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    diamond21218

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    diamond21218

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    PIXIVにUPした『星に願いを、あなたの愛を。』の番外編。本編の7章と8章の間のお話。本編に入れきれなかったエピソードです。

    夜空を彩る想い【レンマサ・オメガバース/番外編】 婚約式の後、二人だけとなった真斗とレンはずい分長い間話をしていた。
     だが、その日はこのままずっと一緒にはいられるわけもなく、別々に家へと帰らなければならない。
     真斗は離れがたくて、レンを引き留めるようにいつもより饒舌になっていた。それでも流石に、そろそろ帰るとレンの兄から声がかかり、ホテルのスタッフが部屋にレンを呼びに来た。
     レンが帰る時間が来てしまったと理解して、真斗はなんとも切ない表情になる。
     そんな真斗を見て、レンは愛おしさが込み上げて思わず抱きしめた。

    「そんな顔をしないでよ。帰りたくなくなっちゃうだろ」
     真斗は抱きしめられて、おずおずとレンの背に手を回す。
     抱き合うなんて慣れなくて、心臓がドキドキするのに、なぜかとても安心すする。
     言葉なく、しばらくレンに抱きついていたが、諦めて真斗の方から手を離した。
    「……すまない。なんだか、お前が帰ってしまったら、これが夢だったと思いそうで……」
     真斗の言葉に、レンは夕べのことや、今までの真斗の覚悟などが思い出される。きっとたくさん不安を感じ、傷ついてきたのだろう。
     もっと早く、違う形で真斗に自分の想いを伝えられれば良かったと思うが、それは今更だ。
     ならばこれからを大切にしたい。真斗の心の傷を癒し、安心させてやるのが一番大切な、これからのレンの役目だ。

    「大丈夫。夢じゃないよ。オレとお前は、これからはずっと一緒だから」
     レンが真斗の両手を取ってそう言うと、真斗は頷いた。
    「ああ、そうだな……」
    「そうそう。入籍は聖川の誕生日にしよう。そのことはたぶん兄さんが父上に伝えているんじゃないかな」

    「俺の誕生日? お前は俺の誕生日を知っているのか?」
     驚いた顔をする真斗に、レンが苦笑する。
    「当たり前だろ。ずっとお前を見て来たんだから」
     真斗は自分の知らないところでずっと好きだったと言われても実感がない。そんな顔をしている真斗に、レンが言う。
    「お前の誕生日に、毎年、繋がりのある家からだけじゃなくて、財閥関係とか企業からもプレゼントが届いていただろう?」
    「…………そうだな」
     真斗は頷く。

     実家にいた頃は年の瀬の、一年が終わる一番忙しい時期ではあったが、身内で誕生パーティを開いてもらっていた。オメガ故に表にはあまり出ることのない真斗だったが、聖川家の嫡男として誕生日には毎年各界からたくさんの贈り物が届いていた。
     もちろん真斗もそれらの贈り物に目を通したが、主に執事主導で礼状を書いていたので、誰からどんなものが届いていたかは、よく覚えていない。
    「毎年、バラが届かなかった?」
    「バラ? …………もしかして青いバラか?」
     記憶を探るようにしていた真斗が、突然閃いたように思い出した映像。
     毎年、どこかの家から青いバラのアレンジメントが届いていた。他にも花はたくさん届いていたが、そのバラは他よりもとてもいい香りがして、なぜか一番、真斗は好きだった。

     真斗がまさか、とレンを見れば、レンは嬉しそうに「正解」と微笑む。
    「まぁ、オレの名前では贈っていなくて、もちろん神宮寺家からの祝いの品としてだったんだけど。でもオレが毎年、選んでいたのさ。うちのバラ園にお願いして、聖川の誕生日に合わせて美しく咲くようにしてもらってね」
     真斗は真剣な顔でレンの目を見た。
    「そうだったのか…………あのバラはよく覚えている。確か、去年の誕生日にも実家には届いたと、家の方から写真が届いていたな」
     真斗が言うと、レンは頷く。
    「毎年ね、聖川が家を出てからも贈っていたんだ」
    「……あのバラは、一際良い香りがしたのだが……まさか神宮寺のフェロモンでもついていたのだろうか」
     真面目な顔をして真斗がそんなことを言うので、レンは声を上げて笑う。
    「あっはっは、さすがにそんなことはしてないよ。でも、毎年、バラ園に足を運んで選んでたから香りと共にオレの想いまで、バラが運んでくれていたのかもね」
     冗談混じりでレンは言ったのだが、真斗は本気にして「そうかもしれんな」と頷いている。
     そんな真斗を見るレンの目はとても優しい。
     あまりにじっと見つめていたので、視線に気づいた真斗が照れた表情でレンを見る。

    「……なんだ」
    「いや、今年からは直接、聖川にバラを渡せると思うと嬉しくてね。期待しててね」
     ウィンクしながら言われ、真斗はさらに赤くなる。
    「夢じゃないって、実感した? オレがずーっとお前を見てたってこと」
    「…………そうだな。確かに、あのバラを神宮寺が知っているのは、お前が俺に贈ってくれていたからだな。毎年、誕生日を祝ってくれていたのだと思うと……嬉しいな」
    「うん。それで、入籍するのはその誕生日でいいかな?」
     そういえば、話の発端はそれだった。
     真斗の誕生日に入籍すると。
    「その……婚約してから、少し早くはないだろうか……。いや、俺は嬉しいのだが」
     最後の方は小さな声になっていたが、レンにちゃんと届いた。
     レンは目を細めて真斗に言う。
    「オレとしては今すぐにでも入籍したいくらいだけどね。準備があるって、兄に言われたから2ヶ月待つんだけど?」
    「準備……そういえばそうだな。俺の家の方もあると思うのだが」
    「だよね。でもそう言うのは全て、後回しでいいかなって。とりあえず、2ヶ月でできる限り準備して、入籍する。そして、最初の発情期に番になろう」
     レンの提案に真斗は驚く。

    「番……」
    「うん。番になろう。約束するよ。オレの番は生涯、聖川だけ」
    「あ、ああ……」
     婚約をしたら入籍するのも番になるのも、当然のことだが、改めて言われて、真斗は驚くような衝撃を受けたような、そして本当にレンと一緒になるのだと実感がわく。
    「だからね、聖川。今日は別の家に帰るけど、この約束は消えないから。寂しく思わないで」
     レンが真斗の手を取ってキスをする。
    「そうだな。……その、ありがとう」
     真斗はやっと、安心したように笑った。


     ***


    「じゃあ、聖川とレンの結婚を祝して」
    「「「「「カンパーイ」」」」」

     翔の掛け声で、全員がグラスを掲げる。
     おめでとう! の声に、嬉しそうな顔をするレンと気恥ずかしそうな真斗を見て、みな幸せな気持ちになる。

     そんな中で、照れて少し赤い顔をしている真斗が、真面目な顔で翔に言う。
    「来栖。正確にはまだ婚約であり、結婚はしていないぞ」
     その言い方に翔が首をひねる。
    「そうなのか? そいうや、確かにネットニュースの記事で見た時も婚約ってあったな」
    「あ、俺もそれ見た! でもさ、婚約って結婚するってことでしょう? だったら結婚おめでとうでいいんじゃない?」
     音也が細かいことは気にしないと言うと、セシルが首を振る。
    「オトヤ、それは違います。婚約はまだ約束をしただけですから」
    「何が違うの?」
    「マサトがこの先、レンを振るかもしれません」
    「ちょっとセッシー! ひどいなぁ、初対面なのに。オレは聖川を愛しているからね。早く結婚したいと思っているよ」

     レンが真斗を見ながら言えば、真斗が慌てる。
    「じ、神宮寺……」
    「あー、マサが照れてる! なんか新鮮だね。ほらセシル、たぶんマサがレンを振ることはなさそうだよ」
     音也がセシルに言うと、セシルはレンを微妙な目で見ながら「そうですか?」と言う。
     そんな視線に、真斗が焦ってセシルに言う。
    「あ、愛島。違うのだ、その、この婚約は以前にお前に言ったものとは違うのだ。あの時は相手がわからずに、政略結婚だと思い込んでいて……。そして、俺は先日の婚約式で初めて相手が神宮寺だと知ったのだ」
     恥ずかしそうにしながらもセシルに説明をする真斗に、レンは軽くため息を付く。
    「なるほどね。セッシーは俺を、どこかの悪い政略結婚相手だと思っているのか」
    「違うのですか? マサトはこのレンという男と結婚したかったと?」
     セシルのストレートな質問に、真斗は真っ赤になって言葉に詰まる。それを見たセシルはレンを見て言う。
    「どうでしょう。マサトから返事はありませんが……」

    「愛島さん、それくらいにして差し上げてください。聖川さんが困っています。とても恥ずかしがり屋なので、皆の前ではっきりとはいい難いものですよ」
     トキヤが可哀想なくらいに赤くなっている真斗に助け舟を出すと、横から那月も大きな声で言う。
    「そうですよ! セシルくん。僕、知ってます。レンくんは真斗くんの初恋の人なんですから。そうですよね、真斗くん」
    「え? そうなのですか? それは前に言っていた、あの星をくれたという少年ですか?」
     全員の視線が真斗に向けられ、真斗は「実は……そうだったのだ……」と頷いた。
     それを聞いて、ようやくセシルもホッとした気持ちになる。
    「なるほど、そうなのですか。それならば納得しました。マサト、やはり会えたのですね。良かったです」
     ニッコリと笑って言うセシルに、真斗も笑顔になる。
    「そうだな。ありがとう、愛島」

     そのやり取りにレンは、真斗が何をセシルに言ったのか気になるところだったが、婚約式前の思い詰めていた真斗のことを思うと、何も言えなくなる。返す返すも、もっと早く真斗にいろいろ話が出来ていたら良かったと思う。
    「で? 結局、今日は婚約のお祝い? 結婚のお祝いでいいの?」
    「もうどっちでもいいんじゃねーのか? めでたいことは変わりないんだし。飲もうぜ、音也」
    「そうだね、翔。乾杯しよう!」
     ふたりの会話を聞いていたトキヤは呆れた表情になるが、ふと視線を動かすと、そんな音也と翔を嬉しそうに真斗が見ていたので、これでいいのだと思った。


     今日はレンと真斗の婚約のお祝いの飲み会が開かれていた。
     あの婚約式の次の日には、神宮寺財閥の投資部門が聖川財閥に資金援助をすること、そして神宮寺財閥の三男と聖川財閥の長男の婚約が発表され、大きな話題となった。
     それ以降、真斗もレンも友人知人からのメールや電話が鳴り止まず、大変だった。特に、レンと真斗の両方を知っている大学の友人たちはありえないほど興奮して連絡をくれて、自分のことのように喜んでくれた。

     次の日に大学に行っても大変だった。真斗は音也に質問攻めに合うし、レンは翔から一日中、揶揄うような目で見られた。
     そして誰からともなくお祝いの飲み会をしようという話になり、皆が集まった。那月がセシルくんも呼びましょうと言ったので、レン・翔・トキヤはセシルと初対面となった。
     
     セシルの誤解も溶けて、飲み会は再び賑やかに盛り上がる。
     そんな時に音也がそう言えば、と言いだした。
    「結局、レンは最初からマサのこと好きだったの? マサもいつの間に、レンのこと好きになってたの? 確か最初は、ちょっと嫌な奴だって言ってなかった?」
     その発言に真斗が飲んでいたアルコールを吹き出しそうになる。慌てておしぼりで口を拭いて、音也を見る。
    「い、一十木。それは……」
     狼狽している真斗を見て、レンは再会した日のあの最悪な状況を思い出した。あの会話ならば、真斗の自分の印象が悪いのは仕方がないかもしれないと苦笑いする。

    「お? レン、お前笑ってるってことは、なんか心当たりがあるんだな」
     翔が目ざとくレンの苦笑いに気付きそう言うと、レンは「まぁね」と肩をすくめる。それから音也を見る。
    「イッキ、それは聖川にとって良くない思い出と絡む話だから、そっとしておいてあげて」
     ね、と音也に向かってウィンクをしたレンに、音也はそう言えば、とその時の会話を思い出す。
    「そうだった! なんか嫌な先輩がいたんだよね。ごめん、マサ。でも、そういえば嫌な奴と言いながらもなーなんか、気になってるって感じだったよね。そうそう、思い出した!」
    「そうですよ、オトヤ。マサトは最初からなんだかとても、レンのことを気になっていたし、フェロモンの影響も受けていましたよ」

     フェロモンという言葉にレンが「えっ」と大きな声を出した。
    「セッシー、どういうことかな?」
    「そのままです。その、飲み会の日の次の日、マサトはフェロモンのバランスを崩して、発情期のような状態になっていました。たぶん、強いアルファ、前日に会ったレンのフェロモンに影響されたんだと思ったので、ワタシはマサトにそのアルファとは会わない方が良いと言ったんですけど……」
     そこでセシルはチラリと横にいる真斗を見る。
    「マサトはそれは嫌だ、という感じでしたので。最初からマサトはレンのことが好きだったと思います」
    「あ、愛島……勘弁してくれ……」
     真斗の小さな声に、レンはもちろん、他の皆も笑顔になる。

     ここにいる者は全員、真斗が政略結婚をするしかないと諦めていたことを知っていた。運命と責任を受け入れて従おうとしながらも、自分の気持ちと葛藤していた真斗を、なんとかしてやりたいと思いながらどうにも出来ないもどかしさを持って、見守っていた。
     だけど、そんな中でも真斗はレンに惹かれ、そして運命的に結ばれることになったことを、改めて良かったと思っている。

    「だけど、どうしてセシルはマサのフェロモンの変化がわかったの?」
     俺、いつも一緒にいるけど全然わかんないよ、と音也が無邪気に言ったので、隣にいるトキヤが「なんてことを」とすごい目で音也を見た。
    「えー? でもそう思うよね?」
     と那月を見ると、那月はにこにこと音也に答える。
    「セシルくんは匂いでバースがわかるんですよね? 確かフェロモンを感じられるとか。外国ではそういう方、たまにいるんですよ」
    「へーっ! そうなんだ〜。俺、知らなかった」
    「そうなのです。ワタシの国のアルファは、だいたいその匂いでアルファ・ベータ・オメガの違いがわかります。体の変化や発情期の時期もわかるのです。だからいつも、マサトの発情期を教えてあげていました」
     そう言うとセシルが、真斗の首に顔を寄せたので全員が「え?」と言う顔をして、それからレンを見た。

     レンは思わず立ち上がり大きな声で「セッシー!!!」と叫ぶ。
    「ちょっとっ! なにしてんの?! 聖川もっ」
     レンの声に、真斗がハッとしてセシルから顔を逸らす。
    「す、すまない……いつもの癖で。だが、本当にいつも、愛島には世話になっていて……その、助かっていたのだ」
     セシルもレンを見て、笑顔で言う。
    「ワタシはヨコシマな気持ちはありません。ただ、マサトのお役に立っているだけです。でももう、しないですよ。ただ、ひとつだけ。マサトのフェロモンは微妙に変化しました。運命の番に出会ったからだと思いますよ」
     そう言われ、レンは分かりやすく嬉しそうな表情になり、「あ、そう……」と腰を下ろした。

     それからしばらく黙っていたが、「ここは一刻も早く番にならないとね」と大きな声で言うレンに、翔とトキヤはいつも余裕がある友人の、意外な一面を見た気がして笑ってしまった。
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