【幽霊の、正体見たり枯れ尾花】snsってヤツをやってみた。
おっさんの晩飯、趣味、そんなものに興味を持つヤツいるわけもなく。
悲しいかな、ゾンビと呼ばれる連中か、セクシーなお姉さんの写真が載ったアカウントしか寄ってこない。そんな連中が学習して名前まで呼んでくるようになると、いよいよ不気味だし面倒だしで、しばらく放置してしまった。
そういえば。
そういえば一人だけ、俺に興味を持ってくれた男がいた。彼は人気の霊能力者とやらで、顔写真も公開している。
片耳の切れた綺麗な黒髪で、強面だが家事全般もこなし物腰も柔らかい。女性には柔らかく、男性には砕けている、が正しいか。
そんな男がひとりぼっちの男になんの興味があるのだろうと思ったが、彼だけがこまめに反応してくれていたと思う。
そんな彼も、興味は失せてしまっただろうか。
久し振りに開いてみると、一対一でやり取りの出来る手紙のアイコンに一つだけ通知があった。しばらくのたうち回った後、そっと覗いてみる。
そこには、心配してくれている事、snsをやめてもやり取りをさせて欲しい事、こちらの安心出来る場所で会えるのなら会ってみたい事が丁寧に書かれていた。
危険だろうと思う。
でも、会ってみたいと思ってしまった。どうせひとりぼっちだ、最期に会ってみたい。
そうと決めたら、手紙のマークから返事を送る。もうこちらに興味を持っていないかも知れないと送ってから気づいたが、それは杞憂だった。
久し振りの生きた人間からの通知。飛び上がって震える手で覗くと、届いて良かったと、心底安心したと記されていた。ほっとして、会うためのやり取りをする。
心が躍った。
当日、ガラスにうつる自分の髪型をチェックしながら待ち合わせ場所で数時間。
彼は現れなかった。
散々、人の多い場所を通って欲しいとか、明るい場所を通って欲しいとか、そんな心配ばかりする男が何の理由もなくすっぽかすとは思えなかった。
何かあったのだろう。
寂しいと心配が同時に襲ってくる。暗くなり、人もまばらになった道をとぼとぼと進んだ。その、後ろから。
《こんにちは》
《こんにちは》
《みて、みて》
《霊言さん》
《こんにちは》
ぽこん。ぽこん。
通知音が鳴る。
男とも女ともつかない電子音が鳴く。
右から、左から。
後ろから。
すぐ、
耳の、
後ろからーーーー、
「霊言さんから離れろ三下共!」
前から息を切らせて駆けてきた強面の男が、手首を引っ掴んで背中に庇ってくれる。
「振り向かずに目ぇ閉じてろっ……下さい!」
「いやいいよ普通に喋って」
「こいつらと目を合わせるなっ、振り向いたのは、俺様が不安だから仕方ない」
背後に庇ってないと不安だから振り向かせてしまったという事だろうか。言われた通り目を閉じていると、何かの呪(まじない)と異臭、その後には、透き通る夜の空気が残る。
「もう開けていいぞ」
「うん……えっと」
「間に合って良かった。お前さんを餌にコイツら釣ろうって連中しばいて来たら遅くなって……いや、挨拶が先か。初めまして、霊言さん。ワライです」
「あ、はい……初めまして。霊言、です……えっと、ワライさんは"俺がみえてる"し、驚かないんだな」
「……すまない。"お前さんが死人だって知ってて声かけてた"」
「うん……その方が分かるから、大丈夫。そっか、そうだよなぁ」
「あっ、待て違う!でもな、そのあと色々あって……クソ!霊言っ、さん!」
「だから霊言でいいって」
「霊言っ、俺様は除霊屋をやってるが、その、幽霊のお前さんに惚れたんだ!付き合ってほしい」
「うわぁ……あの、ワライさ」
「エクボ」
「え?」
「エクボが本名だ。お前さんは……いや、無理に聞く事じゃねぇな、悪い」
「エクボはもう呼んでるよ」
「なに?」
「幽霊の霊に幻の幻、で、名前が新隆。俺の本名だ」
「っおま、そんな、危ない事っ」
「幽霊だから大丈夫かなって」
「音が一緒なんだ駄目に決まってる!お前さんに気のある除霊屋に引っかかったらっ」
「そんなヤツいねぇよ?」
「いるんだよ!ここに!」
「あー……ふふ、いいんじゃねぇの?俺も、いいかなって思ったし」
「は?」
「いいぜ?付き合ってみよう。よろしくな、除霊屋サン」
「んっ」
「ん?」
「それも可愛いんだが、良かったら名前を」
「エクボ?」
「んんっ」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ……よろしく、霊幻」
こうして、人気除霊屋と幽霊は恋人になった訳である。
【幽霊の、正体見たり枯れ尾花】