梅その電話は午前4時とか言うふざけた時間にかかってきた。
「……黒死牟殿、もしかして日本にいないのかな?」
「いや…日本だ…日本三大梅園の名所と言われている農業公園に……」
常のようにゆっくりとした声音が聞こえてくる。そんなことはどうでも良かった。
黒死牟のことだから、日本にいないで海外で暴れまくっていて、時差を計算していなくて電話してきてもあり得ると思っていたけど、どうやら分かっていてこんな時間に電話をかけてきたらしいと、寝惚けた頭で童磨は息を吐いた。無惨様ならばこの手の嫌がらせはあるけど、黒死牟殿の嫌がらせは珍しいなと本気で童磨は思った。
「……で、何かあったのかい?」
「……眠そうだな……」
「眠そうなんじゃなくて、実際に寝ていたんだ…」
「そうか…」
その後に沈黙が続いたものだから、童磨は目をしょぼしょぼさせながら再びたずねた。
「で、用件は何かな?何があったんだろう」
「……特に用事はない」
「…………はい?」
「ちょっと…かけてみただけだ…では…また連絡する」
そう言うなり電話は切れた。
ツーツー……。
(なんなんだろう、これは…)
ぼんやりしながらスマートフォンを手にしていた童磨は、脱力してそれを床に放り投げた。
(もしかして無惨様のところで働くことに疲れちゃったのかな)
そうかもしれない。絶対にブラック企業だから、さしもの黒死牟殿も疲れちゃって、時間も忘れて電話してきちゃったんだと本気で童磨は思った。
実際は、まだ暗いが、少しずつ明るくなりつつある夜空と、神秘的な梅園の絶景に感心した黒死牟が、つい童磨に電話をして、今度一緒に来ないかとガラにもなく電話してしまったのだが、今はまだ普通の人間ならば寝ている時間だと言う現実を忘れてしまったのが運の尽きであり、どうも寝惚けているのではないだろうかと思わせる童磨の声を聴いた途端、失敗を悟ったため、すぐさま電話を切ったのであった。