約3.3㎡、二人だけの世界「モブ君……見ないで……。こんな姿、見られたくないよ……。」
顔を両手で覆ってか細い声を絞り出したあすかちゃんの下半身は、魚の尾びれになっていた。
肌は青白くなっていて、耳もひれのように変化、体の所々には鱗が生えている。
あすかちゃんの姿はまるで、伝説上の生き物である人魚に酷似していた。
あすかちゃんはもう歩けない。
だから今はお風呂場の浴槽の中で一日を過ごしている。
毎日毎日、代わり映えのない少しひんやりとした狭い個室の中で、なにができるわけでもなく、ただただ僕が帰って来るのを待っている。
あすかちゃんはもう体が上手く動かせない。
だから僕が身の回りの世話をしてる。
手を動かすのも難しくなって、ご飯を食べることさえできないから、僕が一口一口丁寧に口に運ぶ。
あすかちゃんはもうどこにも行けない。
だからもう僕以外頼れない。
僕もあすかちゃんの世話に割く時間が増えて、なかなか自分の自由な時間はとれなくなった。
それでも、僕はあすかちゃんの世話をするのが好きだった。
でも、そんな僕を見てあすかちゃんはいつも悲しそうな顔で呟く。
「ごめんねモブ君……ごめんね。」
どうしてそんなことを言うんだろう。
僕には本当にわからなかった。
だって僕は好きでやってるんだ。
あすかちゃんが僕の名前を呼ぶ度に、どうしようもない程の優越感を感じている。
それが癖になって……。
依存してるのは僕の方だ。
ヒビが入ったあすかちゃんの心を、更にボロボロにして欠片ごと全てを口に放り込んで飴みたいに噛み砕いて、その甘さに酔いしれてる。
一度感じたらもう忘れられない程に中毒的なその甘さはきっと、あすかちゃんだからこそのものなんだ。
だからもう、手放せない。
外には突然学校に来なくなったあすかちゃんを心配する人がたくさん居る。
でも、このお風呂場までその声は届かない。
ここには僕しか来れない。
ここには僕達しか居ない。
それでいい。
あすかちゃんには僕が居ればいいし、僕はあすかちゃんを誰かの手に渡したくない。
だからずっと、ここは二人だけの空間であればいいよ。
たとえそれが、僕のエゴだとしても。
「……あすかちゃん、僕の方こそ……ごめんね。」
謝るのは僕の方だ。