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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    タケ漣ワンドロ42「挑戦」(2020年のどっか)
    ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。卒業軸の同学年タケ漣。モブくんがたくさんでます。

    ##web再録
    ##タケ漣ワンドロ
    ##タケ漣
    ##卒業

    魔法を解いて! 何事も挑戦とは言うが、挑まなくてもいい壁はある。
    「じゃ、次の時間に牙崎と大河の一騎打ちだな」
     黒板に書かれた『牙崎』と『大河』の文字。正の字が示す票の数は同数。
     このままでは、俺は比喩でもなんでもなく、シンデレラになってしまうのだ。



    「牙崎ってまつげ長いよな」
    「はぁ?」
     弁当を食いながら俺は言う。ここで同意を得られればいいのだが、学友の反応はイマイチだ。
    「髪も長い。色も白い」
    「でも大河は顔が可愛い」
    「かわいくない」
     牙崎は髪が長くて色が白いから。不本意だが、俺は童顔だから。そんな理由で俺たち二人のどちらかは、文化祭でお披露目する『男女逆転シンデレラ』のシンデレラになりそうなのだ。
    「いいじゃねーか。白雪姫みたいにキスシーンがあるわけじゃないし」
    「いいわけないだろ。だったらオマエがドレス着ろよ」
    「おれはタッパがあるから入りませ~ん」
    「絶対あとで殴る」
    「鍛えてるやつがそんな物騒なこと言うなって」
    「それだ。俺は鍛えてる。アイツよりも二の腕太いし足も早い……やっぱアイツがシンデレラだろ」
    「大河のが身長低いけどな」
    「絶対あとで殴る」
    「って! もう殴ってんじゃねーか!」
     俺は必殺パンチを放ったあと、半ばやけくそ気味に購買のパンに齧りつく。俺は確かにそんなに背が高いほうではない。顔だって、まぁ、幼いと言えば幼い。目は、まぁ、女子にうらやましがられるくらい大きい。でも、それはシンデレラになるためにそうあるわけではないのだ──どちらかと言えばコンプレックスなのに。
     そもそも、こういうのはやりたい人がやればいいんだ。シンデレラが似合いそうなやつは俺以外にもたくさんいる。それなのに! 高校生になったというのに、まだまだ子供なやつらは残酷だ。
     牙崎はまた消えた。昼休みだろうが授業中だろうが、アイツはお構いなしにふらりと姿を消す。あんな自由人をシンデレラに決めて、バックレられるのは問題だからと言うのも俺に票が集まった一因だろう。まぁ、そんなやつにシンデレラをやらせたいという票がアイツに集まったりもしたんだが。
     牙崎はきれいなやつだと思う。さらさらと流れる、つやつやした銀色の細い髪。なかなか見ない、純度の高い蜂蜜みたいな目。体育の授業で女子の視線をかっさらう、しなやかなからだ。目元は猫みたいに鋭くて、肌はこの教室の誰よりも白い。
     これだけなら、きっとどんなお姫様だってできるだろう。ただ、それを差し引いてもマイナスになるほどの振る舞いをしているだけだ。
     まず、口がデカい。別に可愛げがあっていいと思うけど、あの口の開き方はシンデレラにするにはマイナスだろう。控えめに口を開けばきっとかわいいのに。あと、動作が雑。足が乱暴。声が粗野で態度が横暴。いや、むしろこれはプラスにならないだろうか。こんなやつがシンデレラをやるんだ。見たい。
     俺は購買のメロンパンをオマケにつけて、それを声のデカい友人に伝えるのだ。スピーカーのようなコイツが牙崎の魅力を発信してくれることを願って、俺はおやつのメロンパンを差し出した。
     それなのに。
    「……大河、牙崎のことよく見てるな」
    「へっ?」
    「あっ、いや、おれそんなに牙崎のこと知らなかったっていうか……」
     確かにきれいなやつかもな。お調子者の友人がしみじみと呟くのを聞いて、変な気持ちになってしまった。
     それは誇らしさに似ていた。それは焦りに似ていた。それは、宝物を取られた子供の気持ちに似ていた。
    「ま、大河がシンデレラやりたくねーのはわかったよ。おれたちは大河の味方だから!」
    「メロンパン食いながら言ってもな……」
    「いや、ホントだって! なんか話聞いてたら牙崎のシンデレラ見たくなってきたもん!」
     いつの間にか集まってきたクラスメイトに、彼はさっき俺が伝えた牙崎の魅力を説いていた。いろんな人が牙崎の外見を褒めるたび、俺はモヤモヤしなければならなかった。この気持ちはなんなんだろう。



     五限目は数学だから、きっと牙崎は屋上にいる。
     ドアを開けたら案の定見知った銀髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。わかりやすいコイツのことを、俺はよくわかってる。
    「……よー。シンデレラ」
     眠っていたのだろうか。開口一番、寝言。寝言は寝て言え。
    「オマエがシンデレラだろ」
     隣に腰掛ける。フェンスがあっても、若干怖い。牙崎は怖がらない。バカだから、高いところが好きなんだ。一度あまりにしつこい体育教師から逃れるために、木に登って放課後まで降りてこなかった──あろうことか、木の上で眠りだしたのは伝説になっている。
    「あ? オレ様よりチビのがチビだろ」
     牙崎は誰のことも名前で呼ばない。でも、チビと呼ぶのは俺のことだけだ。クラスには、もっと小さいやつだっているってのに。
    「オマエのほうが肌が白いし線も細いだろ。絶対オマエがシンデレラだ」
    「はぁ? チビのほうが……あれだ、目がデカい」
    「オマエの目のほうが色がきれいだ」
    「は? チビのが……あれだ」
    「どれだ。あ、オマエは髪が長い」
    「関係ねーだろ」
    「ある。髪が長いほうがシンデレラっぽい」
    「じゃあチビがズラかぶれよ」
    「なんでだよ。せっかくきれいな髪なんだから、シンデレラやれよ」
     しばらくやいのやいのと騒いでいたが、なんだか、俺ばっかりがアイツを褒めていた気がする。コイツはずっと、「チビのがチビだから」としか言わなかった。
    「オマエがシンデレラでいいだろ……オマエはきれいなんだから」
     言ったあと、しばらく返事がなかった。もう言い返せないのか? そう言いかけて、コイツの顔を見て、俺も何も言えなくなった。
     だって、コイツが照れていたから。
    「……なに照れてんだよ」
    「いや……チビ……」
     もうやめろ。みなまで言うな。
     いつもみたいに笑い飛ばしてくれ。オレ様は最強大天才だからきれいだって! 最強大天才なんだからきれいでいいだろ!
    「……チビだって──」
    「やめろ。やめよう! 絶対これは変な流れになるやつだ……俺はバカだけどそんくらいわかる」
     なにが悲しくてコイツと容姿を褒め合わないといけないんだ。俺とコイツはそんなんじゃない。コイツがしょっちゅう俺につっかかってきて、俺はたまに勝負して、体育祭では協力したり競ったりして、つまり、いいライバルなんだ。
    「チビ、嘘ならとっととそう言えよ。『俺はシンデレラがやりたくなくて嘘を吐きました』って」
     さっきまでの言葉、なかったことにしろ、って。
    「…………嘘は吐かない」
     それでも、だから、もうなにも言えない。
    「……バァーカ」
     コイツは自分の言葉になんの責任も持たずに屋上をあとにした。そういえば、アイツが俺に屋上を譲るのは初めてのことだった。



     真面目な選挙活動の賜物か、友人のプロパガンダの手腕ゆえか。
    「それでは、シンデレラは牙崎に決まりましたー!」
     わっ、と教室が拍手に包まれる。俺はそれに参加せず、ふいに牙崎のほうを見た。
     瞬間、ばちりと絡む視線。
    「……しゃーねぇ。オレ様の最強大天才な演技で全員泣かせてやるよ!」
     意図的に、目を逸らされた。「泣かせてどうする」だとか、「ヘアセットあたしがやりたい!」だとか、「マスカラ色なくね?」だとか。クラスの喧騒がどこか遠くに流れていく。
     牙崎は怒っただろうか。俺は、牙崎に嫌われたんだろうか。
     バクバクと、心臓が悲鳴を上げた。こんなやつどうでもいいはずなのに、俺はコイツに嫌われるってことを考えたことがなかったんだ。コイツは友達じゃないのに。でもきっと、ただのクラスメイトは嫌だったんだ。コイツが俺につっかかってくるのは当たり前だったけど、もしかしたらもう当たり前ではなくなってしまうのかもしれないんだ。
    「……くん……大河くん!」
    「……えっ?」
    「聞いてなかったでしょ。大河くんは衣装係だからね!」
     シンデレラになりかけた男の役目は、シンデレラのドレスを調達することだった。



    「チビ! バスケで点取った方の勝ちだからな!」
    「……オマエ、球技は苦手だろ。いい加減なにが反則なのかを覚えろ」
     翌日。牙崎は拍子抜けするほど普通だった。俺が必死に言葉を考えているところに、いつものように、嵐のようにやってきた。
     だから、俺もいつもと同じように返す。いつもどおりが当たり前に始まることを祈りながら。そうだ。俺たちの関係はあんなふざけた投票で変わったりなんかしちゃいけない。それなのに。
     それなのに、俺はいま、牙崎のまつげが気になっている。
     気がついてしまったんだ。そうだ、コイツはきれいだ、って。
     ストレッチのときに伸ばされた、ふくらはぎの白さが妙に目についた。ボールに触れた指先の、薄く色づいた爪が笑っていた。せっかくいつもどおりになれそうなのに、いつもどおりでいたいはずの俺がいつもどおりになれないだなんて。
     コイツがシュートを決めるのをぼんやりと見ていた。あまりにも牙崎ばかりを見ていたら足を滑らせて頭を打って、もうなにもかも面倒だから大の字で寝ていたら保健室へと担ぎ込まれてしまった。



    「おいチビ、寝たフリしてんじゃねーよ」
    「……先生は?」
    「いねーよ。オレ様が見てるって言ったらどっか行った」
     それを聞いて、安心してからだを起こした。正直、どこも痛くない。寝ている理由がないのだ。
    「頭でも打ったか?」
    「打ってない。ダルいからサボろうと思っただけだ」
     屋上での会話を思い出す。嘘は吐かないって俺は言ったけど、いまの俺は平気で嘘を吐いてる。つまり、そういうことなんだろう。俺はコイツがきれいだって言葉だけは、どうしても撤回できなかったんだ。
    「……きれいだなぁ」
     本当にきれいだと思ってるんだ。外には日差しがきらめいて、けやきの葉は揺れて、屋上からは空が見えて、時間がたてば茜に影が伸びる。それなのに、きっとオマエが一番きれいなんだって。
     これだけは譲れないことなんだ。俺は嫌われたって、疎まれたって、関係が変わってしまったって、コイツのことをきれいだと思うことがやめられない。
    「そーかよ」
     そして、コイツがそれを受け入れてくれることを期待しているんだ。
    「……ごめん」
    「は?」
    「最初はシンデレラが嫌だったんだ。でも、本当にオマエのことをきれいだって思ってる……気づいたんだ。オマエは、きれいだ」
     コイツは照れずに聞いていた。俺は子供みたいに泣いてしまいたかった。
     好きって言えたらよかったのかな。よくわからなかったけど、そういう言葉でコイツへの気持ちを濁らせるのは違うんだ。透明度の高いこの気持ちを大切にしていたかった。そういうガラス片みたいな宝石を、コイツと一緒に眺めてみたかった。
    「……ま、オレ様は最強大天才だからな」
     ぽすりと、コイツの手のひらが俺の頭を撫でる。
    「チビも、そうしてれば可愛げがあるぜ?」
     コイツは笑う。木漏れ日を反射して輝く髪は、おとぎ話のように美しかった。



     秘密は真っ白なスポットライトに照らされた。やっぱり牙崎はきれいだった。
     それを知っていたのは俺だけだったのに、今ではこの場にいる全員が知っている。時間が巻き戻せるなら、ずっと秘密にするためにシンデレラでもなんでもやるのに。
     男女逆転シンデレラ、だなんて。最初はウケ狙いだったやつらもそれなりに全力を出した。とりわけメイク班の気合の入れようはすさまじく、牙崎は男性としての魅力を殺さぬままに美しいお姫様になっていた。
     劇が始まってしまえば、衣装班の仕事なんて舞台袖で見惚れているだけ。魔法使いはアイツで、王子様はあの娘。俺の姿は舞台にはいない。

    「ありがとうございました!」

     それなのに、幕が下りた瞬間、牙崎は魔法を全て脱ぎ捨てて、まっすぐ俺のもとに駆けてきた。
    「どうだ! 見やがったかチビ!」
     それは、いつもの笑顔だった。競い合う俺だけが、コイツについていける俺だけが見られる、とびきりきれいな笑顔だった。
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    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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