【最霊】◯終い××家之墓がある。
線香の白い煙が、高く、青空へ還ってゆく。
少年と男が立ち去ったそこに遺るものは。
【◯終い】
少年、霊幻新隆は、孤児になるところを最上啓示に拾われた。
新隆を可愛がっていた父と姉が亡くなった。母はおかしくなって遺体で発見された。
たらい回しにされそうになっていたところを祖母に引き取られたが、新隆を慈しんでくれた彼女も間もなく亡くなった。
そこに、生前祖母と知り合いだったという最上啓示が現れたのだ。
新隆はその男を見た事があった。祖母と見たテレビに、疲れた顔で映っていた。
その日は遠くない雷が鳴っていた。地を揺らすかのような轟音を怖がる新隆に、畑でとれたスイカを切り分けてくれていた祖母が線香をたいた。
これで大丈夫。お線香の煙が新隆を守ってくれるよ。
祖母が言うのなら大丈夫だと信じた新隆に、今度はブラウン管のテレビに映る最上啓示について話してくれた。彼は祖母の知り合いなのだと。
あまりに怯えるので、気を紛らわせようとしてくれたのかも知れない。
食べたスイカで汚れた新隆の口を拭ってくれた祖母は、とても嘘をついているようには見えなかった。鳴り止まない雷鳴が遠く感じるほどに穏やかで、婆ちゃんはテレビの人と知り合いなんだ、一人ぼっちでいたわけじゃないんだ、と嬉しくなったのを覚えている。
そんな祖母の知り合いと説明されていた彼を疑う事はなく、そのまま男の家に住む事になった。
真っ先に気になったのは、仏壇に置かれた木の箱だった。白い布で包まれていたが、"なんとなく木でできているのではないかと感じた"。
彼が麦茶を持って来てくれてからもじっとそこを見つめていたので、あれは木でできた骨壺だと教えてもらった。
「こつつぼ?」
「亡くなった……死んだ人の骨を入れておくものだ。私は墓じまいしたのであれには私の母の骨だけが入っている」
「はかじまい……」
「例えば、墓のある土地を離れて遠くに引っ越すから掃除などの手入れがしにくくなったり、墓参りが難しくなったりする場合。そのお墓のあった場所を綺麗にして、中の遺骨を供養する。そうすれば次の人が同じ場所を使えるし、中々掃除に来られなくて汚れてしまう事もないだろう?」
「啓示さんもそうなの?」
「私の場合は少し違うが、まぁいいだろう。私自身もよく分かっていないからな」
そう言った彼は、しばらく仏壇にある母だったものを見つめていた。
今なら分かる気がする。
彼は彼にとっての分岐点である母を、他の遺骨と一緒にしておきたくなかったのだろう。
好いていたにせよ、嫌っていたにせよ、そこには確かに、最上啓示の母をなにものかたらしめる思いが存在していた。
××家之墓があった。
線香の白い煙が、男の吐き出す紫炎と共に、高く、青空へ還ってゆく。
男が立ち去ったそこに遺るモノはない。
嗚呼、そうか。
次は俺が、彼を迎えに行かなければ。
少年、最上啓示は、孤児になるところを霊幻新隆に拾われた────。
【墓終い】