの鋭百(ウォーリア×アサシン)です。
    全部幻覚!(22/7/1)

    ##鋭百
    ##ウォリアサ

    ビショップは奪われてしまった 一息に飲み干した液体が喉を焼く。吐いた息からアルコールが香って酩酊を加速させていく。酒には疎いから味などわからない。ただ、ダイスで選ばれたのがこの無味無臭の毒だっただけだ。
     6が出たらアルコールそのものみたいな酒、2が出たら赤ワイン。残りがなんだったかは覚えていないが、5が出たことだけは覚えている。だからウォッカ、のはずだ。ウォッカが、脳をぐちゃぐちゃにかき回している。
    「マユミくんと戦いたい」
     それはモモヒトの口癖だった。ことあるごとに、それこそ挨拶のようにモモヒトはその言葉を口にする。俺の返事は大抵NOだが、それではフラストレーションも溜まるだろう。だから定期的に模擬戦で相手をしているのだが、最近はその頻度がやたらと増えてきて困っているのだ。
     相手をするのは別に良いが、戦いに依存しているモモヒトを見るのは心配だった。もともとコミュニケーション不全らしいモモヒトは組織内でも浮いていて、まぁ本人が気にしていないのに俺が気にする義理もないのだが、性分として放ってはおけない。だから俺以外ともコミュニケーションが取れるように、交流としての勝負を提案した。チェス、ポーカー、ジェンガ、オセロ、ああ、しりとりなんかもやったはずだ。モモヒトは何をやってもつまらなそうに投げ出したけれど、チェスだけは続いている。続いていると言ってもまだ3回目だが、モモヒトが戦い以外の何かをするのは珍しい。
     今日のチェスはモモヒトが持ち込んだものだった。モモヒトは私物をなにも持っていないので俺が勧めたものに興味を持って購入まで至ったのかと思ったら少しだけ気分がよかったが、このチェス盤はおかしい。その時点で断ってしまえばよかったのだが、初めてモモヒトが「キミとチェスがしたい」と呟いたのが俺には思いの外嬉しかったようだ。モモヒトが命のやりとり以外で俺と関わろうと言ったことが、俺は嬉しかった。
     ぐらぐら、揺れる腕が手元のショットグラスにぶつかれば、一カ所に集められたたくさんのグラスたちが互いにぶつかって音を立てる。俺の手元にグラスがやたらとある理由はこのショットグラスがチェスの駒だからだ。キング、クイーン、ルーク、ビショップ、様々な駒が描かれたショットグラスはシンプルで、インテリアとしても見栄えするだろう。そんな優雅なものに、さっきまでウォッカが満ちていた。
     チェスは相手の駒を奪い進めていくゲームだが、今回はルールとして、その駒──グラスを取ったら、そこに満ちた酒を飲まなければならない。何をバカなゲームだと思ったが、ハンデだとモモヒトが言ったときに絆されたのも事実だ。モモヒトが弱みを晒して希望を口にしたとき、俺はそれを断れないのだと初めて知った。
     チェスは俺の方が強い。モモヒトが弱いとも言える。だから駒を取れないモモヒトはまだ酒をろくに飲んでいないし、そもそもこの男は毒にも痛みにも酒にも耐性がある。俺は自分が酒に弱いと思ったことはなかったが、どうやら飲めるほうでもなかったようだ。いや、ウォッカをここまで飲むほうがおかしいんだ。チェスの駒にしては少し大きいグラスを見ながら心の中で悪態をつく。これは確かにハンデになりえるだろう。「マユミくん」と短く冷たく俺を呼ぶ声が聞こえて、自分の手番だとようやく気がつく。掠れた甘い声が脳内で反響していて、意識が飛びそうだ。
     自分の駒を取れば、手が震えてグラスの酒がぽたぽたと零れてしまうがどうにもならない。白と黒で構成された世界に馬を走らせれば、それをモモヒトが鼻で笑う。モモヒトはそのまま俺の駒に手をかけて酒を一気に飲み干した。空いた空間に、モモヒトのクイーンが腰掛ける。
    「マユミくん、絶対にしないようなミスしてる」
     声色から読みとれるものはなにもない。それは俺が酔っているせいではなくて、この目の前の男がなにも映し出さないからだ。俺がモモヒトの感情に触れられるのは戦いの中だけで、それはこんな遊技で満たされるものではないらしい。
    「……酔っている、から」
     仕方ない、とは言わなかった。ただ、事実だけを口にすれば、モモヒトはからっぽの瞳を俺にむけて、独り言のように喋り出す。
    「そんなに酔ってたら、戦えないね」
    「戦う気はない……」
     盤上の騎士を操るのが精一杯だ。負ける気が無い以上、先ほどのクイーンは取らなければならない。グラスを手に取り一気に煽る。カッと喉が熱くなって、一瞬遅れて脳が揺れた。喉元まで酒気がせり上がって胃がひっくり返りそうになる。俺が言葉を返したくせに、モモヒトはまだ独り言を続けている。
    「……戦えないキミは僕のことを楽しませたりしないのに……なんだろう、この感覚」
     僕はいま楽しいのかな。そう呟いてモモヒトは俺を見た。耳を疑うような言葉に幸いを覚える前に、嘔吐感を押さえるために口元に当てた手が氷のように冷たいことに気がついた。言葉の真意を追う前に、脳が鳴らした警鐘を伝えるべく口を開く。
    「モモヒト、すまない……水を……」
     自分の手元にあった水は飲み干してしまった。手の着けられていないモモヒトの水を求めれば、モモヒトはこちらに水を差し出して──俺の頭に思い切り被せてきた。
    「……は?」
    「やっぱりつまらない、けど」
     ふいにモモヒトが瓶に残っていたウォッカを飲み干した。そう思った。それが間違いだったと気づいたのは、モモヒトがいきなり距離を詰めて俺に口づけてきてからだ。
    「んっ……」
     驚きで口を開けてしまったのがよくなかった。モモヒトは口に含んでいたウォッカを口移しで流し込んでくる。人間のにおいが移った毒が喉元を流れていくごとに、頭が割れそうに痛む。部屋に酒のにおいが充満していて、それがますます吐き気を引きずりだしてくる。
     モモヒトが乗り出してくるからチェス盤のグラスはほとんど倒されてしまった。酒が零れて、追いつめていたキングが落下して割れた。モモヒトはテーブルを乗り越えて俺の膝に乗って口を開く。
    「……つまらないから殺さないけど、もう少し見せてよ。キミがこんなになってるの、なんだか変で……もっと見たい」
     殺すかもしれないけど、死なないでね。
     今度こそ、ハッキリと感情を滲ませてモモヒトは言った。退屈そうな声で、口元を歪ませて笑っていた。
    「モモ……っ! んんっ……!」
     思い切り顎を掴まれて、開いた口にまたアルコールを流し込まれる。ぐるん、と世界がひっくり返る感覚があって、一瞬を置いて視界が暗転した。
    「……死なないでってば」
     頭が冷たいのはさっきまでアイスペールに浸っていたウォッカを頭からかけられているからで、それに気がついたと言うよりは察したと言うのが妥当だ。もう何処も彼処もアルコールのにおいで覆われて、酒の中に沈められているのと変わらない。
    「……調子に乗るなよ」
    「え?」
     痛みも、混濁も、酩酊も、落下の手前には覚醒がある。一瞬だけ取り戻した感覚を総動員して、俺に乗り上げたモモヒトを思い切り突き飛ばす。完全に抵抗が意識の外にあったのだろう、そのまま呆気なく体勢を崩したモモヒトの鳩尾に、拳を叩き込んだ。
    「がっ……は……」
     派手に胃酸を吐いてモモヒトが沈みかける。それでも痛みに耐性があるが故に次の行動が早い。だが、俺の方が早い。
     バキ、とかドゴ、のような。先ほどまで座っていた椅子とモモヒトの頭蓋がぶつかり合って鈍い音を立てた。起き上がりかけたモモヒトの頭に叩きつけた椅子を投げ捨てて、よろめいたモモヒトを押し倒して乗り上げる。両手を掴んで動きを止めれば、床に縫い付けられたモモヒトが忌々しげに舌打ちをした。
    「くっそ……!」
    「……チェスに戻るか?」
     ギラギラ、目が光っている。こういう好戦的で、それでも楽しそうな目が、平和的な場で見られたらどんなにいいだろう。俺はモモヒトが嫌いなわけじゃない。笑えるなら、笑ってほしいと思えるのに。
    「……あはは! やっぱりこっちのが楽しいよ! ねぇ、続きをしよう?」
    「…………チェスをしないなら、今日はお開きだ」
     それでも、こうならないと笑ってくれないんだからどうしようもない。
     うまくいかなかったらどうしようかと考える頭も持たないで、俺は乱雑にモモヒトの頸動脈を握りつぶす。腕に爪を立てられたが、そこから滲む血液にも抉れていく皮膚にも興味はない。
    「ぁぐっ……!」
    「……殺すかもしれないが、死ぬなよ」
     どこかで聞いたことのあるセリフを吐けばモモヒトが笑った気がした。モモヒトが動かなくなったのを見届けて、俺は全部を投げ出した。

    ***

    「……頭が痛い」
    「そりゃそうだと思うよ」
     意識が浮上して真っ先に口にしたのは現実への文句で、目を開いて初めて見たのはモモヒトの顔だった。俺の下で押しつぶされたままのモモヒトは床にくっつきながら俺を見ていた。
    「……夢、じゃないな」
     モモヒトの首には俺が絞めたあとがくっきりと残っている。部屋には酒のにおいが充満しているし、粉々になったグラスが床でキラキラと輝いているのが見えた。なにより下敷きにしている百々人のからだは少し気怠げな人間の温度をしている。
    「マユミくんが起きたなら帰ろうかな。ここにいてもつまらなさそう」
     モモヒトが俺の下から抜け出そうとするから、俺はその細い腰と肩をぐっと握りしめる。
    「……なに?」
    「……このまま帰れると思うなよ」
    「なにこれ、性的な流れ? 酒の勢い? キミ、そんなにつまらない男だっけ」
    「ふざけるな。茶化すんじゃない。……この惨状を放っておいて帰れると思うなよ」
     転がった椅子、床をびしゃびしゃにしている酒、粉々に砕けたグラス、部屋に充満したアルコールのにおい。
    「片付けるまでがゲームだ。手伝ってもらうぞ」
     えー、と不満の声をあげるモモヒトを視線で掴まえて、いらないタオルがクローゼットにないか探す。なかったら、雑巾を買ってこなければならないだろう。
     いや、その前に水を飲まなければ本当に死んでしまう。モモヒトも飲むかと問いかければ、どっちでもいいと返された。
     モモヒトは無事だった椅子に腰掛けて俺をのんびりと見ていた。ふと、思い出したように口にする。
    「チェス、またやろうね」
    「普通のチェスならな」
     お前とは二度と飲まない。そう突き放せばつまらなそうな瞳がいつものようにからっぽになった。
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