恋と熱 外は暗い。
ガラス窓に映るのは自分の姿、その向こうに木々の輪郭がうっすらと浮かぶ。昼ともなれば庭の景色が患者の目を楽しませる、そこはいま闇に塗りこめられていた。
あまい人工的な匂いがあたりには満ちている。リハビリ器具や薬剤、床のワックスがいりまじった、そうしてどこかに饐えたひとの熱がある。
掃き清められたフローリングの床に、蛍光灯のあかりがまるく滲んでいた。
平行棒はリハビリテーションルームの隅にあった。
オレンジ色に塗られた棒をつたい、相澤はゆっくりと歩く。静かなあたりに義足の金具と床の触れ合うかしゃかしゃという音がする。
病衣の裾が足にまとわりつく。皮膚と金属の境目がどこなのか、痛みと薬のせいかいまだによくわからない。右足を踏みこめば、喉元に圧迫感のようなものがせりあがる。
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