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    saminogi

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    saminogi

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    花吐きパロ

    花吐き病を患ったアルハイゼンとそれを知ったカーヴェの話

    アルハイゼンが拗らせてるし、最後は甘い

    *花吐き病のパロですが、原作派生特殊設定の死に至る病として書いています。

    共に散る華





    けほっごほっ

    乾いた咳を繰り返す。喉元にある違和感に眉を顰め、迫り来る吐き気に胸を強く抑えた。喉元に留まる何かを押し止めて飲み下してしまえればどんなにいい事か。実際はそんな事はできず、強制的に吐き出された『それ』に陰鬱な気持ちになる。
    まるで闇夜を映したかのような真っ黒な花弁。毒々しいとさえ感じる花びらが散ったベッドの上を一瞥して重い溜息を吐き出した。

    『嘔吐中枢花被性疾患』
    ――通称.花吐き病

    アルハイゼンがこれを発症したのは一週間程前の事であった。脈絡もなく唐突に訪れる吐き気と共に堪える事も出来ないこの症状を、誰にもバレない様に細心の注意を払ってきた。特に同居人にだけは知られる訳にはいかなかった。
    そう、彼にだけは知られてはいけない筈だった。

    コンコンッと叩かれたドアと共にアルハイゼンを呼ぶ声が聞こえ、扉が軋む音がする。

    「開けるなっ!!」
    「えっ」

    咄嗟に怒鳴りつけたが、返事も待たずに部屋の扉を開けた不躾な男――カーヴェが珍しいアルハイゼンの怒号に身体を固まらせた。慌てて扉を閉めようとしたカーヴェがアルハイゼンの姿を見て目を見開く。

    「君!それは……」

    驚きながら駆け寄ってくる相手に舌打ちをしながら手で近寄るなと牽制する。ピタりと歩みは止めたが、カーヴェが大人しく引き下がる訳がなかった。

    「それは…花吐き病か。最近疲れているなとは思っていたが、君は一体いつから発症していたんだ!」
    「煩い。人の部屋に勝手に上がり込んで喚くな。俺なら大丈夫だ、部屋から出ていってくれ」
    「大丈夫な訳あるか!君なら知っているだろう?それは体液を花に変化させる病気だ、放っておけば死に至る病だぞ!ビマリスタンには行ったのか?」
    「必要ない。この病に薬は効かないからな」

    わかりきった事を喚き散らすカーヴェに苛立ちが募る。こうなる事がわかっていたからカーヴェには知られたくなかったのに、この予測不能な行動をしてくる男から完璧に隠し通すには無理があったようだ。額に手を当てて溜息を吐き出すカーヴェに、溜息を吐きたいのはこちらの方だと舌打ちをする。

    「そんなにその病気に詳しいなら治療法は知っているだろう?君に想い人がいるとは驚きだが、性格の悪ささえ除けば君は魅力的だ。本気で想いを伝えれば嫌がる人間などいない」
    「はっ、こんな重々しい花を吐き出す程の想いを向けられて嬉しい人間などいるものか」
    「君が自嘲とは珍しいな。余程憔悴している証拠だ。手遅れになる前に想いを伝えるんだ。……なぁ、君とは喧嘩ばかりしてきたけど、そんな弱った姿が見たい訳じゃないんだ。僕が君の想い人を連れてくるから教えてくれないか?あの時の旅人か?砂漠の傭兵の女性か?それとも教令…」
    「君には関係の無い事だ」

    心配そうに言葉を並べるカーヴェを遮って冷たく言い放つ。一瞬傷ついた様な表情を見せたが、珍しく眉尻を下げてゆっくりと近付いてくる。

    「関係がないものか。僕と君は確かに仲は良くないかもしれないが、それでも今まで寝食を共に過ごしてきた仲だろう。頼むから意地を張るのはやめてくれ、命より大切なものなどある筈がない」
    「心配しなくてもこのままただ死を待つつもりはない。君は俺の事など気にせず普段通りに生活していればそれでいいんだ」
    「出来るわけないだろ!君だって想いを伝える事も諦める事も出来ないから今そんな状態なんだ。このまま想いと共に死を迎えるつもりなら許さないからな!」

    相変わらず人の言う事を信用しない男だ。
    だが、事実アルハイゼンは想いを告げる気も捨てる気もなかった。文献を元にこの奇病について調べてはいたが、他に治療法もなくまさにお手上げ状態。しかし、想いなど告げれる筈もない。何故なら、アルハイゼンの想い人は今目の前にいるカーヴェなのだから。
    今、この場でその腕を引きベッドに押し倒して告白すれば、この男は簡単に受け入れるだろう。その身体すら簡単に明け渡すに違いない。他人の命の為であれば。
    例えば落し物を拾って持ち主に返すように、迷子の子供を家族の元に送り届けるように至極当然の事であるかのように彼はそれをやってのける。例え相手がアルハイゼンではなくても。

    それでは意味が無い。見せかけだけの同情心で、誰にでも振りまかれる博愛精神で、彼の情愛を受けたい訳では無い。

    げほっ、ごほっ、ごほっ

    また急に込み上げた吐き気に口元を抑える。違和感。いつもより苦しく圧迫される喉に生理的な涙を浮かべながら吐き出した。パサりと部屋の床に吐き出されたそれは、いつもの花弁ではなく形をもった花の塊だった。

    「大丈夫なのか?」

    心配そうに顔を覗き込んでくるカーヴェをじろりと睨みつける。こんな所など見られたくはなかった。頼むから出ていってくれと伝えたかったが、喉に残る違和感に嘔吐く。追ってパラパラと散る花弁に嫌気がさした。

    「……君は重々しいと言ったが、とても綺麗な花じゃないか」

    そう言って、カーヴェが静かにまるでそれがとても大切なものかのように、アルハイゼンの心を掬い上げるかのようにゆっくりと手のひらで包み込んで持ち上げた。
    あまりにも恭しく行われた動作に、思わず反応が遅れる。それを理解した瞬間反射的にアルハイゼンの手はカーヴェの手を叩き落とそうと動いた。

    「うわっ!危ないなっ、何するんだ」
    「それはこっちの台詞だ!君は何を考えている!花に触れれば感染する事ぐらい知っているだろう!」

    馬鹿なのは俺の方だ。
    こいつはこういう奴だ。何を言っても無駄で、自身の感性のままに行動する男だ。
    早く遠ざけて放り出せば良かったのに、そうしなかったのはアルハイゼンの落ち度であった。アルハイゼンから吐き出された花を守るように大切に抱えて、カーヴェは口を開いた。

    「君が一人で抱え込むつもりだったのなら、残念だったな。君一人でなんて朽ちさせやしないよ」

    なんて、馬鹿げた台詞を並べる男に頭が痛くなる。

    「先程、命より大切なものはないと言ったのはどの口だ?君こそ想い人がいるかは知らないが、伝えてさっさとこの家から出て行くといい」
    「残念だったな!僕は失恋したばかりだ!それに、この想いを捨てる気もない」

    勝ち誇ったかのように胸を張るカーヴェに、最早何を言っても無駄なのだと悟る。アルハイゼンは片手で顔を覆って俯いた。

    「君のその行き過ぎた博愛精神は毒でしかない。君はそれで周りを救っているつもりかもしれないが、より苦しむ人間がいる事を理解すべきだ」
    「心を痛めているのか?」
    「呆れているんだ」
    「君は僕をまるで聖人君子かのように言う事があるが、誰にでもこんな事をするわけじゃないよ。君こそもっと僕の事を理解すべきだ」

    君の事なら充分過ぎるほど理解している。
    浮かんだ言葉を飲み込んで奥歯を強く噛み締める。こんな筈ではなかった。カーヴェを巻き込むつもりなんてなかった。いっそ気持ちを告げてカーヴェが受け入れれば二人共が治るという可能性はあるだろうか。試した例はないが、たぶんそれは否だ。病とはいえ、結局は心の問題だ。ただ受け入れられたからといって、それをアルハイゼンは両思いであると認識する事は出来ないだろう。

    なら、このままこの男の言う通り二人揃って命が散るのを待つのか?

    (そんなのは御免だ)
    幸いカーヴェは感染したばかりだ。ひ弱とはいえ衰弱するにはまだ時間がある。例え恨まれたとしても、カーヴェの想い人を見つけ出し裏から手を回してカーヴェにバレないように両思いにさせればいい。自身にそれ程の時間が残されているかはわからないがやり遂げるしかない。好いた人間の恋の手伝いをする事になるとは、今までのアルハイゼンなら考えれなかった。
    長考をしていると、ゆっくりと目元が何かに覆われる。暖かく優しいその何かに思考が霧散する。

    「目付きが怖いぞ。余計な事を考えなくていい。僕は君と共に過ごして、共に朽ちていきたいんだ」

    カーヴェの手のひらに目元を覆われてるのだと気付いて、その腕に手をかける。ゆっくりとその手を遠ざけると目の前に現れた端正な顔立ちが破顔した。

    「どうして」
    げほっ、こほっ

    何故そこまでするのかと問おうとした時、カーヴェが口元を押さえて咳を繰り返す。幾度となく繰り返される咳の合間からハラハラと薄紫色の綺麗な花弁が散っていく。花弁に囲まれたカーヴェは今の状況とは反して、あまりにも綺麗だった。

    「なるほど、これは中々に辛いな……けほっ。まだ喉に異物感があるよ」

    花を吐き出し終えたあとも違和感が残るのだろう。カーヴェが眉を顰めながら咳を繰り返す。「ああ、でも」と呟きながら手のひらに溜まった花弁を見つめてカーヴェが呟いた。

    「これは良い証拠になるな」
    「何のだ?」

    「ほら、見てくれ、アルハイゼン。僕の君に対する気持ちはこんなにも美しいんだ」

    眩い程の笑顔と共に花弁が溢れた手のひらを差し出したカーヴェに、アルハイゼンの思考は停止した。暫くは何も言えずにカーヴェの顔をただ見つめていると、カーヴェの方が耐えきれなくなったらしく頬を染めて顔を逸らした。

    「君の言う通り想いを告げたというのに、何か言ってくれてもいいだろう」

    少し拗ねた様な物言いに、再び思考が動き出す。

    これはアルハイゼンを気遣った嘘だろうか。
    いや、それはない。アルハイゼンはまだ想い人が誰かは告げてはいない。今ここでそんな嘘をつく理由は何一つない筈だ。
    嘘じゃないのだとすれば、カーヴェの想い人はアルハイゼンであるという事になる。

    馬鹿な考えだ。と自身を嘲笑いたかったが、今導き出される答えはそれしかなく、信じられない気持ちでカーヴェを見つめ、真相を確かめようと口を開こうとした。

    げほっ

    その瞬間いつもの吐き気がまた押し寄せ咳が言葉を塞ぐ。いつもとは違い中々花弁が吐き出されず、目を塞ぎながら乾いた咳を繰り返していると、心配した表情でカーヴェが背中を摩ってくる。

    やがて、パサりと音を立てて花の塊がアルハイゼンの太腿の上に吐き出された。吐き出した後、不思議とそれまで漠然と感じていた違和感が消えた気がした。

    「え」

    驚いた様な声が耳元から聞こえ、アルハイゼンは閉じた瞳をゆっくりと開いた。目の前にあった花はいつもの重々しい黒色ではなく『白銀の百合』であった。
    それはアルハイゼンの花吐き病が治った証であり、想いが叶った証でもある。
    その意味をカーヴェも察した筈だ。

    「ああ、なんだ。君が好きなのは僕だったのか」

    呟きと共にカーヴェにも訪れた咳に、最早吐き出されるものが何かは容易に想像できた。
    予想通りに吐き出された白銀の百合を見て、カーヴェが笑い出す。

    「なんだ、こんなに簡単な事だったのに僕達は擦れ違ったまま心中しようとしてたのか?滑稽だな」
    「俺は心中などするつもりはなかった。勝手に君が後追いしようとしただけだろう」
    「それもこれも君が素直に想いを告げないせいだろ!全く僕の覚悟を返して欲しいよ」
    「そんな馬鹿げた覚悟など捨ててしまえ」
    「……きみ、本当に僕の事が好きなのか?もうちょっと好きな相手には優しくした方がいい。気付ける訳が無いだろう」
    「お互い様だ。誰にでも愛想を振りまいていては特別だと言われた所で信じられる筈もない」

    解けた緊張感にいつものように饒舌になる二人だったが、唐突にカーヴェが視線を落としてお互いの吐き出した百合を掲げて見つめだした。暫く見つめた後にアルハイゼンの前に差し出して笑顔を見せる。

    「全く正反対な僕達だけど、これはお揃いだな。僕達の両想いの証だぞ」

    なんて言いながら、嬉しそうに顔を綻ばせるから。
    アルハイゼンは堪らない気持ちになって、その腕を掴んでカーヴェを引き寄せた。バランスを崩したカーヴェがアルハイゼンに倒れ込んでくる。文句を言いたげに体勢を整えようとするカーヴェの顎を掴んで顔をあげさせると、少し頬を紅潮させて視線を泳がせた後に静かに瞳を閉じた。それを合意と取り唇を重ねる。

    叶わないと決めつけて吐き出し続けた想い。
    叶った以上は手放す気などない。
    例え吐き出した花が共に散ろうが、最早二人には関係の無い事だ。

    確かめるように何度も口付けた唇からは、ほのかに花の香りがした。




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