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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    タケ漣ワンドロ29「すぎる」(2020年のどっか)
    ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。パブロフの犬的な。

    ##タケ漣ワンドロ
    ##タケ漣
    ##クロファン
    ##web再録

    りんごとはちみつ「最悪」
     ふさいでいた唇が自由になって、まっさきにクローが吐き出した言葉がこれだった。オレはといえば舌にこびりついたどっちのもんだかわからない血の味が心地よい。
    「なんだよ。いつもは赤ちゃんみたく口寂しくしてんのに。キスは大好きだろ?」
    「……僕は血の味が嫌いなんだよ。そもそも、血って好きじゃない」
     血液の詰まったズタ袋がなんか言ってる。さっきまで舐めあっていた箇所は錆びついた味がして、クローが思い切り唇を切ったことがわかる。血の味なら、オレがちょっかいをかけなくても口には鉄の味が広がっていたはずだ。オレのせいじゃないと告げれば、ファングだって口を切っていると返される。お互い様だった。
    「そもそも、そんなに血まみれの服で近寄らないで。血の匂いで鼻が曲がりそうだ」
     そう言って言葉ではオレを遠ざけようとするが、クローの足は動かない。クローだってちょっと期待してるんだ。高揚したオレが、うっかり羽目を外すのを。
    「ファングは殺し方が汚すぎる。銃の腕だって悪くないんだから、足だけ狙わないで心臓を狙えばいいんだ。一撃で殺せるはずなのに、人間で遊ばないで」
    「わかってねえな。集団ってのは誰か一人殺されるといきりたつんだ。そうなると面倒だろ? でも仲間が怪我をすると怯む。動揺する。怖気づく。集団の力を削ぐのは狩りの基本だ」
     クローはこういうところがまだまだヒヨッコだ。丁寧に教えてやれば、言い訳だと返された。
    「……いつもそうなら納得するけどね。ファング、気分によって殺し方がまちまちだろ? 説得力がない」
     前の殺しではこんなことはしなかったと、クローは口を尖らせる。そうだっけか。でもクローの言っていることはあっている。そんな気分のときもある。
    「ま、いいじゃねえか。オレが上機嫌だとクローも嬉しいだろ?」
    「……そう思うならそう思ってればいい。そんなことないって言っても、ファングは信じないんだ」
    「……ま、信じろって言うには説得力がないんじゃねえの?」
     すっと距離を詰めると、普段ならしなやかな猫のように逃げ出すはずのクローがびくりと動きを止めた。その耳に吐息を流し込んでやる。うんと甘い、どろどろの蜂蜜のような声を。
    「ほら、やらしいこと考えてる」
     膝で押したクローの中心はほんの少し熱を帯びている。それを指摘されたクローは可哀想なくらい真っ赤になった。皮膚に守られた、血液の色だ。
    「……ファングが悪い」
    「そーだな」
    「ファングが人を殺して興奮する変態だからだ。……夜、相手してくれるのって、こんな日ばっかりだ」
     ファングが悪い。クローはもう一度そういった。その目はドロドロと濁っている。オレの肌を思い出した雄の目だ。
    「そーだな。可哀想なクロー。悪い大人に引っかかっちまったな」
     額に口づけてやれば、うんと背伸びしたクローが唇に噛み付いてくるもんだから、新しい傷から新しく血が流れる。抵抗してんのか煽ってるのかわからないけど、オレはうんと上機嫌になってしまう。
    「別に好きにしろよ。クローが遊んでくれねえならオレは勝手に遊び相手を探すから……」
    「絶対にやめて!」
     クローの怒りはオレの想像通りで、どうにも笑いが止められない。このかわいいクソガキを手のひらで転がす以上に楽しいことが、残念ながら思い浮かばないんだ。
    「……じゃあどうすんだよ。クローくんは何がしたい?」
    「…………ファングが抱きたい」
    「はい、よくできました」
     じゃあ仲良くおててをつないで帰って、一緒に風呂でも入ってこの汚らしい血液を流しましょう。そう笑うとクローは相変わらずブスッとしたままオレの手をつねった。
    「ボディソープの匂いになったからって、テンション下げて寝ないでよ」
    「そんなことしねぇよ」
    「嘘つき。寝たことあるからね。僕は覚えてる……忘れるもんか」
     ファングは血の匂いで興奮する変態だから。吐き捨てたセリフはそのまま返してやることにした。オレなんかの相手をしてるばっかりに、コイツはパブロフの犬よろしく血の匂いに反応する小さな肉食獣に成り果ててしまった。オレは気分にならないとクローをかまってやる気にはなれないし、興が乗るときってのはこういう命のやりとりがあったときだけだ。
    「はいはい。ご機嫌斜めの黒猫はどうしたら機嫌が直る?」
    「ファングが血の匂いじゃなくて僕のシャンプーの匂いに興奮するようになってくれれば直る」
    「善処する。だから今日は今日で楽しもうぜ?」
    「……絶対に抱き潰してやる。嫌だって言ったってやめてあげない」
    「ひでぇこと言うなよ。オレがオマエに抱かれて、嫌だなんて言ったことあるか?」
    「今日は言わせる。嫌になるほど気持ちよくさせるから、覚悟して」
     それは期待できるな。退屈せずに済みそうだ。挑発ならいくらでも浮かんだけれど、それは心に留めてごまかすように頭をなでた。そんなオレのすねを容赦なく蹴り飛ばして、子猫はセブンのもとにかけていく。
    「って! ……かわいくねー」
     口は悪態を吐くが、本当はそんなところがかわいくて仕方がない。風呂を泡まみれに出来るバズボブでも買っていってやれば機嫌の一つも直るだろうか。
     風呂か。たとえばオレがクローが使う林檎の香りがするかわいらしいボディーソープを思い出して、りんごパイに興奮するような男になったらそれは最悪だと他人事のように思う。
     かわいそうなクロー。口に出したら笑えてきた。ま、オレが手に入るなら安いもんだろ。
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