水分を多く含んだ熱に浮かされた瞳に、はぁはぁと苦しそうに繰り返えされる呼吸。
全身にじっとり汗をかいているロシナンテの頬を撫でると、「…あ、」と小さく声を漏らした。普段の低くて優しい声とは違うべっとりと性に濡れた声に、体温が1、2度上がった気がした。しかしすぐに冷静になれとギュッと下唇を噛む。
「今からコラさんに触診で刺激を与えていく。けど俺はコラさんの嫌がることはしたくねぇ。嫌だったり、やめてほしい時はすぐに言って」
「ん…かった」
ロシナンテが体から力を抜いたのを確認して、ローは一度ロシナンテのそばから立ち上がった。
(使えそうなものなんて、あれしかねぇよな…)
玄関近くに放り出していた学用のリュックサックから取り出したのはハンドクリームだ。まさかこんな事に使うとは夢にも思わなかったが持っていて良かった。
すばやくそれを掴んでロシナンテの元へ戻る。中身を適当に手の平に捻りだし、そのままロシナンテの上に覆いかぶさった。
「…まずは、そうだな。耳からやっていこうか」
***
「まって、ぇ!、ろ、それ、おとがっ、おとがいやっだ、ぁ」
「大丈夫だから。コラさん、ほら、俺を見て」
耳輪を微かな力で摘み、耳たぶにかけてをゆっくりとなぞって、そっと指を中に差し込む。クリームを多めに乗せた指で穴の周りを撫でれば、微かににちゃにちゃと粘着質な音がした。一般的な耳への愛撫は舌によるものが多いが、交際もしていない、しかも同性にやられたら萎えてしまうかもしれないと手だけに留めているが問題はなさそうだ。
狭い耳の中や全体をくにくにと優しく揉まれて、ロシナンテは体をびくびくと痙攣させた。本来耳からするはずのない粘ついた水音が、脳に、直接響いていく。
「どうだ…?コラさん」
「ひぅ…そこでしゃべんなっ…、ろ、も、みみやめて、やぁ」
「コラさん大丈夫だ。怖い事も痛い事もしてない」
「きもち、のが、やだって…はっ、ん」
耳元で気持ちいいか?と熱の篭った声で聞いてくるのは小さい頃から、それこそ前世から知っていて実際に目に入れたって痛くない愛し子のロー。そのローにこんなことをされている。訳が分からなくて目からポロリと涙が溢れた。
「本当は舌でやるのがいいんだが。なぁ、コラさん。耳で一番感じるのってどこか分かるか?……ここだ、耳珠」
「!!!」
フッと息を吹き込まれながら、顔側の出っ張った箇所を擦られて目の前に火花が散った。声すら、出せなかった。
別の生き物のように耳の中を蠢く指といやらしく響く音。ローの声と吐息。全てが懐疑的で思わずギュッと目を瞑った。しかしそうした事で更に耳の神経が研ぎ澄まされていく。撫でるような優しい手つきで全体を揉まれ、時折先程の耳珠を強めに摘まれる。
普段そんな場所で感じた事など無いのに全身が性感帯になっている今、ビリビリした強烈な刺激がそのまま下半身へ直結していく。急激に射精感が高まってくるのを、指先が白くなる程握り締めて何とか、何とか堪えた。
こんなところでいきたくない。きもちよくなりたくない。のに、
「あぅ、ぅ…んん!」
必死に耐えていると、急にぬぽっ…と間抜けな音と共に指が抜けていった。しかし、それに安堵したのも束の間、すぐさま指を戻される。先程より濡らされたそれは、穴の周りをゆっくり撫でられるだけでぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てた。
それが。何だかローに舐められているみたいだと思った瞬間。
「ぃあ"ぁああ!!はっ、ぅう」
「…上手にいけたな」
閉じた目の中で星が飛んだ。全身がビクビク震えてあまりの快感に指1本すら動かせない。
快感というより体が四散してしまったような衝撃に思考もまとまらずにいたが、ローの言葉でようやく自身が射精した事に気づいた。
「?ぉ、れ、いった、?」
「あぁ。ほら、ちゃんと出てる」
ロシナンテの隆起した腹筋に飛び散った白濁をローが確かめるように手のひらで伸ばしていく。
な?精液で汚れた手をローに見せつけられて、あまりの出来事にロシナンテは気絶した。
「ひっ、ん、あっ、ぁ、…?な、に」
「起きたか」
自分の口から出る甲高い声によって意識が浮上した。体制が仰向けから、うつ伏せで腰だけを上げた状態になっているのに気づいた瞬間、全身に電流のような快感が流れて思わず背中をしならせた。
「あ"ぁアぁあ!!」
ゆっくり撫でられるように触れていた場所。丁度睾丸とアナルの間をローにグッと微かな力で押された瞬間、意図せずペニスが熱を吐き出した。
射精した後もあまりの衝撃にガクガクと足が震えた。倒れそうな腰をローに掴まれているせいで、臀部を突き出して強請ってるような体制になっていたが、それを気にしている余裕もなかった。
(いま なにがおこって)
自分の身になにが起こったか分からず、はーはーと荒い呼吸を繰り返す事しかできない。快感というには暴力的すぎるそれに、止めて欲しくて背後のローを見た瞬間、ビクリと一際大きく体が震えた。
まるで目の前の獲物を食い殺さんとばかりに見つめる、飢えた獣のような鋭い目つきの男がそこにいた。
(なんて目、してやがる)
「いっ…ひぃ、ぁあ!!」
「ここを触られるのは初めてか?ここは会陰部。男性特有の臓器、前立腺に外側から触れられる場所だ。ED不全の患者にも通じる場所で知られてるな」
「や、つよぃ、ろぉ!やだ、ひっ、そこやだぁあ」
「ずっと出てる。敏感な今は少し強すぎるか」
「あ!あぁ!りょ…ぉ」
「っ。安心してくれ、コラさん。治療、俺がコラさんを治す、そうだ、これは治療だ、俺にまかせて」
壊れた蛇口のように、尿道からぽたぽたと精液が漏れ続けている。ずっと射精しているのにずっと射精感を高められていて頭が馬鹿になりそうだった。もはやどこが気持ちいいのかも分からない。
攻める手を止めてほしくて開いた口は、舌が縺れてまともな言葉を話せず、女性のような嬌声を上げることしかできなかった。
(いやだって言ったらやめるって言ってたのに ローのうそつき)
アナルから睾丸の間をスリスリと触っていた手が、突然先程の場所をトントンとノックをするような動きに変わった。ペニスへと通じていた快感の流れが、体の内側へ響くそれへと変わる。
触られていないアナルがキュッと動いた。こんなのおかしい。内側が、熱くて、気持ちがいいなんて。
「ああああ!!!いぐ、やりゃ、やりゃぁぁあ!!」
ぷしゃと何かが噴き出すような音を聞いたのと同時に、視界が真っ白に染まった。
***
気が付くと部屋にいたのはロシナンテ一人だけだった。
微熱の時のように、体の火照りやダルさは残っているが、気が狂いそうな快感はもうない。
びちゃびちゃだったシーツは剥ぎ取られて新しいシーツに変わっていた。汗や色んな液で濡れていたロシナンテの体も綺麗にされて、脱ぎ散らかしていたパンツとシャツも着せられている。
「……」
思わず漏れそうになる溜息を堪えて、ベットの側にあるデスクに目をやると、そこには2Lのペットボトルと小さなメモ。
”起きた時にはある程度落ち着いていればいいんだが……体力も消耗するからやりすぎも良くない。あとは水分をたくさん取って、薬を体外に出すようにしてくれ。必ずそこの水を飲み切ってからホテルを出て、数日安静にしてくれ。仕事には絶対にいくな”
思わず頭を抱えた。
先程の事が段々と現実味を帯びてくる。なんて事をやらせてしまったのだ。
(ロー。忘れてくれ、る訳ねぇよな……俺も、忘れられそうにねぇ、し。なにより)
「今度どんな顔して会えばいいんだよ…」