「君の、他の言葉も聞いてみたいと思う」セノはすれ違い様に聞いた音に驚愕した。それはただの文字列。それはただの囁き。それはただの愛の言葉。が、然し。道行く人はそれに対して耳を疑い、小さな声で議論するだけの問題がそこにはあった。
『俺の気持ちは変わらない』
セノは振り向き、大股に詰め寄る。
『お前と一緒に生きていきたい』
目の前の大きな背中を見据え、肩を掴んで振り向かせた。
『愛してる』
済まし顔で音漏れしているヘッドホンを付けた男がセノを見下ろし、迷惑そうに眉を寄せている。
「その音声は何だ」
『「アルハイゼン」』
機械音とセノの声が重なり、周囲は異様にどよめいた。貫く視線にいたたまれなくなった彼は、さも無関係だと言うように小首を傾げる大男を引き摺り別室へと向かう。
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