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    rie_tkm

    どこを切ってもしあわせなゾサ

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    rie_tkm

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    ゾサ島クリスマス🎄連載まとめ。
    「トラと一緒」↓から数ヶ月後の話。
    https://poipiku.com/742074/5731408.html
    ⚠️懐妊ネタ

    ##連載まとめ

    きつね男、ハッピークリスマス「あ……雪だ」
     やけに冷えると思ったら。
     うたた寝から覚めたソファの上、逆さまに見上げた大きな窓に、触れては消える淡い白。
     ぼやけた目を擦り起き上がる。寝過ぎちまったか、と薄暗さに一瞬焦ったけれど、時計を見るとまだ昼過ぎだ。
    (なんか、羽織るもん……)
     のろのろとソファを下り、目についたのは脱ぎ捨てられたセーターだった。つい最近ふざけて買った──赤と緑のボーダーにデカいトナカイ模様が入った、いわゆるクソダサセーターだ。
    (……わりと気に入ってるっぽいよな)
     そろそろ洗ってやらねェと、なんて思いつつ、その抜け殻を拾い上げる。
     ふわりと香るあいつの匂い。
    「くっせェな」
     予想を裏切らないそれにちょっと笑いながら。不思議な誘惑に抗えず、もふっと顔を埋めてしまった。
    (うう……くせェ、のに)
     なんか落ち着く。胸のあたりがあったまって、ついでにヘソの下がじぃんとして。
    (最近……してねェもんなぁ……)
     つけっぱなしの暖房、ひとりきりの部屋。さっき感じたはずの寒さも薄れ、カラフルな毛糸に埋めたままの頬がじんわり熱くなる。
     これを着たあいつにときめくことも、こんな風に自分から甘えることも、そうそうないはずなのに。
     ぎゅってされてェとか。キスいっぱいしてェとか。
    (おれの……ここんとこ)
     あいつでいっぱいにしてェ、とか。
     下腹をさすりながら、うっとり思ったところでハッと我に返った。
    「あ、あぶねェ……」
     もとから鼻は利くほうだけど、この頃ますます敏感すぎて困る。
    (クソマリモは今日も真面目に働いてるってのに……)
     おれを気遣って、エロいことも必死に我慢して。
     危険なセーターはランドリーボックスへひとまず放り、軽く落ち込みながらまた窓の外を見た。風は弱く、静かな雪だ。今夜は積もるかもしれない。
    「……どこにあんだろ、おもちゃ工場って」
     妖精に馴染みのあるおれはともかく、面接を受けたマリモは少なからず驚いていた。
     見えたら即採用というあっさりしたシステムで、愛らしいチビ妖精に忙しなく連れ去られたあの日から、もう三週間ほどだろうか。
     パンの配達から戻り、朝メシを食わせ、弁当を持たせて送り出す毎日。少し前に体調を崩したのをきっかけに、だいぶ元気になった今もまだジジイの店の手伝いはさせてもらえず。
    「過保護すぎんだよ……あいつも、ジジイも」
     こうして慣れないヒマを持て余している。
     唇を尖らせつつも、その不器用な優しさを無碍にするほど、もうガキじゃない。本調子じゃないのは確かだし、渋々甘えることにした。
    (なんか……はりきってるしなァ)
     作業用のツナギに着替え、行ってくる、と出掛けていった頼もしいマリモの背中。送迎つきで、迷子の心配をしなくていいのもおれにとってはありがたい。
    (よし、冷蔵庫の整理でもすっか)
     夜には体が温まるメニューを揃えて、おかえりと言ってやろう。
     腕を捲ったところで不意に電話が鳴った。
    『よお、昼メシ食ったか?』
     お隣さんの陽気な声。そういやすっかり忘れていた。
    「いや、まだ……」
    『なら一緒に食おうぜ。パスタ作りてェんだけど、一人前とかつまんねーし』
    「お、いいな。んじゃサラダ持ってくわ。パンもいるか?」
     いる、と機嫌良く返る声に、こっちの機嫌も上を向く。
     じゃあな、と電話を切れば、確かに腹が減っていた。
    (こいつも、だな……悪魔のくせに)
     気にかけてくれているのが解って、なんだかくすぐったい気分になる。
    「バゲット……あ、クッペもあるな」
     あとは朝蒸したカボチャとニンジンで、マッシュサラダでも作ろうか。


    「先に寝てろっつったろ」
    「昼寝しすぎて眠れねェんだよ」
     湯気の立つ料理とおれを見比べて、複雑なツラで溜息を吐く。
     うっすら雪を乗せた頭がクリスマスツリーみたいなマリモを、からかいたい気持ちもしゅんと萎えた。
    「……風呂汲んどくから、冷めねェうちに食っちまえよ」
    「おい」
    「寝りゃいいんだろ、寝りゃ」
    「おい待て」
     不貞腐れたおれの肩を掴み、振り向かせる強い力。離せよ、と掴んだその指は珍しく冷え切っていた。
    「冷て……」
    「っと、悪ィ」
     慌てて引こうとするふざけたそれを、握りしめて離さない。
    「違ェだろバカマリモ」
     心配なだけだ、わかってる。
    「てめェがあっためろ、って言えよ」
     甘えてるだけだ、それもわかってる。
    「うまそうだ……てめェもな、ってエロオヤジみてェに言えよ」
    「それは言った記憶がねェな」
     ふっと笑う気配。ちらりと見れば、柔らかい目でやれやれと肩を竦めたマリモが、勢いよくおれの腰を抱き寄せた。
     閉じ込めて、締めつける両腕。溶けた粉雪が湿らせる肩口。
    「……悪かった」
     赤く悴んだ耳が頬に触れた。
    「すげェうまそうだし、てめェは相変わらず食っちまいてェくらい可愛い」
     汚れたツナギ、ホンモノの匂い。尻尾の先まで痺れるような甘ったるい囁きに、背中へまわす指が震える。
     言い過ぎだろ、と突っ込むはずが。
    「……別に、食ってもいいんだぜ?」
     緩んだ唇からはぽろりと本音が漏れていた。
    「煽んなアホ」
     そっと肩を押され、鼻先が近づく。
    「腹ペコすぎて、骨までいっちまいそうだ」
     熱のこもった瞳の色。照れ臭さと欲しい気持ちがごっちゃになって。
     薄く開いた意地の悪い唇に、噛みついたのはたぶんおれが先だった。すぐに噛みつき返されて、舌で舌を舐められて、鼻から抜ける甘え声。
     おれの手が短い髪を掻き混ぜれば、おれの頭やケツを撫でまわす手の動きもどんどんいやらしくなっていく。
     気持ちよさとしあわせで涙が滲んだ。
    (ぜんぶ、バレてるみてェ)
     おれが思ってたこと。昼間した恥ずかしい妄想まで。
     ちゅっ、と濡れた音を立て、外れた唇。両手で鷲掴んだケツをぐっと引かれ、硬くなった互いのモノが不安定に擦れ合う。
    「溜まってんなら抜いてやるぞ」
    「こ、こっちのセリフ、おァ⁉︎」
     いきなりふわっとつま先が浮いた。筋肉バカがおれの体を持ち上げたのだ。慌てて手と脚でしがみつくと、そのままのしのしソファまで運び、下ろしたおれの股をおもむろに大きく割った。
    「ば、かやろッ、メシが」
    「冷めるまで持つと思うか?」
     布地の上からキスを落とされ、あ、と上擦った声が漏れる。
    「しゃぶってやっから、見せてみろ」
     目を逸らさないまま大きく開いた口に、膨らみを甘く噛まれて。
    「んあッ……そんな、の……っ」
     焦れったさと期待に揺れるケツ。じっと見守る愛しげな眼差し。
     欲望に抗えないおれの手は、気づけばファスナーへ伸びていた。



     おれのナニを飲み干して、メシもきれいに平らげて、ごちそうさんと手を合わせてからエロマリモは風呂へ向かった。
     あまりの興奮にそれはもう呆気なくイったおれは、そのままぐったり潰れてしまい──ファスナーを戻したのも、ヨダレを拭いてくれたのも、ブランケットを掛けてくれたのも全部あいつだ。
    (……自分で、してんのかな)
     申し訳ないような、さみしいような、やっぱり腹が立つような。
     モヤモヤしながらウトウトしていると、ほっこり湯気をまとったマリモが半裸でリビングへ戻ってきた。
     小さく丸まったおれの頭元へ座り、ついでのようにくしゃっと髪を撫でる。
    「大丈夫か」
    「……おう」
    「明日もたぶん遅ェから、待ってるんじゃねェぞ」
    「何べんも言うな……わかってるって」
    「何べん言っても聞かねェからだろ」
     クリスマス本番を前に、工場の仕事も大詰めだ。待ち焦がれる子供たちみんなに行き渡るぶんのおもちゃを、明日の夜──イブにはサンタへ託すのだという。
    「……抜いたのかよ」
    「まあな。まだまだ修行が足りねェ」
    「おれだって、したかったのによ」
     拗ねて呟くおれの耳を、慣れた手つきであやしながら。
    「無茶すんなって言われたろ」
    「フェラは無茶じゃねェ……だろ?」
    「おれが無茶するっつってんだ。クチで我慢できるかよ」
     自信満々に言われても。
     激しい性行為はダメだぞ、とつぶらな瞳の医者に諭され、激しくない性行為がどんなものか解らないおれ達は、結局禁欲する羽目になったのだ。
    「いいから大人しくしてろ……もう、ひとりの体じゃねェんだ」
     ホントに言うヤツいるんだな、と思ったら吹いてしまった。
     なんだよ、と不服そうな唸り声。笑いながらのそりと身を起こす。
    「へへ……そんなに大事かよ」
    「当たり前だ」
     ニヤけた頬をつねられ、いてェと文句を言うおれを、裸の胸が抱き寄せる。
     腫れ物みたいに扱われるのは、ムカつくときもあるけれど。
    「大事なモンが、大事なモン孕んじまったんだ」
     温かい手のひらが、少しだけふっくらしたおれの腹へ触れた。
    「大事になりすぎて、どうしていいか解らねェ」
     神妙に呟いて、おれの肩へ伏せた頭を、そっと抱いて目を閉じる。
    「どうもしなくていいんだよ」
     おれを選んで、しあわせをくれた。
     これ以上欲張ったら、きっとバチが当たるくらいに。
    「それにおれァ……あと、こいつらも、そんなにヤワじゃねーよ」
     なんせ、おれとてめェのガキなんだ。
     神様もサンタも腰を抜かしそうな奇跡は、いろんな意味でひとつじゃなかった。
     手を重ね、な? と声を掛ければ。
     応えるようにポコポコと、見込みのありそうなパンチや蹴りをあちこちからお見舞いされた。




         ***


     寝苦しさに目覚めたら、背中にマリモがはりついていた。
     しんと静まった真夜中、毛布ごと抱きしめる腕の重さ。
    (帰ったのか……)
     身じろいで振り向けば、汚れたツラと仕事着のまんま、満足そうに眠る男を月がぼんやり照らしている。
    「……やっぱりこうなるじゃねェか」
     おれが世話を焼かなけりゃ、メシにも風呂にも頓着がない。溜息をついて短い髪を撫でれば、込み上げるあたたかい気持ち。
    「お疲れさん」
     朝になればきっと島中に、世界中にあふれる子供たちの笑顔。
    「メリークリスマス」
     おれだけのサンタに戻った汗臭い男の、額にそっとキスをした。

     リビングに飾ったツリーの根元へ、気の早いサンタがたんまり置いたプレゼント。
     気づいて大笑いするのは、夜が明けてからのこと。


    2019/12/24〜25
    春に五つ子を出産しました🦊🦊🦊🦊🐯
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