NoNo,No,Yes「だから、別れてないし、別れるつもりも無い」
一体何度目かも分からない問いかけにうんざりとした表情を浮かべながらも、それでもこの男は律儀に答えを寄越す。自分から訊いておいてなんだけど、もっと適当にあしらえばいいのに、と思いながらも胸のどこかでほっとしている自分がいる。
帰宅した後に、スノウとホワイトに小言を言われることを考えるだけでもうんざりとするのに、それでも週末前の夜に懲りずに足を運んでしまう。長かった高校生活が漸く終わりに近づいた頃、偶々出会ったこの男の初対面の印象は最悪だった。
双子に呼ばれて頼まれものを届けにきたところを運悪く酔っ払いに絡まれていた自分を助けようと思ったのか、この男、カインは一芝居をうったのだ。知人のふりをしてその場から離れられれば充分だった。ところがついていない事というのは重なるのだろうか。尚もしつこくつき纏ってくる酔っ払いにいい加減キレて投げ飛ばしてやろうかと思った瞬間、柑橘系の香りが鼻先をついた。
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