水底から呼ぶ声 #宿虎怪奇譚
「なんで」
虎杖は自分の目の下を触った。受肉してから、宿儺の器となってからずっとそこに在ったはずの傷跡は、宿儺の器の証のようだった複眼痕は綺麗さっぱり無くなっている。
「なんで」
空になった胎を両手で抱き締めるように擦る。そこにはもう、あの呪いの王は宿っていない。
呪いの王・両面宿儺は虎杖の中から出て行った。死滅回游の最中、宿儺は虎杖に身体を一時的に明け渡させると指を呪物化させてあろう事か新たな器として以前から目を付けていたらしい伏黒に飲み込ませて、その身体に受肉するという荒業をやってのけてのだった。
去り際に、虎杖の身体にも心にも傷跡を付けて。
「……宿儺」
脚を抱え込みギュ、と力を入れて膝に額を付ける。
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