シナモン・アップル・生クリーム 殺人。と一言。疑問を挟む間もなく、モモヒトは「殺人鬼とデートしたいの?」と聞いてきた。
そうだ、とも言えず、ただモモヒトと出かけたいことだけを告げる。モモヒトは考える素振りも見せず、いいよ、と笑いもせずに言う。
そのかわり、と提示された条件は三回の模擬戦を行うことだった。なんでデートに誘いたいほど好意を持った相手を戦闘不能に追い込まなければならないのかと頭痛がする。
殺人鬼、というのはもっともで、モモヒトは人殺しだ。しかしそれを言うのであれば俺だって人を殺したことがある。望む望まないに関わらず、ここはそういった人間で溢れている。
モモヒトは戦いを楽しむ節はあるが相手の生き死にに興味はないので、殺人に執着しているわけではない。それなのに組織の中の評価は悪く、モモヒトは悪辣と人を嬲る快楽殺人者だと思われることが少なくない。
「お前は損をしている」
苦言を呈するわけではないが、心の底からそう思う。ところはモモヒトはどこ吹く風だ。
「損なんてしてない」
「お前は勘違いされている。お前は好戦的だが、決して快楽殺人者ではない」
モモヒトはそれをつまらなそうにきいていた。そして、一言を零す。
「……キミがわかってくれてるなら、他の奴はどうでもいい」
「……え?」
耳を疑った。自分の気持ちが届いたのかと感動した。それだけではダメだと、周囲にもこの人間は理解されるべきだと思った。それなのに、どうしてもこの『特別』は甘ったるく胸を溺れさせる。モモヒトが俺だけでいいと言うのなら、それでいいじゃないか。そうやって、大切な宝物を箱にしまうように愛せたら。
「モモヒト、俺は、」
悪徳だ。そう思う。それなのに、言葉が止まらない。
「おまえのことが、」
モモヒトは笑わない。
「なんて、言うとでも思った?」
心に、氷が押しつけられたみたいだった。突然の言葉に止まった思考でぼやりと思う。こういうときくらい、笑えばいいのに。
「キミは……キミだけは、一生僕を理解できない」
させない。そう明確に、モモヒトは言い切った。
「……なぜだ?」
「キミが僕のことを好きだから」
その言葉がまるで侮蔑になるとでも思いこんでるみたいな顔で、モモヒトは吐き捨てた。そして、次の瞬間には少しだけ楽しそうに、無表情で告げる。
「……デートでさ、クレープを食べようよ。僕が好きなトッピングを教えてあげる。キミが知れるのはそれくらい」
「……一度のデートでならだろう。それならば何度もデートをして、たくさんお前のことを知る」
「そっか……なら、うんと戦えるね。デート1回につき模擬戦3回。……僕が模擬戦に飽きたらデートなんて出来ないよ。キミが満足するまで僕を知るのと、僕が連勝して飽きるのが早いか。……たぶん、僕が飽きるほうが早いんじゃないかな?」
「……こちらにも意地がある」
惚れてるんだ。恥もなく俺は告げる。
「俺は一生お前には負けない」
「……最高だね。一生楽しませてくれるんだ」
好きにはならないけど、愛せるかも。
そう言って、モモヒトは少しだけ笑ってみせた。