取扱注意 芸術は爆発だ! 美しいものは須く爆発なんだろう。
ならばこの世でもっとも美しいとされる『愛』とはなんだ? その答えも同じく『爆発』だったものだから、僕は途方に暮れている。
小説家が夢想した果実のように、僕が齧ったリンゴは30分以上放置すると爆弾に変わる。いや、リンゴである必要はないのかもしれない。ようは僕が愛しい人のことを考えながら口にした果実は放置すると爆弾になってしまうのだ。
発見したのは終わりかけた春の夜だった。マユミくんにもらったリンゴを面倒だからとそのまま齧っていたら、マユミくんが電話をくれたんだ。浮かれた僕はリンゴをテーブルに置きっぱなしにしてベランダに移動して、楽しくおしゃべりなんかして。そんなこんなをしていたら、爆発音が突如僕の耳を裂く。びっくりして急いでリビングに向かったら、そこには半壊したテーブルがあったというわけ。
考えてみればおかしな話なんだけど、僕は爆発したのが齧りかけのリンゴだということを直感的に理解していたし、果実は食べ尽くしてしまえば爆弾にはならないことと、爆弾になるのは果実だけだということもわかってた。ただ爆発する理由だけはちょっと考える必要があって、判明させるためには数度の実験を要した。リンゴは十中八九爆発したし、マユミくんからもらった果物は必ず爆発する。共通項はマユミくんだ。マユミくんのことを想いながら、幸せな気持ちで口にした果実が爆弾に姿を変えるんだ。
「それは物騒ですね」
クラゲが空を飛び、街路樹のイチョウがテレバスで話しかけてくる世の中じゃ、何が起きてもおかしくない。実害が出そうなところはいただけないが、僕の特異体質はわりとあっさり受け入れられる。とは言っても打ち明けたのはアマミネくんにだけで、僕はあえてマユミくんとぴぃちゃんがいない時を見計らって話をしているのだ。
「まぁ、小さく切れば問題ないんだよ。それより、別の問題があってさ……」
自然と小声になる。アマミネくんの耳元に唇を寄せて、世界から言葉を隠した。
「これ、マユミくんに言わないとダメかなぁ、できればぴぃちゃんにも言いたくなくて……」
「んー……俺は言っといたほうがいいと思いますけど」
「でもね!?」
「うわっ!」
急に大声出さないでくださいよ、ってアマミネくんが文句を言ってくる。でも、それどころじゃない。事態は深刻なんだ。
「だってさ、説明する時に僕がマユミくんを想ってることを話さないとダメでしょ?」
「そりゃ、それが原因ですからね……」
「でも、恥ずかしいよ」
「は?」
「恥ずかしいんだよ! だってそんなこと言ったら、僕がマユミくんのこと好きなの……バレちゃう……」
そう、それが問題なんだ! 理由を言えば、この秘めたる恋心も白日の下に晒される。それは恥ずかしすぎるし、どうしても告白しなきゃいけないならクリスマスとかにしたい。いま夏だからやだ。本当に欲を言うなら、告白はされたいほうだし……。
「だから、できるなら隠し通そうと思うんだけど」
「ダメに決まってるじゃないですか。危険物の取扱いなんだから」
「だよねぇ。……でもさぁ、」
せめて、冬がいい。そうワガママを言えばアマミネくんは軽く笑って口にする。
「夏の海もロマンチックですよ。とっとと告白して打ち明けましょう」
他人事だと思って。アマミネくんのばか。フラれたらどんな顔して隣に並べばいいの? 僕、マユミくんを困らせたくない。
僕の文句と不安を一身に受けたアマミネくんは「鋭心先輩は百々人先輩のこと好きだと思いますけどね」だなんて言ってくる。信じるからね、その言葉。