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    6/25 JBで無配にする予定だったやつ。月鯉。
    まだ出会い書いてて笑うので供養。完成するといいな(希望)

    無配だったもの 帰宅した月島は、いつものように自宅のポストを覗き首を傾げた。
     そこに入っていたのは薄い青色をした、事務的な封筒。一人暮らしは郵便物に縁がない。ポストに入っているのは殆どが無作為に入れられたチラシ、配達の不在届、そして光熱費の明細。イレギュラーな配達物に戸惑いつつも封筒を手に取り、確かに自分のものに届いたものであるか宛先を確認する。すると表に書かれていたのは宛名だけでなく見覚えのある会社名――この部屋を借りた時に世話になった不動産屋の名前。

     ――賃貸契約の更新通知。
     封を開けて入っていた書類に書かれていたのは、一人暮らし歴の長い月島としては幾度となく目にした内容だった。

     このワンルームに月島が越してきたのは六年前。新卒で入ったブラックを超えて漆黒とも言える悪徳企業から逃げ出して、心機一転引越しを決めた時だった。
     築40年弱。バストイレ別、共益費込みで家賃は五万円と端数が少し。最寄りは都心に通じた路線の急行が停まる駅で、そこから徒歩七分の立地。駅前はそこそこ栄えているし、近くに二十四時間営業のコンビニもある上に治安も悪くない。特にこだわりもなく、最低限さえ揃っていればいいという考えの月島にとっては十分すぎるほどの物件だ。
     過去に二度の更新をした程度には気に入っているこの物件を、今回だって同じように更新するつもりだった。可もなく不可もなく通勤を考えても申し分ない。更新処理だって簡単だ。何度も見た契約書にサインと判を押して決められた更新料を払うだけ。新しい物件を探す時間や更新料よりも倍以上かかる引っ越し代を捻出するよりも遥かに楽だ。それに、月島にはわざわざここから引っ越す理由だってない……はずだったのだ。少し前までは。
     机に置いたスマホがチカッと光る。ロック画面に映し出された数件の通知。差出人は全て同じ人物だ。
     
    『仕事、お疲れ様』
    『明日は10時でいいか?』
    『試験が終わったからやっと月島に会える。すごく楽しみだ!』
     KOITOさんがスタンプを送信しました

     順々に増える通知をタップする。少しはしゃいだ文面と両手を大きく広げてハートを飛ばす可愛らしい動物のスタンプ。送り主の楽しそうな姿が浮かんでくるような気がして、月島はそっと頬を緩めた。


     鯉登とは月島の恋人である。
     見目麗しい容姿に加え、父親は誰もが知る日本を代表する会社のトップで実家は裕福なエリート。まさに完璧だ。しかし世間知らずな面もあれば意外と初心だったりわがままだったり。おまけに笑顔が可愛らしかったり。正直、月島は出会ってからずっと振り回されてばかりなのだが、実はそれもやぶさかではない。付き合って三年。自分よりもずっと歳の若い恋人に、月島はベタ惚れであった。

     月島が鯉登を初めて目にしたのはちょうど転職をした年だった。新しい会社の出勤にも慣れ始めた頃、駅のホームで鯉登を見かけた。すらりと高い長身に整った顔立ち。有名私立の制服をきており、見た目からして育ちの良さが分かる佇まい。ざわざわと忙しない平日朝のラッシュを迎えたホームでも目立つほど、彼は明らかに周りとは空気感が違っていた。――素直に綺麗だと思った。月島が人を見て美しい、という感想を抱いたのはこの時が初めてだった。
     そして同時に、なぜだか彼の姿に眩しさと懐かしさを覚えた。既視感とは違う。ここまで真っ直ぐに心から惹かれる人を、一度見たら忘れるはずなどないのに思い出せない。心臓がバクバクと脈を打つ。幾度考えようとも理由は分からない。でも、月島は鯉登の放つ眩い光から目が離せなかった。
     気分が高揚している。若さゆえの…という言い訳で片付けられる年でもないのに。柄にもなく浮かれている自分に気づいた月島は歯がゆい気持ちでいっぱいになったが、それは紛うことなき恋の予兆だった。

     それからは毎日、駅のホームで鯉登の姿を探した。同じ電車だと知ってからは電車の中でも密かに目を配らせた。鯉登を見かけた日は少しだけ気持ちが上向きになった。
     高校生に恋だなんて、他人から見たら引かれるか気持ち悪がられるかのどちらかだろう。どこか浮つきつつもそこだけはきちんと理解していた。だから月島は自らの「倫理観」に従い、己にあるルールを課した。それは鯉登に接触はしないこと。正しい大人として一線を越えるような行動や、そうなるリスクのある行動は絶対にしないことだ。
     いくら若い頃にやんちゃをしたとはいえ――いや、その経験からか。もう良い歳だからと自分に言い聞かせ、ジロジロ長く見るようなことも、自分から近づくようなこともしなかった。駅のホームでちらっと、電車のドアを潜ってからはさらりと周りを見渡して、鯉登の姿を見つけられなかったらそれまで。あくまで自然に。見かけた、が通用する程度に留めた。それが逆にストーカー気質で気持ち悪いと思われるかもしれないが、月島にとっては大事な線引きだった。

     でも、ある朝。電車の中で鯉登を見かけた日、明らかに彼の様子がおかしい時があった。その日の鯉登は俯き、じっと下を向いていたのだ。
     たったそれだけのこと。他の人から些細なことかもしれない。それでも何故だか月島の胸はざわついた。不安になった月島は、その日だけは自分に課したルールを破って鯉登をじっと観察した。
     ほんの数分後の出来事だったろうか。ガタンとやや大きく電車が揺れたタイミングで、鯉登の後ろに立つ人物がもぞりと身を捩った。瞬間、鯉登の肩がびくっと震えた。誰かに驚かされた時のような、反射の反応だった。
     やっぱりおかしいと月島は確信した。が、何が起こっているのかは分からない。もやもやとした胸中のまま、しばらく様子を見ようと思ったその時。ずっと床を見つめていた顔がゆっくりと上げられた。
     ――目が合った。鯉登と。
     たまたまだった。鯉登が顔を上げた先に、偶然自分がいた。月島を捉えた瞳が驚いたように開き、それからその瞳にじわりと涙が滲んだが酷く鮮明に見えた。ぞわりと全身の毛が逆立つ。視線の先、震えた唇が小さく文字を刻んだ。
     
     “ち” “か” “ん”
     
     その口の動きが痴漢を意味すると理解した時、気付けば月島は目の前のに立つ人間を押しのけていた。自分と鯉登を隔てる数人の壁がわずわらしくて仕方なかった。周りの迷惑そうな視線を気にもとめず鯉登の元へ向かい、彼の背後で息を荒らげる男の腕を捻りあげる。
    「次の駅で降りてもらうぞ、オッサン」
     鯉登に痴漢をはたらいていた男が痛みに呻いた。静かだったはずの車内が少しだけざわついたけれど、少しも耳には入ってこなかった。それよりも鯉登に害を生した奴がにくくて仕方なかった。
     まだ少し怯えた様子の鯉登と痴漢の犯人を睨む月島。犯人との膠着状態がしばらく続いた後、電車は定刻通り駅のホームに到着した。
     
    「助かりました。気が動転していて…はあ、情けんなか……」
     そう言って鯉登が困ったように笑う。
     痴漢の犯人は降りた駅で駅員に明け渡した。勿論それではいおしまいという訳にもいかず、鯉登も月島も一時間ほど事情聴取を受けた。月島にとっては遅刻どころか大目玉を食らう程の大遅刻になってしまったが、見過ごす訳にはいかなかったので仕方ないだろう。
     幸いにも駆けつけた警察含め良い人ばかりで、被害者である鯉登には寄り添った対応をしてくれたようだ。車内で見た強ばった様子から一変、やや気落ちはしつつも落ち着いた様子の鯉登の姿を見て月島はほっと胸をなでおろした。
    「いえ、あなたは悪くないですから。犯罪を犯したのはあっちなんですし」
     全て加害者が悪い。痴漢をされた側が100%被害者である。だから鯉登に非はないのだと伝えれば、月島の必死さが伝わったのか彼はやっと小さく微笑んだ。
     それから少しだけ世間話をして、何かあれば連絡くださいと言って名刺を渡した。決して怪しい者では無いという証明と、下心が少々。名刺を受け取った鯉登はじっと手にした紙面を見つめていた。
    「月島、さん」
     鯉登の薄い唇が月島の名前を紡ぐ。ざわざわとした喧騒の中でもはっきりと耳に届いた声に、月島の胸はドキリと高鳴った。
    「…どこかで、お会いしたことありましたっけ」
    「え?」
     先程の身体を熱くさせるときめきから一転、今度は鯉登の言葉に背筋が冷えた。
     鯉登と話すのは今日が初めてだし、正真正銘今日が初対面だ。けれど月島が密かに、一方的に鯉登を知っていたのも事実。…もしやそれがバレている?知らないおっさんに見つめられて不快だったと、先程の犯罪者と同じように突き出されるのではないか――。
     ぐるぐるとよくない思考が頭を巡る月島を他所に、鯉登が照れくさそうに口を開く。
    「あ…いや……。…はぁ、これじゃ安いナンパみたいじゃ…」
     頬を掻きながら恥ずかしそうに鯉登は笑った。どうやら悪い意味ではなかったらしい。ではどういう意図か?ひと安心する月島の心には少し疑問が残ったが、気にすることでもないだろうと頭から疑念を払拭する。
    「ともかく、あなたが無事でよかったです。えっと…」
    「鯉登です」
    「鯉登さん。警察の諸々も落ち着いたようですし、俺はこれで失礼しますね」
    「はい!あの、月島さん」
     去り際の月島を真っ直ぐ通った鯉登の声が引き止める。
    「よかったらまた、お話しませんか」
     その一言は月島にとってあまりに都合がいい青天の霹靂だった。

     それから月島と鯉登は平日の朝にお互いを見かけるたび挨拶をするような仲になった。その上、乗るべき電車は二人とも同じ。自然と電車待ちの間や車内に人の余裕があるときには会話もするようにもなり、もはや二人は友人関係といっても差し支えないほどに打ち解けた。
     そして話している中で月島は自分と鯉登は十三も歳が離れていること、彼が高校二年生であることを知った。正直それらの情報を聞いた時は全身から汗が吹き出すほどに動揺したが、なんとか平静を装って会話を続けた。
     やはりこの気持ちは墓場まで持っていくべきだ。そもそも出会い方はともかくとして、こうして話せている事実だけでも奇跡。今はこの友人関係を壊さないように気を付けて、鯉登にとっては良い大人でいよう。
     
     ――そう、本気で思っていたのに。
     忘れもしない大雨の日。退勤して電車に乗りこみ、じめじめとした車内で揺られること数十分。やっとホームに降りたった先で、ちょうど手に持ったスマートフォンと睨めっこしている鯉登を見かけた。
     渋い表情をした彼に話しかけてみれば大雨の影響で乗換先の電車が止まってしまったという。普段なら両親か兄が迎えに来てくれるのだが生憎今は誰も迎えにくることができず、タクシーもこの状況じゃ捕まりそうにない。ひとまず電車が動くまでどうしようかと途方に暮れていたとのことだった。
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