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    AM68218433

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    AM68218433

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    エイプリルフールネタニキ燐
    クローン体ニキと燐音くんの戦闘が書きたくて書いたものです
    なんだこれ

    夜闇の中では、墨のような黒さというのは逆に悪目立ちする。
    真っ黒ではなく、酸化した血のような赤黒さ。または濃紺。こういった色の方が、夜という暗闇にまぎれるには良いらしい。原理や詳しいことは知らないが、ニキは『そういうもの』だと理解していた。この知識も自分で学んで蓄えたものではない。ただ『そう』と教えられたから、『そう』なのだと覚えただけである。
    『厳密には地球での話だ。夕暮れ時だとか月明かりの有無だとかも関係してくる。……コロニー環境下や地球に酷似した惑星での戦闘下以外では関係ないンだけどなァ』
    でもニキには細かく伝えたって伝わらねえだろ、と苦く笑った男の顔を、ニキは今も鮮明に思い出すことができた。
    普段は不敵に吊り上げている眉尻が、そう笑った時どれだけ柔らかく下がっていたかということ。機体を染めるためのペンキで片頬を汚しながら、そんな染料よりよほども赤い睫が笑う瞳をかたどって小さく震えた様や、スーツを脱いだ腕を掴んで汚れた頬に口づけた時の、見開かれた瞳の青さまで。
    薄暗い格納庫の中、整備の為にと自分達の手で機体を弄りまわした回数は数えきれない。この記憶は、その中の一つだった。けして出来がいいとは言えないニキの頭でも、取りこぼさないようにと刻み込んだ記憶の一つ。
    ニキはけして頭がいいわけではない。自他共に認める事実だ。端的に言ってしまえば馬鹿なのだが──当人も認めるそれを、ただ一人だけ否定した男。
    『お前はさ、天才だから』
    そう言って笑った燐音の顔を覚えているからこそ、ニキは今も止まることができないのだ。
    「……燐音くんがそう言うんだもん。面倒だけど、仕方ないっすよねえ」
    一度死んだのだとしても。この身が作りものなのだとしても。この記憶さえ──植え付けられた、オリジナルの椎名ニキのものなのだとしても、それでもなお。
    それは、己が走る理由になるのだった。
    操縦桿を握りこみ、親しんだ振動に身をゆだねる。己の居場所は、いつだってその男の隣にあるのだ。その為に、どれだけ憎まれたとしても構わない。




    赤く発光する爪が、掠めるほどの近さで通過していく。間一髪、躱した──否、掠めた。
    機体の表面を削り取られて、グラム単位で把握しているバランスが崩れたことを知覚する。思わず舌打ちが漏れた。コンマ1秒後には、現在の機体のバランスを『感覚』で把握する。理論や思考は必要ない。こうして操縦桿を握る時、ニキはあらゆるすべてを勘と感覚で動かしている。自身の頭を動かしている間、機体の動きが愚鈍になるのであれば意味がないからだ。ニキの場合、機体の制御や動作に思考を割いている方が動きの精彩を欠く。思考している間に敵に頭を撃ち抜かれていては意味がない。だから、己の感覚に全てを任せるようにしていた。馬鹿げている、天才だ、と──今己を睨みつけているだろう男はよく笑っていたけれど。
    回避行動があと一秒でも遅ければニキの身体は宇宙空間の中に投げ出されて酸素の欠乏により死亡しただろう。もしくは、目の前で煌々と光るその赤い爪に文字通り身体を引き裂かれて死んでいたかもしれない。通り過ぎていった死はあまりにも身近だ。だからこそ、ニキの心臓は平然と常の通りに鼓動を重ねていた。
    己が舌打ちしたのと同じように、恐らく向こうでも大きな舌打ちが漏れたことだろうというのは簡単に推測できる。そのことに思わず笑みの形を作る唇を舌で舐めた。
    今の攻撃で、大抵の敵なら死んでいる。それを躱せたのは己が『椎名ニキ』だからに他ならない。燐音が戦闘時どう動くかを自分以上に理解しているパイロットはいないだろう。男が操縦する機体の装備に関しても同様だ。
    しかしそれは、ニキがどう動くかというのも同様に相手に筒抜けであるということを示していた。だが、装備に関しては違う。向こうが乗る機体は己の記憶にある通りだが、己が操る機体は燐音の知らないそれだ。
    だからこそ。自分の機体の能力を相手に完全に把握される前に決着をつける必要があった。
    「……とはいえ、燐音くんってば馬鹿みたいに強いんで、普通に勝てるかわかんないっすけどね~……」
    薄暗いコックピットの中、モニターからの明かりに照らされながら苦笑する。
    獣のような造形をした、獣が持つには大きすぎる爪。それを翻して、黒い機体が更にこちらに接近した。
    己が操作するものよりも一回りも大きな機体である。本来そこまでの機敏さはない筈だが、相手がそう考えることを嘲笑うような速度で肉薄した。
    また改造したな、と眉を絞る。即座に背面のジェットを噴射して回避行動に移った。
    相手の望む距離を保っていては勝ち目がない。ビームサーベルも搭載してはいるが、相手の得意とする距離で戦う必要はないのだ。長距離からの狙撃が難しい以上、中距離にまで距離を離すのが最善である。
    黒々とした宙の中、熱エネルギーを噴射しながら逃げるニキの機体。それを、同じようにエンジンを噴かせて燐音の操る機体が追蹤する。
    「……ッ、んもうっ、汎用型はやっぱり反応が鈍いっす!」
    記憶にあるよりもいくらか細い操縦桿を、ニキの腕が改めて握りしめた。重いそれを腕力と体重で無理やり操作する。
    機体がひずんで悲鳴をあげる。しかし、ニキはそれに構うことなく進行方向を後ろから横に変えた。
    後退するニキを追う燐音の横をつくように、機体を旋回させる。ジェットエンジンから噴射する推進剤が、キラキラと眩しいほど輝きながら軌道を描いて燐音の視界を遮った──だろうと予測する。そうであってほしいという希望とも言えた。
    すれ違いざま、ライフルを構える猶予はない。腰に差したビームサーベルを一息に引き抜く。狙いは、腕。
    ──ギァンッ、という、耳障りな音。
    幻聴だ。宇宙空間では音は響かない。それでもそういった音が鳴ったと思わせるような火花と共に、己の振るったビームサーベルが赤い爪を切り飛ばした。
    宇宙を漂うスペースデブリとなった爪は──一本のみだ。腕ごと切り飛ばすつもりだったが、すんでで躱されていた。残りの二本にも罅は入れたものの、逆にその二本でビームサーベルを掴まれている。思考する間も惜しい。瞬時にサーベルを手放したニキは、ガラ空きになっている目の前の機体の腹部を思い切り蹴り飛ばした。
    己の機体もがその衝撃でぐわんと激しく揺れる。シートに押し付けられるようなGの増加を感じながら、その勢いのまま推進剤を噴射して遠ざかった。
    己の背後には、打ち捨てられたスペースコロニーがある。その陰に隠れて一度体勢を立て直そうと、ニキが再度操縦桿を握り締めた時だった。
    ──モニターの画面全面に、黒い機体が映り込む。
    「──ッ!」
    ニキの喉が、ひきつったような音を出した。
    エンジンを過度に噴かすようなやけくそじみた特攻。そうして急接近した燐音が掴んでいたビームサーベルを投げ捨てる。空いた両腕には、凶悪な爪が赤く輝いていた。
    左腕のそれが、ニキの操る白い機体の肩部分をえぐる。
    「ッ、手癖が……っ、悪いっすよ!」
    もう片方の腕、ひび割れた爪が、今度は的確にコックピット部分を狙っていた。迫りくる赤い光を、こちらも腕部を伸ばして無理やり掴む。ニキの操る機体から、爪にえぐられた部品が落ちていく。
    そうしてギリギリ押しとどめた爪は、しかしまたじりじりとコックピットに迫っていた。
    そもそもの出力が違うのだ。ニキの操る汎用型と燐音の操る機体とでは比較にならないほどに。
    だったら。
    「~~~っもう!」
    そうと決めるまで、一秒もない。ニキはまた背面のエンジンを噴かして、思い切り後退した。
    無論、燐音の機体は掴んだまま。
    前進する燐音の機体と、後退するニキの機体。同じ方向に推進力を得た一つの塊が、背後にあったコロニーに墜落する。
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