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    togama3210522

    @togama3210522

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    togama3210522

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    BURST OUT7にて発行する越野中心連作短編集「卒業、背番号6番」の本文サンプル。
    連作主軸短編「卒業、背番号6番」の冒頭部分です。

    【新刊サンプル】卒業、背番号6番 背番号5番。そのユニフォームを田岡監督から渡されたのは、魚住たちが引退してから二週間後の日曜日だった。夏の暑さと汗の熱気で蒸し返される体育館。汗だくの最中に発表された、新生陵南のベンチメンバー。4番は仙道。部内で最長学年になったスター選手がこの番号を授かることを、誰もが確信していた。あとはレギュラーの二年生が左詰めに繰り上がる。植草は6番、福田が7番。それぞれ、何となく予想していたようで顔色変えずにユニフォームを受け取る。植草が6番を手に取ったのを見て、越野は不可思議な心持ちになった。なんだか、蜃気楼の奥でも見ているようだ。
     ベンチメンバーが公表されたのは、この日の練習がクールダウンまで終わった後だ。そのまま終礼を迎え、一年生は後片付け、二年生は部室に向かう。だが、越野はその場に立ち竦み、手の中にあるユニフォームをぼんやりと眺めた。5番、これから越野が身に着ける試合着。
    「まあ、変な感じだよな、オレもお前も」
     ぼやけた頭の中にくっきりとした声が入り込む。手元から視線を上げると、植草が目の前に立っていた。声色と同じく、淡々とした顔つき。
    「お前もそうか」
     越野は、植草が持っているユニフォームをちらりと見た。ちらり、と。凝視するのは何故か躊躇われた。
    「まあな、だってちょっとキツかったじゃん。オレたちがベンチ入りした時のことって。だから前の番号が嫌でも脳みそに染み付いてるっていうか」
     一瞬、植草の顔つきが強張った。普段から平静を保つ顔面のほんの少しの動きを、越野は見逃さなかった。
    「とりあえず、部室に行こうぜ。一年の邪魔になってるし」
     その植草の声であたりを見渡すと、少し遠くでモップを持った後輩二人がこちらを遠慮がちに見ている。越野たちが立っているのは体育館の真ん中だ。自分たちの入学当時からスタメンを張っている先輩に、掃除の妨げになっているなんて言い出しにくいのだろう。意識が自身の表面に向かい、額から流れた汗が瞼を通っていたのに気がついた。その汗を睫毛が受け止めて、視界が少し歪む。堪らず、肩に掛けていたタオルでぐいりと拭う。拭って瞼を開けると、植草は既に体育館の出入り口へ歩き始めていた。後ろ姿の植草の手にあるユニフォームを目で追う。今度は、数秒の時間をかけて。やはり、違う。この前まで越野が着ていたユニフォームと先程植草が受け取ったものは同一のはずなのに、全くの別物のように錯覚する。その理由は、越野の胸の奥底だけに秘められていた。

     昨年の今頃、6番のユニフォームを与えられて最初に湧いた感情は、不快感だった。二学年上の先輩たちが引退するまで、試合ではスタンド席で選手を応援していた越野。それが突然、三番目に若い背番号。田岡監督から手渡されたユニフォームに、越野はただ目を落とした。ベンチ入りできる自信はあった。中学時代とは比べ物にならないほどのハードな部活に食いついて、高校バスケレベルの実力が身についていた実感はあった。何より、練習では当初はBチームに所属していたが、時折Aチーム──ベンチメンバー中心の練習チームに混ざるように指示を出されていたからだ。
     それでも、この大出世と言っても過言ではない待遇を目の当たりにすると、どの感情を湧き上がらせれば良いか分からなくなる。現実味がない。そうして呆然としていると、今年と同様に終礼が過ぎて行った。田岡監督の前で一塊になっていた部員たちが各々ぞろぞろと動き出したところで、おぼろげだった思考がハッとする。取り敢えず、今は部活の後片付けをしよう。掃除用具がしまってある用具室に目を向ける。そこへ歩こうと、両手で持っていたユニフォームを右手で持ち替えようとした時だ。越野の右肩に鈍い衝撃が打ち付けられた。思いがけず体がよろける。反動でユニフォームを床に落としてしまった。一体、何が起こったのか。頭の中が真っ白になっていたら、越野の右脇をずんずんと三人ほど横切っていく。
    「調子乗んなよ、なんの取り柄もないくせに」
     越野と同じく、これまでスタンド席で応援に徹していた部員たちだ。だが、越野と異なるのは学年、一つ上の上級生だった。そのうちの一人が、越野に自身の肩をぶつけてきたらしい。
    「は……?」
     彼らの言動の何もかもが不可解で、思わずそう声を漏らしたのが不味かった。越野の気の抜けた一声に、三人とも振り向き、ギロリと睨みを効かせてきた。気が強い越野でも、六つの目に一斉に凄まれると身が竦む。
    「どうせ先生や魚住あたりに取り繕って上手くやったんだろ」
    「何、言って……」
    「お前みたいな単純なやつ、気に入られそうだもんな。なのに小賢しい真似しやがって」
     理解が追いつかず、声すら出なくなった。そんな越野の様子に苛立ったらしく、上級生たちは舌打ちをして踵を返す。そして体育館から出て行った。その背中らを呆然と眺めながら、彼らの発言と表情を頭の中で反芻させる。二、三回脳で噛み砕いてその意味を掬い取れるようになると、越野の心が陰った。ああ、妬まれているんだ、オレ。身に覚えのない悪口を吐かれたのだ。大して痛みはない右肩に、じくじくと衝撃の余韻が甦る。あの三人は誰一人、ベンチメンバーの点呼に入っていなかった。懸命にバスケに打ち込んだ結果、誰かに嫌悪を向けられるなんて。急に瞼が重くなり、視線が床に落ちる。すると、手から落ちたユニフォームが目に入った。背番号6番。この番号が越野に初めてもたらしたものは、落胆の心だった。
     それから、その上級生たちからはチクチクと嫌がらせを受けた。越野にしか聞こえない程度の小声で嫌味を言われたり、練習中に偶然を装ったラフプレーを仕掛けられたり。大事には繋がらなさそうな陰湿な数々が、越野の胸に蓄積される。我慢ならず、彼らの胸倉をつかんで殴りかかりたい衝動に駆られることも多々あった。だが、越野は耐えた。意地だ。ここで反撃をしたり泣き言を言えば、彼らに屈することになる。そんな気がした。それに、この境遇を分かち合える者が一人いた。植草だ。彼もまた、越野と同様にベンチ入りを果たした上に、上級生を差し置いての一桁の背番号、そしてスタメンにまで選出された。さらに、越野と変わらず先輩からの嫉妬の対象であった。当時、それについて改めて言葉で共有はしなかったが、同じ立場であることは互いに理解し合っていた。こいつも屈せず耐えている、だからオレも耐え抜こう。そうして、どうにか寸でのところでバスケに励むことに必死になった。
     越野が反抗しないこと良いことに、上級生たちは悪口のレパートリーを増やしていった。もはや越野をいかに不愉快にさせるかに注力して楽しんでいる。だが、二ヶ月ほど経つとそのどれに対しても聞き流せるようになった。勝手に言ってろ、あんたたちに構っている暇はないのだ、と。しかし、その中で無視できないものが一つだけあった。
    「身の程知らず。なんでお前が仙道よりも一つ前の番号なんだろうな」
     それだけが、越野の胸の奥に突き刺さり、中々抜けてくれなかった。

     仙道彰。田岡監督が東京からスカウトしてきた、越野と同学年のスタープレイヤー。その多彩で綿密な技術と恵まれた身体で、高校入学直後からスタメンに抜擢された。そして、試合を重ねるごとに神奈川の高校バスケ界にその名を轟かせていた。初めて仙道のプレイを目の当たりにした時の、全身に雷が落ちたような驚愕を、越野は今でも忘れられない。長身を活かしたダンクシュートやブロックアウト、踊るようにディフェンスをかわす滑らかなドリブル。単純なジャンプシュートですら、職人が逸品を創り上げるような完成度だった。自分とはレベルが違う、何もかも。だが、そこに妬みなんて一片もなかった。こんなすごいやつがチームメイトなんだ、こいつに追いつけるように、もっと実力をつけてみせる。僅かの曇りもない、羨望から活力を沸き立たせる灯火のような存在、それが越野にとっての仙道だ。
     これまで応援席から遠く見ていた仙道と、同じコートに立てる。一部からのやっかみはあれど、その歓喜に身震いしたことは紛れもない事実だ。その一方、この6番が幾度となく越野の心に引っかかる。昨年、仙道が新しく受け取った番号は7。それは、エースプレイヤーに充てがわれる背番号だ。そして、6番はシューティングガードが着用することが多い。つまり、越野と仙道の背番号は、ポジションに沿って着けられたものである。越野が仙道よりも若い番号だからといって、越野の方が優れていると表しているわけではない。この手の背番号の振り分け方は、バスケに興味を持てば容易に自分の知識にできる。しかし、若い番号ほど実力があるという捉え方も存在している。むしろ、バスケに精通していない人であれば、この考えに至ることが多い。実際に試合会場の控室に向かう途中のエントランスで、こう数回聞いたことがある。
    「へえ、同じ学年であの仙道よりも前の番号の選手がいるんだ」
     恐らく、大会のパンフレットを見たライトな観戦者の声だ。それでも聞く度に、ジャージの下に身につけていたユニフォームが、鉛のように背中に重くのしかかった。
     心のどこかで感じ始めた窮屈が、徐々に輪郭を帯びていた。仙道よりも若い背番号というプレッシャー。もちろん、それを仙道から指摘されたことも、田岡や同じベンチメンバーから示唆すらされたことはない。それでも、威圧を覚えざるを得なかった。分かっている、考えるに値しないものだということは。気にする価値はない。けど、一度突きつけられたら、脳にこびりついて簡単に剥がれなかった。剥がそうとする度に、脳内をぐるぐると駆け回る。どつぼにはまって、自意識過剰になる。同じ学年、6番であるだけで、仙道と比べられるのだろうか。自分のプレイを好奇の目で観られ、勝手に失望されるのだろうか。そして、その危惧は現実になっていった──あの6番、大したやつじゃないよな。仙道のチームメイトとしては物足りない──ユニフォームを脱いでしまえば本人と気がつかれない質素な越野の前で、そう囁かれることが度々あった。うるさい、黙れ、お前らの娯楽なんかじゃない、オレのバスケは。けれど、十六歳の少年に、そこまで割り切る度量はまだない。こんな自分が情けなくて仕方がない。
     誰にも打ち明ける気はなかった。知られたら、情けなくて、この身が萎んで消えそうな気がしたから。だから徹底的に、越野はバスケに打ち込んだ。自分に特別才能がないのは、自分が一番知っている。だからこそ、誰よりもコートを走り回り、ボールを追いかけた。何にも揺るがない強気の心を持とうとした。コートにいても、ベンチに下がっても、声を張り上げてチームを盛り立てようとした。そうすることで、上級生からの嫌味や「仙道よりも前に立つ同学年の選手」というプレッシャーと不評を撥ね除けたかった。そうしていると、その上級生たちはいつの間にかいなくなっていた。魚住の代からさらにハードになった練習についていけず、退部したのだ。
     しかし、背番号6番の重みは消えない。がむしゃらになった。どんなにつらい練習も、きつい試合展開も、歯を食いしばって挑んだ。何からも逃げない意志を固くした。恐れず立ち向かう姿勢を身に着けた。この背番号に負けない選手になりたかった。そして今日、その呪縛じみた番号は、越野の背中から離れた。
    「あっという間だったな」
     この一年、一日一日が重くて苦しくて、濃厚で、次第に充実していった。それが何故だか一瞬のことのように思える。不思議なものだ。振り返ってみると、列車の車窓から景色を眺めているみたいだ。様々な情景が、今までの出来事が、越野の前から次々と通り過ぎていく。通り過ぎた先で、越野の高校バスケはまだ続く。先日までのインターハイ県予選で味わった悔しさをバネにして。けど、これまでの全部が、痛みも喜びも悔しさも全てが、一冊のアルバムに収められて否応なく手渡された心地だ。終わってもいないのに、どうして。どうして、虚無感を覚える。どうして、なんで、こんなに、寂しいんだ──
    「──おい、越野!」
     天井あたりから降ってきた声が、越野の頭上でぴしゃりと弾いた。途端、ふやけていた視界の焦点がくっきりとする。目の前にあるのは床、見慣れた部室の。そして自分の足、外履きのスニーカー。そしてその少し先に、もう一つスニーカーがある。越野よりも大きい、これも目に馴染んだものだ。
    「どうしたんだよ、ぼーっとして。今日の部活でバテたのか?」
     声の元を見上げると、これまた見慣れた顔が越野を見下ろしていた。仙道。だが、その表情はいつもの飄々としたものではない。眉尻が少し下がり、唇が少し歪んでいた。心配されている。
    「違えよ、少し考え事してただけだ」
     越野は、パイプ椅子から腰を上げた。パイプの関節からきしりと古びた音が鳴る。体育館の備品だったが、学校が新しいものに買い替える際に頂戴したものだ。部室のドアや窓に流れ込む潮風にあてられて、所々錆びついている。そこにいつの間にか座っていた。あれから体育館を出て、部室まで戻り、着替えて、何となく腰を掛けたのだろう。だろう、というのは、それまでの記憶が曖昧だからだ。物思いに耽け過ぎた。けど、しっかり帰り支度までしている。習慣というのは時に意識を超越するな、と感心した。
    「ならいいけど。具合悪いんじゃないなら、早く出ようぜ」
     仙道の唇の隙間が、綺麗な一本線に整えられた。口の端が少しだけ持ち上がる。いつもの余裕そうな顔だ。ふと、越野は部室内をぐるりと眺めた。誰もいない。自分と仙道以外の部員は全員帰ったようだ。
    「なんだよ、待っていてくれたのか」
     今日は別に、仙道と何も約束はないはずだけど。越野は横にあるもう一つのパイプ椅子に置いていたスポーツバッグの肩紐を掴んだ。ファスナーの締めが甘く、バッグの中身が少し見える。その隙間から光沢ある布が、つるりと照った。5番のユニフォーム。
    「だって越野、このまま放っておくと明日の朝練まで座りっぱなしなんじゃねえかってくらい、動かねえから」
    「なんだそりゃ」
     肩紐をたすきのように身に掛けた。右肩にバッグの重量が掛かる。記憶から引っ張り出していたいつかの衝撃が、その重みにずしりと上書きされた。
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    Remma_KTG

    DOODLE診断メーカーで出たやつ書いてみた。

    蓮魔の長晋のBL本は
    【題】柔い眼
    【帯】物にも人にも執着しない貴方が怖い
    【書き出し】雨に混じるよく知った匂いを気づかれないように吸い込んだ。
    です

    #限界オタクのBL本 #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/878367
    柔い眼 雨に混じるよく知った匂いを気づかれないように吸い込んだ。墓から線香の匂いを連れてきていて、それが妙になじんでいた。
     同じ傘に入る男の肩が濡れている。長可はそっと傘を傾けて彼の体を影に入れたが長い髪はどうしても濡れてしまう。片手で髪を引き寄せて、雑にまとめて肩に載せてやる。長可より背の低い男の表情かおは、前髪で隠れてしまってこちらには見えない。
    「……悪い。片手じゃうまくまとまらねえわ」
    「帰ったら切るんだ、そのままでいい」
     さっきまで他の話をしていた高杉は、一瞬だけこちらに反応をよこしてまた元の話の続きに戻った。駅近のガード下にある特定の条件を満たした時にだけ現れる謎の古本屋があってなかなか手に入らない希少な本を取り扱っているんだとか、金品では売ってくれず他の代価を要求されるんだとか。そんな眉唾な噂話をわくわくした様子ですらすら話す。適当にあいづちを打ちながらほどけてまた雨に濡れ始めた髪をそっと集めた。
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