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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    モブ→漣。
    漣を誘拐するも、格の違いを思い知って震えるモブの話です。(2022-12-19)

    ##モブ
    ##牙崎漣

    不在を得てしまった。 罪を犯した。正確には罪を犯そうとして、俺は公園まで車を走らせている。公園についたらそこには誰もいなくって、俺は感情も犯罪に使う道具も持て余してひとり自宅に帰ることになればいいって思ってる。それでも、あの公園に彼がいるかもしれないと思うと、病気みたいに心臓が追い立てられた。
     牙崎漣のことは知っている。会社に二人ファンがいて、テレビで何回も見たことがあって、そういう些細な知識がある。
     一度、街角にある大きなモニターに映った牙崎を見たことがある。色素の薄い皮膚の上に品のない口紅を滑らせて、気だるげな視線でこちらを見ていた。憂鬱そうなはちみつ色の目が金曜日にやたらよく映えて、それは人ではなく『生き物』に見えた。人を傷つけるのも、狂わせるのも、こういう生き物だと直感的に理解した。
     あの日に見上げた牙崎漣はどこにもいなかった。探したわけではないけれど、向こうから偽物がやってくる。だいたいそれはテレビの中でやたらと大きな口を開けて騒いでは、人間離れした動きをして豪快に笑う。そうなると生き物は人に戻ったり、獣に変化したりして、ようやく俺の呪縛は解ける、はずだった。それなのに例えば司会が大袈裟な進行をしているときにうっかり映り込んだ牙崎はあの日に見た瞳をしていて、全部がめちゃくちゃになっても、世界にひとりになっても、きっと同じように眠たそうな顔をするんだってわかるから目が離せない。人に向ける感情は喜怒哀楽と好き嫌いくらいかと思っていたけれど、酒を飲みながらぼんやりと、執着という単語に辿り着く。振り切るように酒を飲んで、夢にあの日の広告を見る。最悪だ。
     夢は記憶を侵食して、あの日の牙崎を歪めていく。テレビを見て事実を取り戻す。狂えるほどあの男は俺の中に居座ったりはしないけれど、なにかひとつが背中を押したら踏み外してしまうんだってわかってた。
     数時間前に、その『なにかひとつ』があったんだ。
     その日は初めて対応する取引先との商談があって、仕事の後もへりくだりながらウーロン茶を飲んで夜が深くなる手前には馴染みのない街を歩いていた。喧騒から離れて、地図アプリとにらめっこしながら誰もいない公園を通る。そこに、牙崎漣がいた。
    「……は?」
     牙崎はベンチで眠っていた。閉じた瞳は都合の悪い要素を全部排除して、あの日の牙崎に近い静けさを湛えていた。
    「……あの、」
     肩を揺する。頬に触れる。俺の存在などないかのように、牙崎の眠りは醒めることがない。腕をつかんで持ち上げれば、くっついていた胴体がだらんと持ち上がった。
     恐ろしくなって手を離した。少し動いたからだも投げ出された腕も、牙崎の眠りを妨げることはなかった。ふと、魔が差した。
     誰にでも買えるような、ジョークグッズの手錠を買おう。それを手にもう一度ここに戻ったとき、同じようにこの生き物が寝ていたら、さらってしまおう。
     驚くほど短絡的で決断を不確定要素に委ねた犯罪計画だった。拉致監禁。いや、監禁をするかはわからないけれど──そんなことを言ったら目的なんてひとつもわからないけれど、俺はこの生き物を連れ去ろうと思い、急いでその場をあとにした。
     家に帰って車を出した。酒を飲んでいなくてよかったと思ったが、すぐに逆だと思い直す。酒を飲んでいたら、きっとこんな馬鹿げていて愚かなことはしなかっただろう。素面のまま車を出す。青少年から目隠しをするための布をくぐる。めまいがするほど俗っぽい手錠を買って、無感情にレジを打つ男の顔だけを凝視して会計を済ます。店を出る。車を走らせる。
     なんども、なんども、あの公園に牙崎がいないことを願っていた。どうせ数分の出来事なのだから、と公園のすぐそばに車を停める。
     牙崎漣は、変わらずにそこにいた。
     最悪だ、と思った。それなのに、俺は決めたことだと自分に言い聞かせて牙崎に手錠をかけた。自分で決めたことなんてやりきったことのほうが少ないくせに、俺の手は勝手に動いていた。
     しっかりと筋肉の付いた、ずいぶんと白い腕だ。ダンスのときは指先まで通っている意識がだらりと抜け落ちていて、拘束具の存在なんて知らずに投げ出されている。
     十八の男にしては軽い方なんだろうか。アイドルはみんな華奢なイメージがあるけれど、この虚構みたいな存在にも人ひとりぶんの肉がぶら下がっていて相応に重い。意地と、犯行がバレるかもしれない恐怖で普段以上の力を出して、眠ったままの牙崎を助手席に詰め込んだ。
     気が狂いそうだった。助手席で牙崎漣が眠っている。造形を確認する余力もなく、俺はただ存在だけを感じていた。圧倒的な存在感を拘束して、俺は優位に立っている。俺のほうが上なのだと自分に言い聞かせて、なんとか車を駐車場に止めた。
     曖昧だ。赤信号に与えられた焦燥の回数は覚えてるくせに、他のことなんてなにひとつ覚えちゃいない。気がついたら、俺の家には牙崎漣が転がっていた。
     俺の家は犯罪者の家じゃない。明るい照明があって、大きくも小さくもないテレビがあって、冷蔵庫やら換気扇やらの生活音がする。気に入ってる厚めのラグに転がる牙崎は、この後に及んでもなお眠っていた。
     肩に触れる。頬に触れる。腕を持ち上げる。焼き直しのような行動の先に踏み込むように、そっと髪に触れた。
     瞬間、バッと牙崎が飛び退いた。一寸前まで閉じていたはずの瞳には気だるさもまどろみもなく、感情を持った生き物なら射殺せそうな鋭さがある。
    「……なんだオマエ」
     はちみつ色をした瞳が急速に醒めていく。苛立つよりも早く、反射的に答えていた。
    「あ、ええと……君を誘拐したんだ。俺が」
    「ふーん」
     落ち着いた言動に、この人間は『誘拐』という単語を知らないんじゃないかって、そう思った。でなかったら、こんなに冷静なのは嘘だろう。見ず知らずの人間にイニシアチブを取られて、拘束されて、見知らぬ場所にいるんだ。俺が罪を犯したんだから、それに報いるような感情を向けるのが道理じゃないのか。
     怒りで自分を保たなちゃいけなかったんだと思う。でも、そうするより先に俺は飲まれていた。
    「おい」
    「ひっ」
    「メシ」
    「あ、ああ……」
     冷蔵庫にろくなものがないことなんか知っている。俺は逃げるように財布だけを持って外に飛び出した。
     なんの変哲もない家のドアなんて手錠をされたままでも開けられる。俺がいなくなればきっと、牙崎は簡単に外に出て、警察に通報するんだろう。
     むしろ、そうであってくれ。そう願いながらコンビニで割引シールのついていない弁当を買った。喉がカラカラで、適当な飲み物を買って飲み干した。いないでくれ、いなくなっていてくれ。受け取る相手のいない懇願だ。それなのに部屋に戻ったときになにもなかったら、自分がどうなってしまうのかが怖かった。
    「……いる……」
    「アァ?」
     扉を開けても、牙崎は当たり前にそこにいた。手錠を壊そうとした形跡もなくて、つけた覚えのないテレビがついている。
    「……外すから、手錠」
    「ん」
    「手を出して……」
     オモチャの手錠は容易く外れた。牙崎はなぜ自分が手錠をされていたのかを聞くこともせず、ここはどこなのかを聞くこともせず、俺というひとりの人間がなんなのかにも興味を持たず、俺の手にあるビニール袋を見つめていた。
     俺が取り出した弁当を牙崎は食べる。食事の仕方はテレビで見た通り、がざつでやかましかった。そうして俺の目を醒ましてくれればいいのに、大きく開いた口の奥に見える舌が妙に赤く見えてどうしようもない。
     食事を終えた牙崎は横になった。俺はどうしたらいいのかわからずにただそれを見る。また髪を触ったら起きるんだろうか。そうやって、つけっぱなしのテレビの音なんてひとつも拾わずに、ただ牙崎を見ていた。
     日付が変わる前だった。牙崎はもう一度起きて俺を見る。
    「メシ」
     本当に、俺が誰かなんてどうでもいいんだ。なんだか、その瞬間に心がポッキリと折れてしまった気がする。
    「……ないんだ」
    「アァ?」
    「もう食べ物はない。買いに行く元気もない」
    「つかえねー」
     くあ、とあくびをひとつ。それでも何も言い出せない俺に、牙崎は言う。
    「帰る」
     どうして、拉致した人間のこの一言で、こんなにも救われないといけないんだろう。
    「……送るよ。道がわからないだろ」
    「そーかよ」
     牙崎は立ち上がって歩き出した。最後の抵抗のように、俺はカバンからガムを取り出す。
    「食べるか? 店でもらったやつだけど」
    「いらねーよ」
     牙崎が玄関を開ける。俺はそれに続く。従者みたいで、なんだか妙に笑えて、むなしかった。


     帰りにコンビニでシケた弁当とビールを二缶買った。家に帰ってもそこは当たり前に俺の家だったのに、ここはどうしようもなく『牙崎漣のいた家』で『牙崎漣のいない家』になってしまった。
    「……悪夢?」
     あんなにも執着してた存在が確かにここにいたのに、なんだかとんでもない悪夢を見ていた気がする。
     味のしない弁当を食って、ビールを飲んだ。普段はビールなんて五本飲んでも酔うことなんてできないのに、たった二缶で脳がぐらぐらするくらい泥酔して、学生の時ぶりに吐いた。朝がきても脳が回らず、酒の匂いから逃れるように会社に連絡を入れて午前休を取った。午後から仕事をして、帰り道、昨日牙崎が食べた弁当を買って帰った。どうしても、どうしても怖くって、家に帰ってからテレビを壊した。割れたモニターの破片が足の裏に刺さっても安堵のほうが勝る。それでも、俺は一生あの生き物に囚われて、怯えながら生きていくんだって、そう思う。
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    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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