イスシン事前に凍傷について整備クルー達に教授されている。
濡れてしまった隊服は上下脱ぎ、暖炉の近くに置いて乾かし中だ。インナーとパンツだけの姿になった四人のプロセッサーは各々暖炉の前で温まりつつ手足の確認をしていた。
「凍傷で壊死なんかしたらほぼ確定で処分だからな。指はちゃんと乾かせよ」
ちらりと小さな子供を見やる。
「はい……おれは凍傷も大丈夫みたいです」
そう報告をする子供の声を聞き流しながら両手を握ったり開いたりして動きを確かめる。軽い凍傷になっているようだった。
凍傷は身体が小さい者や脂肪の少ない者がなりやすいはずだが、頑丈な奴である。
凍傷になった時の対処法は、お湯に患部を浸すか、凍傷になっていない者の体温で温める方法がある。しかし現在俺達にとれる対処法は一択だ。
「あ~……シン、お前ちょっと体温貸せや」
「……」
ペラペラのボロい毛布にくるまり、小さく丸くなるように座り込んでいたシンが無言で此方を見やる。非常に嫌そうな顔であるが、渋々こちらへ四つん這いのまま近寄ってきた。表情はあまり動かないが分かりやすい。こっちだって不本意だ。
「仕方ねぇだろ。消去法だ消去法」
現在ここには男4人でなんとか隙間風を補修したボロい山小屋の暖炉の前で座り込んでいる。お互い隙間なくくっつき、手足を火の直ぐ側に出して必死に体を温めている。予備の燃料などほぼ置いていなく火の勢いは弱い。
正直良い状況ではないが、ある意味でシンは運が良い。共に遭難にあったイスカ以外の隊員2人は比較的シンに同情的な奴らだからである。しかし多少同情的であるだけな為か、シンが一番小さいというのに一番端、イスカの隣に座らされているが。
こんな外より多少マシな屋内で体温を借りる相手は、ゴツい男どもと端正な顔立ちの少年どちらにするかなど考えるまでもない。例え自身がスケープゴートに選んだ帝国貴族の血筋だとしても、だ。
シンを後ろから抱きこむと、
(思ったより柔らかいな)
想像していたよりも抱き心地の良さに驚く。サイズの合っていない隊服を着ていたせいか分からなかったが、シンの体つきは細くはあるもののガリガリな訳ではなく適度に柔らかな脂肪と筋肉が付いていた。その上子供特有か、体温が高い。まだ12才ほどの性差のはっきりしない中性的な体のせいもあるだろう。この隊に来る前までの環境が、まだマシな部類だったというのもあるかもしれない。
つらつらとそんな予測をしつつ、不満げにぼやく。
「くそっ何でこういう時にルリヤいねぇんだよ!役に立たねぇ~」
「ははは確かに。あいつがいれば俺らこんな哀れな格好してねぇよな」
「あんなガリッガリの体でも女だもんな~男よりマシ」
と乾いた笑いをこぼした隊員は、ゴツい男──あくまでも友人である。と、半裸でぼろ布にくるまり抱き合っている。
誤解を解くが二人はそういう関係ではない。イスカ同様軽い凍傷のため友人の体温で温めてもらっているだけである。
隊員達と軽く談笑しつつ背後から抱えたシンの薄く質の悪いインナーの中へ、両手を潜り込ませる。
「っ、」
突然服の中に入ってきた手の冷たさに息を詰め、シンはぶるりと身体を震わせた。
軽い凍傷の手には熱さすら感じるシンの薄い腹をゆっくり撫で上げる。
「つめたい」
抗議の声は聞かなかったことにした。
まだ、傷の少ない滑らかな柔い肌からじんわり温まるのを感じる。
「はぁ~~これが子供体温か…」
湯船につかったような声をこぼしながらシンの未だに着けている水色のスカーフ越しに覗く、白い項へ鼻を埋める。
「ぅ…」
シンは小さく噛み締めた口から呻くような声をもらすと、首筋に生暖かい吐息がふりかかる。ぞわりと小さく肌が粟立つ感覚と嫌悪感でビクンッと肩を跳ねさせた。そのあからさまな反応にくつくつと口の中で笑いを響かせ、耳元へわざと吐息を吹き込むようにして囁く。
「首元へ手を入れなかったのは俺の優しさだ。感謝しろよ?」
「おいこらイスカ、こんな所で盛るな」
「は?ガキ相手に盛るわけねーだろ!そこまでイカれてねぇ」
「いやでも、どうみても手付きがエロいんですけど」
「手慰みだ。暇なんだよ。吹雪が収まるまで身体を温めときたいし」
「くすぐったいし温まりたいなら動かないで下さい。こっちが休めないんで」
「相変わらず媚びも愛想もねぇガキだな…可愛くねぇなぁ」