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    バサミレこばなし。
    ≪おとに、なる。≫
    ツイート流れたらどっか行くなーと、思ったのでメモがてら。

    #バサミレ
    baiser

    おとに、なる。耳をすませば聞ける音。
    そばだてなくても届くこえ。
    ふと目が合って驚いた。
    ギターの弦に落ちていた、その目は何かに気づいたように持ち上がったから。
    きょとり瞬いた。その瞳は不思議そうに眺めて。
    「なに?」
    不機嫌にも似た声が飛んできた。
    「なにも…」
    声にも出してないじゃないか、と。
    口にしかけて首を傾げた。
    「そっちこそ」
    何よ?
    こちらの方こそ不思議であると態度で示せば、ほんの少しだけ彼は逡巡したようである。
    「なにが?」
    「声」
    「なに?」
    「…しなかったけど」
    「はぁ?」
    「顔、あげたじゃない」
    「…呼…んでねぇけど」
    「誰が?」
    「…誰でもいいだろ」
    「何よー」
    むぅ。と、頬を膨らませれば肩の上で相棒が「キィ」と鳴いてくれた。
    彼の目がグババを撫でて、ぼりぼりと少し乱暴に彼の手が後頭部の辺りをかいている。
    「気のせいだろ?」
    「気のせいだけど…」
    「なに?」
    「何でもないわよ!」
    またぷぅと、己の頬が膨らんだような気がするし、肩の上のグババは、また「キィ」と鳴いている。
    「グババが」
    「なに?」
    「呼んだの?」
    「なんで俺に聞くんだよ」
    「だって」
    あたしは呼べてない。
    言葉にならずむぅと口を曲げると、彼は少しだけ視線を手元に落として。
    グババが「キィ」と、肩の上で鳴いている。
    「お前だろ?」
    「なにがよ」
    「呼んだの」
    「呼んでないわよ!!」
    声になどなりようもないのだから。
    言い掛かりへの反応にも似た声は宙返りするようにまろびでて。
    言葉をうまく繋ぐこともままならない。
    「…呼べてないもん」
    「なにが?」
    「何でもない」
    「…何でもないって顔じゃねぇだろ」
    それ。
    彼が顎で示すと同時、肩の上でグババが「キィ」と鳴いて。
    二対一の比率が変わったことに気が付いた。
    「グババ」
    「キ」
    「もう!」
    触れていたベースケースの魚を見下ろして、ほんの数瞬言葉を探した。
    突き詰めれば簡単で言葉にするのは難しい。
    どうでも良いことではあるし、どうでも良いわけでもない。
    叶うならと願う言葉はきっと音にもなれず渦巻いて。
    「練習」
    「…」
    「練習するんでしょ?」
    「…お前が遅れるからだろ?」
    「あんたが速いんじゃない」
    いつもをなぞるだけで精一杯だ。
    画面越し、彼の顔を眺める。
    「…何?」
    「なんでもない」
    「そーかよ」
    「…そーよ!」
    触れることもままならない。そんな距離さえ。
    彼には然程の障害にもならない。
    「ねぇ、バサラ」
    「んー?」
    ギターに視線を落とした、彼の睫毛を眺めように目をふせた。
    「呼んでたかもしれない」
    「なにが?」
    「なにか」
    「─なに?」
    「歌になる前の音」
    「─ふぅん」
    届くかどうかもわからない、そんなおとを。
    「なら、歌えよ」
    ジャラリ。音は弾かれて。
    「うん」
    届くまで。
    紡げるまで。
    響くように。
    その、おとを。
    「いくぜ」
    「うん」
    すぅと吸い込んだ空気は喉を通って。
    吐き出す音にするりと溶け込んだようだった。
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