何回目かの成長痛なのか最近は脚が痛かったりそこから頭痛が起きたりすることがある。それでも今日のアルハイゼンはとても機嫌がよかった。アルハイゼンの好きな人が長期の出張から帰ってくるというのだ。
一足先に建築家という肩書きを持ったカーヴェはアルハイゼンの気持ちなんて露知らず、ふわふわまるで風スライムのように何処かへいってしまう。そんなカーヴェに今日は久々に会える。
そしてもう1つ嬉しい事があった。身長が伸びたのだ。恐らく、好きな人の身長を超すくらい。子供の頃は柱に線をひき、伸びた身長を見える化して喜んでいたし家族に褒められていた。そして今のアルハイゼンの身長の指針はカーヴェを超えるか超えないか、だった。皮肉にもこの長期の会えない期間できっとカーヴェの身長を超えた気がする。アルハイゼンは決めていた事があった。
(身長が彼を超えたら、気持ちを彼に伝えると決めていた……)
願掛けなんて非常にらしくない、無意味なものだと思っている。けれど身長が伸びたこと、あの誰にでも甘い先輩はきっと自分のことも褒めてくれると思ったのだ。
*
「お、アルハイゼン。偶然だな、僕も戻ってきたんだ」
偶然ではない。けれども黙っておいた。「お土産あるよ」なんて穏やかな声で話していた先輩だったけれどピクリと何かに気付くとこっちをジロジロみてきた。
「君、もしかして身長伸びてる……?!」
「あぁ、君の身長も超したと思う」
「なっ、」
ずいっとカーヴェに近寄る。やっぱり、目線が少し高くなった。カーヴェの身長を超したようにみえる。
「生意気だっ」
「……」
昔みたいに大きくなったな、と言われると思っていたのだ。けれど目の前の先輩はまるで風スライムのようにぷくっとふくれてご機嫌ななめのようだ。
「昔はこんな小さく可愛かったのに……」
「その時は君も小さかったはずだ」
カーヴェは演技っぽく「はぁ〜」とためいきをついて当時のアルハイゼンの身長、彼の腰の位置くらいを手で撫でるようにジェスチャーした。
「こんな身体も態度もでっかくなっちゃってさ!」
(あ、)
カーヴェの手は同じくジェスチャーでアルハイゼンの頭くらいに伸びたけど昔のように頭をグリグリと撫でられることはなかった。
(身長が伸びてもいい事だけってわけじゃないのか……)
年齢だったりを理由に何かと先輩風をふかしてくる可愛い人に、可愛いと思われるよりかはかっこいいと思われたいと思っていた。けれど頭を撫でられることがなくなってしまうのは少し惜しいという気持ちがある。
「…………」
「まあ、僕もまだまだ伸びるけど、君ももっと伸びるといいな!」
表情がコロコロ変わる先輩は、今度は笑ってそう言ってくる。
「……カーヴェ、」
「?」
カーヴェの反応は予想外で少ししゅんとしまった気持ちはある。けれどそんなことで計画を止めるアルハイゼンではない。
「君が戻ってきたら伝えようと思っていたことがある」
「うん?」
「君が好きだ、俺と付き合ってほしい」
「……は、はぁ?!」
単刀直入に伝えると、カーヴェは最初は理解していなかったのかぽかんとしていた。けれど段々と意味を飲み込んだのか驚いて赤くなっていく。「え……?!え?!」とか「こんな道端で……?!」とかわーわー喚いている。
「返事は」
「え?!え、えぇ……」
「君から告白してきたのに、やっぱり態度が偉そうだな……」と眉毛を下げてカーヴェが笑った。
「返事は保留にさせてほしい」
「な、んでだ」
「お、動揺してる?」
「珍しいな」とまたカーヴェは笑っている。返事はイエスかノーの2つしか予想していなかったのでアルハイゼンは驚いた。
「いきなりのことで驚いたのと、そういうことをちゃんと考えたことがないから」
だから、時間がほしい、とカーヴェは言った。
「分かった……」
納得いかないが、強要することは出来ないだろう。アルハイゼンはモヤモヤしつつも、拒否をされなかったことを顔には出さないけれど内心ほっとしていた。
*
それから。
「返事はまだか」
「うわ!」
「いきなり現れるな、アルハイゼン!」と怒られた。最初に期日を決めていなかったのはアルハイゼンのミスだった。あれからカーヴェは答えをくれず、そしてそれなのに何度も出張なのか近くを離れてしまう。
期間をあけて久々に会う度に成長期アルハイゼンは身長が伸びている。だから「うわまたでかくなってる!」とか「見下ろしてくるな!」と先輩はギャーギャーうるさい。アルハイゼンの身長は伸びに伸びてついにカーヴェから見上げられるようになってしまった。好きな人の上目遣い。つむじもみえた。
(可愛いものだな……)
身長が伸びてよかった、と思うアルハイゼンだった。けれどアルハイゼンは知らない。カーヴェはとっくに答えを用意していて、しかし久々の再会のたびに身長が伸びている後輩を悔しく思い素直になれていないことを。
おしまい!
※アルハイゼンがしゃがんだら頭なでなではしてくれました