Recent Search

    こにし

    @yawarakahonpo

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💌 🌵 🌷 🍒
    POIPOI 26

    こにし

    DONEオーエンと抱擁にまつわる4つのお話です。オーカイです。
    全てが捏造です。栄光の街に架空の祭りがあります。オーエンとカナリアさんが喋ります。以上のことに留意してお読み下さい。
    オーエンお誕生日おめでとう。
    抱擁
     抱擁祭。人々が積極的に親愛を伝えるため抱擁を交わす、栄光の街の伝統的な祭り。元来は感謝や愛を口にする日として根付いていたものが、百五十年程の年月の中で言葉と共に握手を用いるようになり、それから抱擁へと形を変え、いつしか祭りとして街全体が盛り上がるようになった。家族や友人、パートナー、恋人……あるいは、その日出会ったばかりの者同士で抱き合うことも珍しくはない。この町の人間は肉体的なコミュニケーションを好む者が多かった。
     かたく絡まって身を寄せ合う人々の様子を、オーエンは、川沿いで賑わうレストランの屋根の上に腰掛けてじっと観察していた。魔法で気配を殺しているため彼の存在に気がつく人間は居ない。
    そのために、地上がまるで屋根の上とは違う別世界であるかのように感じられた。そう考えるとちいさなセットの上から人形劇を覗き込んでいるような滑稽な気分になるのだった。風に運ばれてくる水のにおいやそこかしこから流れるゆったりとした弦楽器の演奏が、地上の光景を現実のものとしてオーエンの瞳に映していた。
    10466

    こにし

    MOURNING2021.6.27発行 オーカイ本『ささやかなぼくの天国』より 小説①『よすが』のweb再録です
    再録にあたり多少加筆修正しております
    よすが 前を歩くオーエンの歩幅になんとか合わせようと大股で歩いても、彼はどんどん先へと進んでゆく。歩調はさほど変わらないのに追いつく気配がなく、私は、彼のいやみな程に長い脚を思った。椅子に座るときにはいつもすらりと組まれていて、以前みずから自慢げに披露するそぶりを見せたことがある。
     淡い色をした美しい夢の胞子が濃霧のように漂っている。加護で守られてはいるものの、その光景を見ているだけでも幻想に呑み込まれてしまうような気がして少しくらくらする。ぼんやりと歩いていると突如、隣から顔を覗き込まれ、私はうわっとなさけない声を上げた。
    「大丈夫か?」
     凛とした声。それは隣を並んで歩くカインから発されたものだった。私があわてて大丈夫ですと言うと彼はそれならよかったと朗らかに笑う。思わずほっとため息を吐きそうになった。カインは妙に他者との距離が近いところがあり、意識しなくとも時折どきりとさせるようなことを仕掛けてくるものだから、心臓に悪い。誰にでも同じように接するので、彼にとってはなんら特別なことではないのだけど、私が元居た世界だとそれはなおさらたちの悪いことだとされていただろう。
    5933