口調の参考等にもなりますね「柊くん。」
どうやら寝てはいなかったようだ。驚いたのか、一瞬ビクッと肩を揺らしてから机に突っ伏していた顔をのそのそと上げ、顔だけこちらに向けた。
「な、なんすか。」
「おはよう、早いね。いつもこんな早いの?」
「まあ。」
素っ気ない返事だけが帰ってくる。今まで話してこなかったからか、少しだけ警戒の色が見えた。なるべく砕けた話し方を心がけて、僕は要件を話始める。
「そろそろプールの授業あるよね。柊くんは参加するの?」
「しない、ダルいし。」
「そっか、僕も入れないからさ。」
少し考え込んでからふーんと鼻を鳴らして目を逸らした。大きな欠伸が見える。噂とは違い、思いのほか雰囲気は柔らかくて話しやすい。髪色からどんな尖った輩かと思っていたが、中身は僕らとそう変わりないのかもしれない。…………でもプールはサボりなんだな。やっぱ不良じゃん。
「…………」
「……え?な、なに…?まだなんかあんの…?」
「あ、ごめん考え事してた。」
「ビビっ、……なんかブチ切れたのかと思った。」
「ごめんごめん。じゃなくてさ、プール一緒に見学しない?」
「は?やだよ。面倒臭い。」
「は?」
柔らかかった雰囲気の崩壊。一瞬生まれた沈黙が通常より重くのしかかる。上げていた口角がひくついて笑顔がヒビ割れそうなところを抑えて、1度大きく息を吐いた。柊はもう心は閉ざしましたと言わんばかりに反対の窓の方を向いている。
「せめて見学くらいはしないと単位落とすよ。」
「…………」
「見るくらい別にいいでしょ?」
「…………」
「ねえ。」
「………………」
柊秋弥、コイツ……。得意の営業スマイルが砕け散りそうだ。体の底から湧き上がる飾らない冷たい声が、柊に釘を刺そうと飛び出た。
「……あのさぁ」
話し始めた途端にガラガラっ、と勢いよくドアが開かれた。 数人の話し声と足音が聞こえる。振り返って時計を見ると、教室に入ってすぐ見た時から針が10分も進んでいた。
「おはよー委員長、と柊。珍しい組み合わせだな。何話してたんだ?」
「……別に、大したことじゃないよ。」
笑顔カムバック。 目線を戻して柊にじゃあまた、と声をかけて自席へ歩き出した。一瞥もくれない柊に少しイラッとしながら、単位落としてしまえと小さく心の中で呟いて考えるのをやめにした。