流れ星はたまに見かける。「チビ!」
アイツの声がする。
チビ、としか言わなくなったコイツの言葉は鳴き声みたいだ。こんな動物みたいなやつが世界の救世主だと言うのだから恐れ入る。
先日、地球に異星人が舞い降りた。何をバカな話をと思うのだが、そんなバカな話を世界中の人が経験しているんだ。あの日、地球の人間すべてが異星人を見た。
異星人は手始めに世界遺産をみっつ、破壊した。そうして言った。
『牙崎漣の言葉が欲しい』
なんでアイツだったんだろう。こればっかりは本気で意味がわからないんだけど、あっという間に主要国家の派遣したなんか強そうで偉そうな人間ががアイツを確保しようとやってきた。ついでに、異星人も。アイツはそんな緊急事態でも我関せずといった様子で眠っていたっけ。
『牙崎漣の言葉がもらえないのなら、人類半分を星に連れて帰る』
コイツの言葉と地球の人類半分が天秤にかけられた。アイツはちらっと異星人を見たあと、「なんだよ」と口にした。
異星人は説明した。アイツの言葉が欲しいこと。それが敵わないなら人間を半分持ち帰ること。
あの瞬間、アイツは確かに俺を見た。
「別に、好きにしろよ」
アイツがそう言った瞬間、異星人の手がアイツの胸にめり込んだ。ずるりと引き抜かれた手には血の一滴もついていない。アイツは一瞬ぽかんとしたあと、異星人を見てこう言った。
「……チビ?」
そうして、自分の喉を押さえてもう一度、今度はぽかんとした様子で口にする。
「チビ」
異星人は言う。
『それはいらないから残した』
異星人はその後、地球観光をたっぷりと楽しんだあと帰星した。それ以来、アイツは「チビ」しか喋れない。
また異星人が来た。もういい加減にしてほしいが、歯向かった人間が消されたことがある手前、逆らえない。
なんでも異星人はコイツに残った最後の言葉すら奪おうとしているらしい。話を聞くに今回はこの緑色をした異星人の独断らしく、この場には俺とコイツと異星人しかいなかった。
『言葉を渡してほしい』
コイツは俺の横で言葉を待つ。
『拒絶するなら、地球から見えるすべての星を頂いていく』
人類半分と比べたら、なんだか謙虚に感じるから不思議だった。
俺と異星人はコイツの言葉を待つ。俺は何も言えない。言えるわけがない。
それ以来、地球からは星が見えなくなった。
アイツは今日も元気に俺を呼ぶ。俺を呼ばないときも、感情を伝えるために「チビ」と言う。
アイツが俺を呼ぶ声を聞くたびに、星なんてどうでもいいよなぁだなんて思うんだ。