気付いたら背負い投げされてた審神者と肥前君の主肥刀剣男士は主を傷つけない。
刀剣男士は人間より強い。
けれども主には逆らわない。
逆らえないのではなく、逆らわない。
殺せないのではなく、殺さない。(主本人が命じればまた話は別だが、この本丸には関係のない話だ)
刀剣男士が本気になればただの人間である審神者は手も足も出ない。
押し倒すことも、肌に触れることも、それ以上をすることもできない。
刀剣男士はその力を行使して拒むことが出来る。
ほとんどの場合そうしないのは、主であるから、というのが大きい。
それほどまでに、刀剣男士にとっての”主”は深い意味を持っている。
つまり、肥前が審神者を背負い投げで襖に投げつけてしまったのは不幸な事故だった。
「ッ、あ……!」
やっちまった、と思う。いつも、思った時には手遅れだった。ただ、そのまま床に叩きつけそうになったところを、背負った時点でどうにか方向転換したので、それほど痛みを与える結果にはならなかったはずだ。ならなかったと思いたいが、審神者が吹っ飛んでいった先の襖は、当然その重みと勢いに耐えきれず審神者の体と一緒に廊下に倒れてしまったし、物音を聞き付けて数振りが「なんだなんだ」と駆けつけたので手遅れという事実は変わらなかった。
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