お隣さん傘の外へ踏み出してから、随分と自分の居場所というものが増えたと思う。
職場、学校、一人暮らしを始めたアパート。
それと。
「おう、おつかれ、芹沢」
「お邪魔します、霊幻さん」
俺が住み始めたアパートの隣室。一方的に想いを募らせてしまっている、自分の上司の住む部屋だ。
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「へえ、良いんじゃねえか、一人暮らし」
相談所の仕事を始めてから、幾度目かの春を迎えようとしていた頃。
夜間学校のクラスメイトの何人かが一人暮らしを始めると聞いて、自分も一人での生活を始めてみようかと思うようになった。
「俺、生活は母に頼りきりだったから、色々と初めてだらけにはなると思うんですけど。新しい生活で、得られることもたくさんあると思うんですよね」
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