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    サモ🐟

    @Samoopink

    らくがきとちょっと危ないものをぽいぽい投げます。
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    サモ🐟

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    前回のモブフェンリルと出会うムコさんのお話の続きです。
    すごく捏造設定ばかりです、すみません。

    【知らない獣②】異変を感じたのは強敵との戦闘中だった。

    風の中に混ざる懐かしいにおい。
    肌にピリリと突き刺さるような敵意。


    ー 近くに、いる。


    よりにもよってこんな時に。

    フェルは目の前の稀にみる強敵にチッと舌打ちをする。
    巨大なミスリルリザード。

    喜び勇んでコイツに突っ込んでいった数分前の自身を呪いたい。

    倒した暁には、近くにミスリルの取れる場所があるかもしれないぞ、と自分の主でもあり番でもあるムコーダに知らせれば、「フェルすごい!!ありがとう」と言って喜んで貰えるかも…!?
    そんな淡い期待…もとい下心で強敵の気配を探り、フェルは自ら戦闘をしかけたのだった。

    (迂闊だった!)


    ミスリルリザードの攻撃をかわしながらフェルは舌打ちをする。
    ミスリルリザードはフェルの得意とする魔法が効きにくい相手だ。

    以前鉱山でミスリルリザードを倒した時は数秒で片付いた。
    やつはまだ小物だったからだ。

    しかし今目の前にいるのは特殊個体とまではいかないが、この辺りの主になるような巨大化したレベルの高いミスリルリザード。
    フェルの本気魔法でも1発では倒せないだろう。

    何でこんな時に!

    大体よくよく考えれば。
    フェルの番はミスリルリザードを倒して持ち帰っても、喜ぶどころか……。
    「えー!またぁ?報告の義務とかあるのかなぁ…その土地の領主とか出てきたら面倒だなぁ…」等とブツブツ文句を言いそうだ…あぁこちらだ。絶対恐らくこっちのパターン…。

    フェルはミスリルリザードの魔法の攻撃を避けながら読みが甘かった…と後悔する。
    我が番、金儲けとか目立つこと好まない…。
    ニンゲンは欲深いものだって教えられたしそう思っていたのに。

    ギャアォォォ!!とミスリルリザードが声を上げた。
    フェルの雷魔法をまともに食らい、びくびくと震えながら地面をのたうちまわる。
    しかし、まだ完全には倒れぬようで鋭い爪が飛んできたから交わしながら次の魔法の準備をする。
    もう正直こんな敵なんてどうでもいい。
    早く番の元に行きたい。

    しかし、身体の大きいミスリルリザードは道を塞ぐように存在し、逃走を許してくれそうになかった。



    風に乗って届いた同族の懐かしいにおい……。
    鋭い敵意。
    気配を殺しているようだがフェルには分かる。

    何が目的か…?
    自身に用があるならコソコソと気配を消す必要はない。

    では…?

    嫌な予感に毛並みがザワザワと逆立つ。

    ギャオォォ!!
    最後の力を振り絞るようにミスリルリザードが暴れはじめた。

    『手間をかけさせるな!』

    早く番の、ふにゃりとした気の抜けるような笑顔を見て安心したい。

    ドン!という衝撃音とともに空から光の矢が降り、頭部を打ち抜く。
    バリバリと雷電で辺りが眩しく光り、光が落ち着くと共に地面にドォンと倒れる巨体。

    タイミングをはかったかのように「フェル!助けて!!」と言う番からの念話。

    『…っ!!』

    あぁ、やはり!!

    フェルは地面に倒れたミスリルリザードを一瞥し、弾かれたように地面を蹴る。






    『…ちっ!遅かった!!』



    番の待つ場所に引き返すと、そこには魔導コンロがぽつんとあるだけだった。

    コンロにはいつも食事の際に使っている大きな皿が並べられており、調理の途中であったのだろう、中身の入った鍋もそのままだ。


    魔導コンロの近くに、良く知っているにおいが残っている。
    愛しい番の花の蜜のような香り。
    それに纏わり付くように土と毛皮のにおいがした。
    …これは同族…フェンリルのにおいだ。

    フェルは鼻を動かしながら、幼き頃に自身が群れに属していた頃を思い出してみる。
    知っているフェンリルを一匹一匹思い出しては、コンロ周りのにおいと比べていく。

    群に属していたのは何百年も前のこと。
    しかし嗅覚と記憶力に長けたフェルだからこそ、このにおいがフェンリルの中でも特別な者であることに気づけたのだった。

    このにおいには特徴があった。
    群れが暮らす土地にはない花のにおいがする。
    香りが強く、嗅覚の鋭い一族の者はあまりその花の近くには行きたがらないのだ。

    となると。
    群から離れた……群から追い出されたフェンリル。
    恐らくアイツだろう、とフェルの眉間のしわが深くなった。

    『何事だよ!主大丈夫か!?』
    『あるじーーー!!』

    フェルより少し遅れてドラとスイが駆け付けてきた。
    フェルと同じくポツンとある魔導コンロを見て、主がいないことに気づき2匹で青ざめ、声を上げる。

    『主どこだよ!?…は、まさかこの前オレがいないふりして心配かけたからその仕返しでかくれんぼか!?』
    『あるじ、スイがあるじのごはんの端っこ食べたの怒ってるのー?』

    呑気な2匹にフェルは足踏みをしながら簡潔に知らせる。
    『浚われた。助けに行くぞ!』
    『『……えぇぇぇ!?』』

    『走りながら説明する!スイ、乗れ!』
    『う、…うん!!』
    スイがフェルの頭の上に飛び乗る。
    触手が毛を掴む感覚を確かめると、フェルは大きく跳びあがり、愛しい番と同族のにおいを追う。
    普段番を背に乗せるのとは違う、本気のフェルの走り。
    しかしさすがピクシードラゴン…ドラはちゃんとフェルの走りにピタッと付いてくる。

    『何かオマエと同じにおいがするんだけど!』
    『当たりだ。我の同族、フェンリルが出た』
    『あるじ、どうしたの?どこいったの…?』

    スイもちゃんとフェルの毛にくるまるようにくっつきながら落ちないように付いてきている。

    『…フェンリルに浚われて今頃巣穴の中だろう』
    『た、食べられたり…とか…!?』
    『えぇ!?フェルおじちゃー!おねがいー!いそいでー!!』
    『我の結界と完全防御のスキルがあるから大丈夫だと思うが……心配なのはそれよりも』

    こっちだ!とフェルは尖った岩の連なる足場の悪い岩山を跳ぶ。
    どうやらフェンリルはにおいを散らするようにジグザグに移動しているようだ。だから突然においが薄くなって迷う瞬間がある。
    小癪なことをする、とフェルは前方を睨み小さく唸る。

    『恐らく……我が主はそのフェンリルに心を操られておるだろう』
    『ん?なんだそれチャームの魔法か?アイツにチャームは効かねぇんだろ?神々の加護の力で』
    『スイももってるやつー?』
    『そう。それ。どういうことなんだよ?』

    神々の加護。ムコーダに付いているのは小の加護だが重ねがけ効果で大抵の毒やステータスを下げる効果にはかからないようになっている。

    『…チャームとは少し違うのだ。そのフェンリルは契約魔法の知識に長けていてな』
    フェルの前足が前方の邪魔な木々をなぎ倒す。
    こっちのが最短距離だ、と言うので、確かに、と頷くドラである。

    『フェル、そのフェンリル知ってるのか?』
    『…幼き頃少し共に群れで過ごした。我と同じく生まれつき魔法に長けたやつだった。我が群れを出て暫く経った後、そのフェンリルが群れを追い出されたという噂を聞いた。何でも番となった夫婦に手を出したらしい…』
    『はぁ?』
    『番の誓いは一種の契約のようなものだ。奴はそこに介入できる特殊な魔法を編み出したようでな……それがすごく厄介で一族から相当嫌われてたらしい』
    『そりゃあ…自分の番に手を出されたら相当怒るよな…』
    『奴は番の誓いに介入し、相手を自分に置き換える術を持っている。番になった夫婦を嗅ぎつけては術を用いて雌を奪い、弄んで…そして興が失せると捨てる…』
    『最低野郎じゃねぇか!』
    『そうだ』
    『あるじさらったの、悪いフェンリルさんなのー?スイ、ビュッビュしてい?』
    『しろ!我が許す!!』


    道なき森の中を飛び回り、木々をなぎ倒しながら全速力で駆け抜け、フェルは漸く足を止める。

    森を抜けた先の切り立った崖。
    見上げるほどの大きさのそこを鼻先で示しながら『この上だ』と言うと、飛ぶのが得意なドラでさえも『えー』と嫌そうな顔をした。

    『こんな…主が正気なら絶対に登りたがらないところを登っていったのかよ…!』
    『そうだ。我が番に無茶をさせやがって…』
    グルル…と唸り、崖の上を見据える。
    恐らく崖の途中に洞窟か虚か何かがある。
    そこを住処にしているのだろう。
    ずっと追ってきたフェンリルのにおい…その中に混じっていた香りの強い花が崖の上に咲いてるのを見つけて確信する。

    『誰かが番になったと聞けば行って雌を奪う…。我々フェンリルの番は生涯にひとりだけ。そんな掟も破り、散々夫婦を弄んで楽しむ……。我がヒトと番になったこともどこかで嗅ぎつけたのだろうな…』
    『だからアイツが狙われたってのか!?』
    『一族から相当に嫌われて群れから追い出されておったからもう死んだものだと思っていたが…』

    フェルは崖の足場になりそうな箇所をざっと下から確認する。
    勢いのまま、一気に駆け上がらないと上るのは難しい。
    においの強い花といい、危険な崖といい、こんな所に巣穴をもうけるとは相当の変わり者で最低なフェルリルだ、とフェルは鼻に皺を作る。

    『あるじ、その悪いフェンリルさんについて行っちゃったの-?』
    『…恐らくは。そのフェンリルのことを自分の番だと思い込まされておる』
    『え、それってマズくないか?』
    『非常にそうだ!だから急いでおる!!』











    『…フッ……ハァ。良いぞ……良いぞ我が番』
    「ん……ふぅ、……おっき…はぁ…」


    そのフェンリルの巣穴は切り立った崖の途中に存在した。
    入口が小さく、見つけにくい。
    もし下から上がってくるとしたら足場も少なく、決まった順番で跳ばねば落ちてしまう。
    まして、崖の途中にあるため、勢いを付けて上がってくると見つけられずに通り過ぎてしまうだろう。
    そんな意地悪設定な隠れ家みたいな住処だった。


    薄暗い洞窟の中のはずなのに、今は全貌がよく見えていた。
    人間の番が置いた「カンテラ」という光源のおかげで。

    フェンリルの隣には先ほど浚ってきた人間が寄り添い、小さな手で一生懸命その毛並みを撫でている。

    人間が手を動かす度にあまりの心地よさにウットリと目を細めるフェンリル。

    『ハッ…ハッ……はじめはニンゲンとフェンリルがどう愛し合うのか疑問であったが…くぅっ』
    「ふぅ………フェンリル様、ん…おっきいから大変です……気持ちいいですか…?」
    『さ…最高だ……ハァハァ』

    (なんだこの番…!? 凄い)

    フェンリルがどうしたら気持ちいいのかを熟知してるのでは?と思うほどに、的確に良い場所、良い力加減で手を動かしている。

    人間の手にはコームという道具が握られている。
    それでフェンリルの長い毛を梳き、毛の絡まりを解いていくのだ。

    『あぁ、私の長年の悩みだった毛の絡まりが……!』
    「いかがでしょうか?お水が苦手との事でしたので水のいらないシャンプーでケアしてみました」
    『良い…!毛の絡まりは無くなるし、地肌も心地よい…あぁ…そこだ…ハァ、ハァ…』
    「キレイな毛並みになってきましたよ」

    人間は微笑んで手入れの終わったフェンリルにそっと抱きつく。
    自身で整えた毛並みを確かめるように頬ずりをする。
    『…!我が番……』
    何て可愛いことをするのか…
    「ふぅ……本当は全身丸洗いしたいのですがそれはまた今度にしましょう。大分フワフワになりましたよ」
    『ふぅむ……ふぅ。これはいい。なる程、ヒトにしか出来ん毛繕い…愛し方もあるのか。あの最強の戦士はいつもオマエとこんなことを……!』

    洞窟に連れてきて、はてどうしたものか、と考えたフェンリルは、普段この人間がどうやってフェンリルを愛しているのかを知りたいと思いついた。
    なので好きなように私を愛してくれ、と言い、好きなようにさせていたのだ。
    そしたらいきなり始まったリラクゼーション。
    あっという間に野生の獣は、見違えるほど小綺麗になった美フェンリルに変身したのだった。

    綺麗になった毛並みを自分でも確かめながらフェンリルは気分が良い。

    はじめは、人間なんぞにフェンリルを満足させられるはずがない、と思っていたのに。

    あの最強フェンリル、フェンリルの雌こそが番に相応しいのだということをしらんのか…!と少し小馬鹿にしながら思っていたのに。

    (毛繕いは……フェンリルの雌よりこの人間の方が断然上手いし気持ちいいな…)

    フェンリルの雌に舐められればそれは確かに心地良いが、唾液のせいでかえって毛が絡まったり、固まったり……仕上がりに満足したことなんてなかった。
    私の新しい番すごい。

    「次は肉球をほぐしていきますから、俺の膝の上に前足乗せてくださいね」
    『あ、あぁ………うぬぬぅ……っ!!これはぁぁ…!?』
    思わず声が出た。

    人間の膝の上で、揉み揉みと解されていく肉球。
    ハチミツのような色のベタつかない液体を塗られ何度も何度も人間の手が少し強弱を付けながら肉球を揉んでいく。
    それが毛繕いの比じゃないくらい…気持ちが良い。
    思わずだらしなく舌を出してしまうくらいに。

    人間の番はそんなフェンリルに優しく微笑む。
    「…今日は甘えん坊はしないんですか?」
    『ん?』
    「いつも肉球マッサージをしてるとき『乳は出ないのか?』って必ず俺の胸を鼻先で突きますよね」

    (最強の戦士、何やってんだ!!!!)

    「何か…やっていただかないと調子狂いますね」
    『お、オイ!乳は出ないのか?』
    「ふふ、出ません。あ……ん、齧っちゃだめ…です……えっち」

    なにをさせられてるんだ…と思いつつ、番が色っぽく、そして嬉しそうなのでよしとする。

    (あぁ)


    (あぁぁぁ)


    ふにふにと揉まれている肉球が気持ちよすぎて惚けてしまう。
    毛繕いだけでは到達出来ない、極上の心地よさにフェンリルはウットリと蕩けていた。

    『何故あの戦士がお前を番にしたのか理解した……これに加えて、飯を作らせると美味いのだろう?…こんな番がいて良いのか……?』

    一体戦士はどこでこんな逸材を見つけてきたのやら。


    『さて、後は身体の抱き心地だが……』

    フェンリルはチラリと人間を見る。

    「寝る準備ですか?では…」
    『む、なんだこの柔らかな床は…!』
    「布団です。」

    慣れたようにテキパキと寝床の準備をする人間。
    硬い岩の地面に敷物が敷かれその上に広げられる白いフカフカの布…。
    (おお、いいな、これ…)
    布団と呼ばれる敷物の上に体を横たえると、人間もその隣に寄り添うように座った。

    『そもそもフェンリルとヒトが交尾などできるのか?』
    「…できます。あれ?いつも夜にしてるじゃないですか」
    『え…毎晩?』
    「はい」
    『ちょっと待って』

    え、最強の戦士、がっつきすぎでは?
    そんなに子ども作りた…あぁ、ヒト相手じゃ、ましてこいつは雄。作れる訳が無い。

    …ということは、何が目的で毎晩…

    「ヒトは、子どもを作る目的じゃなくて、愛情表現としても交尾をするんですよ」
    『そ、そんなに毎晩するほど……オマエは良いのか』
    「俺は疲れるからたまにで良いんですけどね…」

    (うむ、なる程)

    交尾は一応可能、と。
    しかし、こんな小さなヒト相手に交尾をしてみようなどと、良くあの戦士は思い立ったものである。
    こんな人間、フェンリルが少しでも無茶をしたらきっと壊れてしまう…。

    強力な結界を張り、壊さないように慎重に普段から守り、愛してきたのだと分かる。

    あの戦士に取って大事な大事な宝物。


    そう思ったらフェンリルはゾクゾクと震えがきた。
    誰かの番を奪うときはいつもそうだ。
    この高揚感がたまらない…!


    そろそろ始めなければ間もなく最強の戦士がここに来てしまう。
    ちょうど相手が到着するタイミングで、奪った番と交尾しているところを見せる…これが何とも言えぬ愉快な心地なのだ。

    相手の絶望した顔!
    あんなに愛していた番を穢れのように見るあの目…!

    あぁたまらない。


    交尾を見せつけたらあの戦士は怒り狂うだろう。
    しかし、番の命を握っている自分に手出しはできまい。
    後は遊んで壊した玩具を置いて去るだけだ。

    (この番に関しては手放すのが惜しいがな…)

    何とかスキをみて連れて行けやしないだろうか


    出来れば、いや、かなり…。

    この人間が欲しい。




    『さて…新しい番を味わってみるか』

    前足で押せばすぐに布団の上にとさりと倒れる小さな身体。

    目の前の雄に抱かれることを察して、恥ずかしさと期待を交えた顔で見上げられる。
    その黒い瞳に、今日はあの戦士ではなく自分が映っている。

    あぁ何と……興奮する。

    前足で人間の纏う衣服をめくりあげる。
    爪に引っかかり布が裂ける音がしたが、そんなのは気にしていられない。
    象牙色のきめ細やかな肌がとても美味しそうに見えた。
    そこでペロリと舐めてみる。
    ぴくん、と震えた番は「あ…」と小さく甘い声を漏らした。

    『ヒトの肌というものは不思議だな』
    「ん……っん、…ぁ」
    『実に甘くて美味い……!結界が無ければ間違って噛み砕いてしまいそうだ…』
    ペロペロと舐めるだけなのがもどかしく、ガブリと咥えたり鼻先を押し付けたりしながら味わう人間は美味かった。

    「あ…っ…あ、…や…んん」
    『感じやすいのか。ふふ、そうやって甘い声を上げて……反応も良い…むしろ良すぎか?私を喜ばせるのが上手いな。番として良く躾けられている』

    ペロリと胸を舐めると一層小さな身体が震える。
    ここが気持ちいいらしい。

    「ん……やっ、おっぱぃダメ…!」
    『おい、乳は出ないのか?』
    先程のやりとりを思い出して言ってみる。
    「んゃ……出な…」



    『オマエに飲ませる乳は無い』



    洞窟の中に低いうなり声が響いた。

    『…!?』

    え、早くない?と人間に覆いかぶさったままフェンリルは思う。
    あんなに迷うようににおいもあちこちに振りまいて来たのに!
    見つかりにくい洞窟だから、入り口を探すのにもしばらくかかると踏んでいたのに!

    『我の番に何をしている!?変態フェンリルめ!!』

    あ。
    しかも何てタイミングで入って来るんだ。
    お前らが日常やってるっていうから、真似しただけだというのに…!

    (く、くそ…!予定が狂った!)

    最強の戦士と呼ばれるそのフェンリルは強い。
    だがこんな狭い洞窟で得意の魔法で戦うのはお互い不利であることは理解しているはず!
    それに。

    フェンリルは人間の番を前足で抱くようにする。
    (私には人質がある!)

    『それは我の番だ!!』
    すかさず唸る戦士に、フェンリルも負けじと吠える。

    『今は私の、だ!!』
    「あ……れ?フェンリル……誰?」

    ムコーダはぼんやりする頭で目の前で唸っている白い獣を見た。
    そして、自分を抱くフェンリルを見上げる。

    「あれ……?ん……何で?」
    『思い出せ!お主は誰の番だ!?』
    目の前の白い獣が何か叫んでる。
    それはとても懐かしい声に思えた。

    「…ん、……頭、いたい……っ!」
    しかし記憶を辿ろうとすると何かに阻まれる。
    見えない壁が邪魔をしているように思考を辿れない。

    『無駄だ。私の契約魔法はそう簡単には解けない。解く気もない!』

    フェンリルはムコーダの体を抱き寄せ、目の前の戦士を見せないように長い毛で覆われた胸に閉じ込めてしまう。

    『このニンゲンが私も気に入ったのだ。普段なら味見したら終わりにするが、この番はずっと永遠にそのままにしておきたい!』
    『ふざけるな!オマエなんぞに我の番はやれぬ!』
    『いや、私のモノにする!』

    ひゅん!

    何かが勢いよく飛んできてべち!とフェンリルの顔面にぶち当たった。

    てん!と地面に弾むのは青い球体。

    『くっ、なんだこのスライム!!』
    『あるじに酷いことするワルイコビュッビュする!!』

    一瞬の衝撃に拘束の手が緩んだ。
    そのスキに小さくて紅い何かが高速で飛んできてムコーダの体とフェンリルの隙間に入り、フェンリルに向かって氷の矢を放つ。

    『!』
    慌てて後ろに飛び去ればカカカッと地面に刺さる矢。

    (しまった…!)

    フェンリルはムコーダを手放してしまった。
    小さなドラゴンがムコーダの傍でガッツポーズを取っている。
    スライムも嬉しそうにポンポンと弾んでいた。

    (このスライムとドラゴン、あの人間を守ろうと…?まさか従魔なのか!?)

    フェンリル以外にここに駆けつける仲間がいるなど、大きな誤算だった。

    人質を失ってはこの巨大な力を持つ戦士に自分がかなうわけ無い。
    フェンリルはギリリッと歯ぎしりをした。
    戦士から、そして人間の従魔達から放たれる殺気が凄まじい。

    せっかく綺麗にして貰った毛並みにもうじっとりと冷や汗をかいていた。

    『よっしゃ!主奪還!!』
    『良くやった』
    『ったくよー!主は結界あるんだからフェルが爪でズバッとやれば終わりだったろ』
    『……効かぬと分かってはいても番に爪は向けれぬ』
    『ハイハイ。愛が深いこって!』
    『…よし、あの変態フェンリルをやるぞ!容赦はするな!!』


    「…だ、だめだ!」

    その時、ぼんやりと宙を見つめていたムコーダが弾かれたように反応した。
    従魔達の前に立ち、フェンリルを庇うように両手を広げる。

    「あの方を傷つけたらダメだ!」
    『あるじー!それ悪いフェンリルさんだよー』
    『オマエの旦那はフェルだろうが!』
    「フェル……フェル…?って………ん、頭が痛い………!」
    イヤイヤをするように首を振って思考を追い出そうとするムコーダ。

    『ふふふ、イイコだ私の番…!私を守れ』

    まだ自分には希望がある、そう確信したフェンリルは術に囚われたままのムコーダを揺さぶるように『私の番』と強調して声をかけた。

    「わ、わかりました。守ります…」
    『おいフェル!こいつの思い込み直らねぇの!?』
    『お主!いい加減に戻ってこい!お主の番は誰だ?ちゃんと思い出せ…!』
    「う……や、こわ……い」

    白い獣を見る度懐かしい気がするのに、考えると頭が痛くなる…。
    熱湯に触れるかのように、触れては反射的に手を引っ込めてしまう。
    その熱い湯の中に大事なものがあるのは分かってるのに。


    「うっ……」
    『本当にこの人間の番は良いな。魔法をかける前に恐怖心を植え付けたことで、私の言うことをとても良く聞く良い子になった』
    『あるじに怖いことしたの!?…絶許!』
    ビュッ!とスイが酸弾をフェンリルの足元に飛ばし、ジュワッと地面から煙が上がる。

    『っ!な、なんだこのスライム!!』
    「あ、……スイちゃ、だめ!」
    『やだやだー!ワルイコやつけるー!』
    だめ、とムコーダはじたばたするスイを胸に抱きしめてしまう。


    『わ、私の魔法は簡単には解けぬよ。私を殺しても番である事実は残り、コイツが未亡人になるだけだ。番は生涯にひとりきりなのだろう?』

    ザシュッ!

    『ひっ!!』
    フェルが器用にムコーダを避け、爪で斬撃を飛ばすと、フェンリルが跳び上がってそれを避けた。

    『…人間は違うようだぞ』
    『へ?』
    『人間は1度番になっても離婚してまた違う相手と一緒になることもあるらしい』
    「ね、やめて!攻撃しないでよ!」
    『ちっ。危ないからお主は良い子で見ていろ』
    前足でどけ、と言うように動かして見せるが、ムコーダはスイを抱っこしたままフルフルと首を振る。

    『ハァ…要は簡単だ。オマエを倒して、此奴とまた番の誓いを立てれば元通りだ』
    『なっ…!』
    『……ふむ。だが此奴のステータスにどこぞのフェンリルと番であったが死別した、とでも記載が残ったら癪だ。…それなら』


    フェルはてしてしと歩いてムコーダに近づいていく。

    『おい!お主』
    「や、来る…な……」
    『お主は…我の番だ』
    「!」

    ムコーダが目を見開いてフェルを見上げた。
    優しいペリドットの目がムコーダをそっと捕らえ、甘く低く響く声で愛を伝える。

    『お主は我のものだ。…そして我はお主のものだ』
    「あたま…いた……うっ」
    『そのまま痛い方に進め。大丈夫だ…何があっても受け止める』
    「…っ!」
    スイが触手を伸ばしてムコーダの頭をよしよしする。
    ドラも後頭部にぴたりと張りついてきた。

    『お主を愛している…』
    「……あ、あぁ」
    フェルの額の十字が温かそうな光を放つ。

    ムコーダは頭の中の記憶にそっと手を伸ばしてみた。
    熱湯だと思ったそれは温かなお湯になっており、恐々と触れたムコーダの指を優しく包み込む。


    『戻れ……ムコーダ!!』
    「…っ!」




    『説得で魔法が解けるわけ無いだろう!だから無駄だと言っている。私の魔法はそう解けないのだから。ほら番、私のことを愛せ。その雄に私達が愛するのを見せつけてやろう』

    ムコーダは振り返ってフェンリルに微笑む。

    そしてスッと手を伸ばした。

    「ストーンバレット!」
    『ぐあっ!!!!』

    石つぶてが1個、フェンリルの額にぶつかる。
    威力は高くないが、それはフェンリルの皮膚に傷を付ける。
    出血したフェンリルが前足で額を抑えた。

    『ぐっ…アァァ…!』
    「すみません、俺。あなたの番にはなれません」
    『お主!』
    「フェルが…名前呼んでくれたからかな…目が覚めたよ……」

    ムコーダは照れくさそうに迫ってきたフェルを迎える。
    すぐに視界は白い胸毛で覆われ、紅い前足で捕らえられてしまった。

    『くそ、ダメだ…!私の番…っ!!』
    『オマエの得意の契約魔法……もう使えぬぞ』
    『!?』
    『此奴の攻撃で額を痛めたからな。お前の魔力の根源は額であろう?そこに傷が付いたからもう使えぬ』
    『…なっ!?』
    『散々番の夫婦を弄んできた罰だな。我が番がその恨みを晴らしてくれた』

    愉快だな、フェルは笑い、前足に閉じ込めた番に鼻先を寄せる。
    『怖い思いをさせた…無事で良かった…』
    「助けてくれてありがとう…フェル、スイちゃんドラちゃん」
    『あるじー』
    『主!心配かけんなよ…』
    ぎゅーっとみんなでひとかたまりになって、ムコーダの無事を喜び合う。


    『…ぐっ、くそ……』
    力を失ったフェンリルにフェルは低いうなり声を上げ、最大級のすごみをきかせて見せた。

    『二度と我の前に姿を見せるな!此奴に手を出したらその時は細切れにしてくれる!!』
    『ひぃっ!!』
    その声は地を這い何処までもフェンリルを追い掛けてくるような恐怖心を弱ったフェンリルに与えた。

    「そしたら俺が料理するので。フェンリルって美味いのかな?煮こんでシチューとか…」
    『お主が作るのだ、美味いに決まってる』
    『わーい!スイ、フェンリルさん食べてみたいー!!』
    『えーアレ食べんの?気が進まねぇけどまぁ主の料理は美味いからな!食べてやるぜ』

    ペロリ。

    『ひぃぃぃっ!!!』
    皆で舌舐めずりをしてみたら、もうフェンリルは尻尾を又に挟みながら洞窟の奥に逃げていった。

    『奥に抜け道があんのかな?』
    『行ってみるか。安全な抜け道があるならそちらが良い。来た道を戻るのはお主にとっては酷かもしれん』
    「え?」
    『断崖絶壁』
    「や、やだぞ俺は!!あのフェンリルが行った方に行ってみよう!!」


    そんなわけで、逃げたフェンリルはムコーダたちが追い掛けてくる気配にさらに恐怖心を追加され、すっかり戦意喪失となったとか。






    「……っ、ふぅ」

    洞窟を抜け、穏やかな坂道を下り。
    ぽつんと残された魔導コンロの場所に戻って来た。


    魔導コンロを見て、日常を思い出したのか。
    ストン、と地面に座り込んだムコーダは小さく震えていた。

    「…こ、こわ………こわ、かっ…」
    『もう大丈夫だ』
    『あるじー!!うぇぇん、がっだー!』
    『主!泣くなよ……オレも、泣きたく…なんだろ!?うっ…』
    ぽろ、と涙がこぼれたらもう止まらなかった。
    ムコーダにみんなでくっついて、改めて無事を喜び合う。

    「フェル以外の番は…嫌だよ俺…フェルじゃないと……うっ…」
    『う゛わぁぁあ…あるじー!スイもあるじいないとだめーーー!!スイもあるじとつがいになるぅー』
    『オレもオマエいないと……うっうっオレとも番なれよぉぉ!』
    「ふたりともごめ……っ、うんうん、今度なろうな?」
    『オイ!どさくさに紛れて変な約束してるな!』

    フェルの鼻先がムコーダをフンフンと嗅ぐ。
    忌々しいフェンリルのにおい…これは早急に風呂に入ってもらわなければ。

    『何もされてないか?傷もないのだな?』
    「ん……あのフェンリル、毛がゴワコワで気になったからブラッシングして肉球マッサージしてただけだよ…」
    『アレをやったのか……』

    フェルは頭を抱えた。
    あの極上の快感を教えてしまったらフェンリルがムコーダに執着するのも分かる。

    「後は服ビリビリされて…体舐められただけ」
    『そうだったあのフェンリル!!スイドラいくぞ!!あいつを細切れにしに行く!!』
    「待って!待ってよ……その前に昼食にしないか?」
    『あ』
    『…スイおなかすいたー』
    『オレも』

    魔導コンロにポツンと残されている鍋にムコーダは苦笑いをする。
    すっかりスープが冷めてしまったから温め直さなければ。





    昼食後にそういえば…とフェルがすっかり忘れてた討伐したこの森のボス……ミスリルリザードの話しをすると。

    「えー!またぁ?報告の義務とかあるのかなぁ…その土地の領主とか出てきたら面倒だなぁ…」

    と案の定。
    誉めて貰うどころかそんな反応だったのでガッカリ落ち込むフェルであった。


    「へへ、フェルに名前呼んで貰って嬉しかったから今日は記念にデザートつけちゃうぞ♪」
    『お主が喜ぶのはそちらか。…そんなに嬉しかったのか…』

    まだまだ番の気持ちを理解し切れていないな、とフェルは反省し、名前を照れずに言う練習を密かに始めたという。



    おわり。



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