【AYAKA>幸+尽】変装して、一ノ島の高級カジノに乗り込む話。 たいへん陰鬱な気持ちで、幸人は停車した車の中から、きらびやかな建物を見上げた。
一ノ島の高級カジノ。
お金持ちの観光客向けだというその建物は、幸人のような一般人が足を踏み入れるには、あまりに場違いな場所に違いなかった。
ため息をつく間にドアが開けられ、開いたドアをから顔をのぞかせた人物――尽義に手を差し出される。
髪を整え、高級だと聞いているスーツで正装した尽義は、何度見ても普段とは別人のよう……いや、まるっきり別人だった。
けれど、手を差し出してニヤニヤと笑う表情は、どんなにめかし込んでいても間違いなく、見知った放蕩師匠のものだった。
こんなことになってしまった元凶の、しおらしさのカケラもない態度に腹が立つ……!
この顔を蹴飛ばして帰ってしまいたい衝動をぎゅうっと抑えて、睨みつけるだけで我慢する。
ここまできて、本当に帰ってしまうわけにはいかない。
打ち合わせ通りに尽義の手を取って車を降りた。
慣れない衣装で心配もあったが、練習通りに降りることができたと幸人はホッとする。
そして……
車から出てしまった。
今の己の姿が、外界にさらされてしまった。
落ち込んで丸めたくなる背中を、使命を思い返して気力で伸ばした。
今の尽義の姿を「普段とはまるっきりの別人」と評している幸人だが、自分のほうがよっぽど……であることを、きちんと自覚している。
長くつややかな髪(かつらだ)。
尽義が用意されたスーツに見合う値段だという高級なドレス(幸人には生地がいいとかデザインがいいとか、さっぱり分からない)。
足元は、それなりの高さのあるヒール(歩く練習だけで苦労した)。
化粧を施された顔に、イヤリングなどのアクセサリー……(このあたりをメインで協力してくれた金崎さんは、とても楽しそうだった……)
今の幸人は、「高級カジノを訪れて何ら違和感のない女性」の姿に、すっかりと仕立て上げられていた。
幸人当人としては、不安も不満もたんまりあるのだが、"変装"を手伝ってくれたアヤカセキュリティの人たちには、「バッチリ!」と太鼓判を押されていた。
「行けるか、幸人?」
送り出されたときのことを思い返していると、尽義に小声をかけられた。
見上げれば、さっきのニヤニヤ顔からうってかわって、気遣うような――そこに、不安もにじんで見えるような――尽義の表情があった。
あの日、とんでもない覚悟を決めて現れて――それを辛く思っていることを隠しきれていなかったあの顔を思い出させる表情……
これから向かう先で待っているのは、女装がバレて赤っ恥をかく、なんていう笑い話のような心配事だけではない。
いや、幸人はそれも、十分嫌なのだけれど……もっと深刻な危惧に比べれば、やはり些細なことだった。
命の危険が、あるかも知れない。
幸人はそれを分かっていて、覚悟してこの作戦に参加したのだ。
自分の力が必要になるに違いない。
そう思って。
尽義一人を行かせられない。
そうも思って。
だから、尽義にうなずく。
触れる手に、少し力を入れる。
そうして、大丈夫だと伝える。
うなずき返した尽義の表情は、少しゆるんだように見えた。
前を向き、歩き出した尽義に合わせて、幸人も歩を進める。
磨き抜かれた階段に、ヒールの底をカツンと乗せた。
〇短い?あとがき
なんでもいいなら、とりあえず女装ネタやろう。と、思った。
トウテツさんの一件(公式アヤセキュ漫画)で変装経験のあるアヤセキュが、バックアップしている。
尽義さんが元凶だが、みんな尽義さんほっとけないし、ちょっくら島全体を巻き込む大ごとになってきたので、みんな協力してくれる。←結婚前夜か?
一ノ島にそんな高級カジノがあるのかは知らんです! もっと一般の観光客向けイメージだものなあ……カジノがあるのは間違いないんだけど……高級カジノ、あるのかなあ……
今回の事件の発端が、このやばげな高級カジノができたこと自体、って可能性もあるし、ふつーに稲生さんも認可した高級カジノだったけど、あとからやばげな輩に乗っ取られた、って可能性もあるし……
幸人くんじゃなくても、とか、お兄ちゃんたち(尽義含めて)幸人くんに危険な真似させんやろとか、全部ほっといてください!
このタグなら、そういうこと考えなくてもいいな!
って、思ってやった!
おつきあいいただき、ありがとうございました。m(__)m