歩と歌織さんがミュージカルでW主演をつとめる話「ミュージカル?アタシと歌織さんが?」
「うん。大手舞台監督から2人に主演でやってみないか?って話が来ていてね」
「なんで?アタシと歌織さんとじゃ得意なジャンルが正反対だろ?」
「そこなんだよ。監督は過去の劇場の公演で歌織さんの歌、歩のダンスに目をつけたんだ。それに歌織さんは音楽教室の元講師で、歩は子供たちへ向けたダンスレッスンの講師の経験があって教える側としても評判が高い。「歌の歌織さん」と「ダンスの歩」がお互いのアドバイスを吸収したら、バランスがとれた調和が生まれるんじゃないかって考えているそうだよ」
「へえ……でもミュージカルじゃ、演技力も必要になるんじゃないの?」
「なんとその監督は歌織さんが出演していたオペラセリア・煌輝座の公演、歩が出演していたSHADE OF SPADEの公演どちらも確認済みだよ。演技力も申し分ないと評価していた」
「そうなんだ」
「もちろんそのまま主演が貰えるわけじゃない。2人にはレッスン前にテストを受けてもらうよ」
「え?」
「もしこの話、引き受けたいなら2週間後テストがある。そのテストに合格できれば2人には約束通りW主演をやってもらうそうだよ」
そういえば同じ劇場の仲間ではあるけど歌織さんのこと、よく知らないんだよな
何度か歌のレッスンに付き合ってもらったことはあるけど仕事で一緒になったことはほとんどなかったっけ
できるのかな、歌織さんと
でもせっかくのチャンスだ。これを逃すわけにはいかない
「プロデューサー、アタシ、やってみたい」
「わかった!歌織さんにも話を聞いてから監督に伝えとくよ」
「歩ちゃん」
「歌織さん」
「プロデューサーさんからミュージカルの話を聞いたわ」
「そうなんだ、歌織さんはどうするの?」
「私もやってみたくて。だから受けることにしたわ」
「そっか」
「私達、今までお仕事であんまり一緒になったことないでしょう?だから今回のミュージカルを通じて歩ちゃんのこと知りたくて」
「うん、アタシも同じこと思ってた」
「歩ちゃん、ひとり暮らしでしょう?公演が終わるまで居候させてもらえないかしら?」
「え……ええー!?!?!?!?!?」
こうして歌織さんとアタシの共同生活がスタートした
「はい、上がって」
「お邪魔します」
「765プロ入ってから少し広い部屋借りたから、そんなに狭くないと思うよ」
「ここがリビングで、あっちがキッチン。
ここはお風呂。トイレはその隣。それでここはアタシが普段使っている部屋。物が多くて気が散っちゃうかもしれないけど、これでも片付けた方なんだ」
「歩ちゃんらしい素敵な部屋ね」
「アタシは予備の布団敷いて寝るから歌織さんはベッド使って」
「ダメよ!歩ちゃんのお家なのに私の方が贅沢するのは良くないわ」
「気にしないで。歌織さんに床で寝てもらうのは申し訳ないし」
部屋着の設定
歩はTシャツにハーフパンツ
歌織さんは丈の長い大人っぽいネグリジェ
「歌織さん、先にシャワー浴びていいよ。シャンプーとかは置いてあるの勝手に使っていいから」
「ありがとう歩ちゃん」
朝のランニングから帰ってきた歩
「歌織さん?軽くご飯作ったけど食べる?」
「うーん……たべる……」
「ラップしておくから」
「大学行ってくるよ。歌織さん、今日の仕事遅れないようにね」
「わかったわ……」
数時間後
「あれ?このみさんから電話だ」
「歩ちゃん、歌織ちゃんどこにいるか知らない?」
「え?劇場に来てないの?」
「来てないから電話したのよ」
「家出る前に声掛けた時は返事してたような」
「歩ちゃん!歌織ちゃんは朝が弱いのよ!!!」
「ええ!?ま、マイガー!」
急いで帰宅し歌織さんを連れて劇場に来る歩
「きたわね!」
「ごめんこのみさん!歌織さんが朝弱いのアタシ知らなくて」
「いいのよ。連れてきてくれてありがとう、歩ちゃん」
「ほら!歌織ちゃん起きて!お仕事に行くわよ!」
「うーん……」
あの時とりあえずいいよって言っちゃったけど、歌織さんのこと先にこのみさんとかに聞いておくべきだったな
これからは気をつけよう
ダンスレッスン中
「歌織さんイイ感じだよ!」
「はぁはぁ……きゃっ」
「歌織さん!大丈夫?」
「大丈夫、続けてくれる?」
「……いや、一旦休憩しよう」
「そう……わかったわ」
歌織さんはダンス、あまり得意じゃないのわかっていたことなのに。アタシ基準のレベルで考えてレッスンしてた。でも歌織さんはアタシのペースに合わせようとしてたな
「教える側としても評価が高い、か」
なんだよそれ。アタシ、歌織さんのこと全然見れてないじゃん
「歩ちゃん」
「歌織さん……ごめん、歌織さんがダンス苦手だってわかっていたのに」
「気にしないで。あのね、歩ちゃん。私の話を聞いてくれるかしら?」
「何?」
「確かにダンスは得意な方じゃないわ。でも歩ちゃんのおかげで前よりもダンス、楽しいって少し思えるようになったの。それは私はとっても嬉しいの」
「歌織さん……」
「さあ、レッスン再開しましょう?よろしくお願いします。歩先生」
「うん!」
歌のレッスン中
「はぁ……」
「歩ちゃん!とっても上手くなってるわ!」
「そ、そう?」
「ええ、その調子で頑張りましょう?」
歌織さんは褒めてくれてるけど実際は音は外れてるし声は少し裏返ってる
(ダメだ、歌織さんとアタシじゃレベルが違いすぎる)
アタシ、歌織さんの足、引っ張ってるんじゃ……
「歩ちゃん、大丈夫?具合悪いかしら?」
「え、あー大丈夫、続けて」
「わかったわ、サビからやるわね」
ミュージカル、本当に成功できるのか?不安になってきたな……
「歩ちゃん!これから歌織ちゃん借りていいかしら?」
「このみさん?い、いいけど」
「あんまり遅くならないうちに帰すわね!」
歌織さんまだ帰ってこないのかな
「ただいまぁ……」
「歌織さんおかえりって大丈夫!?うわ、何この臭い!」
「あゆむちゃん……うふふ……」
「ちょ、動けないって!歌織さん!とりあえず部屋まで行こう?」
「はぁーい」
いったい何杯飲んだんだ……?
「歌織さん、水持ってきたよ」
「ありがとう……」
「はい、ゆっくり飲んで」
「……ごめんなさい、あゆむちゃん……わたし、めいわくかけてばかりね……」
「え?」
「いつもおもうの……あゆむちゃんのあしひっぱってないかしらって……だんす、あんまりとくいじゃないから……」
「歌織さん……」
「あゆむちゃんのおしえかたはわかりやすいのに、あゆむちゃんのれべるにからだがついていかないの……ほんとうにごめんなさい」
「アタシもさ、歌織さんの足、引っ張ってないかなって思うんだ。アタシの歌、歌織さんとレベルが違いすぎるから」
「そんなことないわ……あゆむちゃん、とってもうまくなっているわ」
「歌織さんも同じだよ。歌織さんも最初の頃より踊れるようになってるってアタシにはわかる」
「あゆむちゃん……」
「だからさ、アタシたち、お互い得意を活かして苦手なことは補い合えてると思うんだ」
「そうね、あゆむちゃんのいうとおりだわ」
「歌織さん……」
「みゅーじかる、せいこうさせましょうね」
「うん、そうだね」
その後順調にレッスンは進み、公演は始まった。
無事に千秋楽を迎え、舞台は大成功を収めた。
公演が終わった数日後
「歩ちゃん、お世話になりました」
「こちらこそ世話になったよ」
「寂しくなるかしら?」
「あー、うん、まぁ……」
「うふふ、予定が合えばまた二人で会いましょうね」
「あのさ、歌織さん」
「どうしたの?」
「レッスンの時さ、歌織さん、アタシのおかげでダンスのこと前よりも楽しいって思えるようになったって言ってたでしょ?」
「ええ、そうね」
「アタシも同じ。今まで歌については本当に苦手で、楽しくなくて、いつも歌の練習をすることがしんどかった。でも歌織さんと過ごしているうちに歌のこと前よりも好きになれた気がするんだ」
「まぁ!それは嬉しいわ」
「だから、お礼を言うのはこっちの方。サンキュー、歌織さん」
「ええ、こちらこそ」
「うふふ。歩ちゃんととっても仲良くなれたみたいで嬉しいわ」
「アタシも嬉しいよ。これからもよろしく」
「このみ姉さん、あの二人、あんなに仲良かったかしら?」
「莉緒ちゃん知らないの?あの子達、この前ミュージカルでW主演務めたそうよ」
「ええ?そうなの?」