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    straight1011

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    straight1011

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    三と流のルートの場合のカミングアウト。成人して同棲してる設定。小話はたまったら支部にまとめて上げます。

    もしも霊感があるとカミングアウトしたら(三、流)三井の場合



    「へぇ、それはすげーな」

     ビール缶片手に、ソファに座ってそう言う三井の顔は、例えば知り合いが家を建てたらしい、と伝えたときくらいにあっさりした反応だった。思ったよりも反応が薄いので、隣に座るミシマは拍子抜けしてしまう。

    「冗談……だと思ってる?」
    「えっ、冗談なのか?」
    「違いますけど……」

     缶をローテーブルの上に置いた三井は、訳がわからないといった顔でミシマを見る。

    「なんだ? 俺、呪われてんのか?」
    「いや……」
    「じゃああれか? 仕事辞めて実家継ぐとかか? なら引っ越さねぇと……」
    「違いますって……」

     ミシマの予想よりずれた反応をする三井は、じゃあ何だよ? と聞いてくる。むしろこちらがそう言いたいくらいだと思いながらも、ミシマは冷静に言葉を探した。

    「もっとこう……疑いませんか? 頭おかしいんじゃないかとか。病院、行けよとか……」
    「はぁ?」

     これを伝えるまで、ミシマはドキドキしていた。信じてもらえない、病院をすすめられる、別れを告げられる……ここまで予想していたというのに、まるで雑談みたいに流されてしまっている。
     三井はソファの後ろ、ミシマの背中の方に腕を回す。トン、とぶつかる腕にたくさん抱かれてきたミシマだが、未だに慣れず触れた部分に意識がいってしまう。

    「じゃあなんだ、お前と一緒にいる俺も頭がおかしいのか?」
    「そんなわけ……」
    「だいたい、何で今言うんだよ。もっと早くに言えよな」
    「……最近、見えなくなったから」
    「最近? なんかあったのか?」

     ミシマは自分の膝の上に置かれた握り拳に目を落とした。大昔、母に「好きな人が出来たら見えなくなる」、そう言われたのを思い出す。母の言い方も悪いと思うが、かといって直に伝えるのだってアレだから、あんな風に伝えたのだろう。

    「……たから」
    「あ?」
    「……あなたに……抱、かれてから、見えなくなった……」

     ミシマは堪えきれずに両手で顔を覆った。伝えてお礼を言おうと決意したはいいものの、恥ずかしすぎる。やっぱり言わなきゃよかったと後悔した。

    「……」
    「……」

     顔を覆っているから、三井の反応が見えない。ミシマはドン引きされているのではないかと怖くなって、顔を上げられないでいた。カタ、とテーブルからビールが持ち上げられる音がする。そしてすぐ後に、ビールを飲み干す勢いの嚥下音がした。

     少しして落ち着いて、ミシマは指の隙間から三井を見た。その瞬間、ぐっと肩を押されて倒される。ミシマはソファに背中を預けるようにして、三井に押し倒された。

    「えっ、いや、何で……」
    「なんだ? 誘い文句じゃねぇのかよ」
    「違っ、本気で言って」

     何を勘違いしたのか、三井はミシマのシャツに手を滑り込ませて、親指ですりすりと腹を擦る。くすぐったくて身を捩るが、しっかり三井に押さえつけられて、ろくに動けなかった。

    「ん、くすぐったい……」
    「別にいいじゃねぇか、何が見えたってよ」

     上から見上げていた三井が、ゆっくりとミシマの顔に近づいてくる。コツ、と額同士がぶつかると、お互いの息がかかるくらいまで近くなった。

    「どんなお前も可愛いぜ、俺にとっちゃな」
    「っ……」
    「明日はお互い休みだったな。今日は多少無理していいだろ」

     そう言って落とされたキスは、最初こそ優しげだったものの、徐々に互いに貪り合うように深まっていく。ぴちゃぴちゃと水音をたてながら、ミシマは三井の口内のビールの苦味に顔をしかめた。

    「……三井さん……」
    「ん?」

     ミシマが好きな、三井の柔らかな聞き返し方に胸がぎゅっと苦しくなる。暇していた腕を三井の背中に回すと、ゆっくり力を入れた。

    「……ソファはやだ」
    「仕方ねーな。寝室行くか」

     ひょいっとミシマを持ち上げた三井は、スタスタと歩いてリビングの入り口へと向かう。ミシマはしっかり三井の首に腕を回して、幸せを噛み締めながら三井の頬にキスを落とした。




    流川の場合


    「……」

     流川はいつもは鋭い目を少し丸くさせて、パチパチ瞬きした。テーブルを挟んで向かいに座るミシマが、たいそう畏まった様子だったもので緊張していたが、しかしいざ言われた内容に、流川は拍子抜けしてしまった。

    「……って、言っても信じない……よね……」
    「……」

     流川は何かを考えるように視線を落とした。ミシマは今すぐ逃げ出したい気持ちをぐっとこらえて、流川が口を開くのを待つ。壁時計の針の音だけが部屋の中に響いた。

    「俺には見えねぇ」
    「……」
    「から、いるかもしれねぇし、いねぇかも、しれない……お化けってやつは」

     大真面目な顔でそう話す流川だが、ミシマは思わずふふ、と笑ってしまった。まさかお化け、という単語がこの男の口から出てくるとは思わなかったのだ。

    「む……」
    「ごめん……お化け、って可愛く言うものだから……」
    「……話はそれだけかよ」
    「……流川こそ、もっと私に言うことないの」

     こんなことを真剣に伝えたのに、正気を疑ったりしないのか。そういう意味を含んだつもりだったが、流川は別の解釈をした。

    「……いつもどうも……?」
    「……いや、そうじゃなくて」
    「……アイシテル?」
    「何でよ。片言だし。私の頭の心配をしないのかってことよ」

     そう言えば、流川は不思議そうな顔で首をかしげる。

    「俺より頭いいくせに」
    「赤点4つには負けるわ……って、違う」
    「……」

     ミシマは段々何の話をしていたかわからなくなってきて、こめかみを掻いた。彼にはいつも調子を崩されるなと、大きく息を吐き出した。

    「でもね、最近見えなくなった」
    「よかったっス」
    「多分だけど、君に抱かれたお陰だと思うの」

     多分とは言いつつ、確信に近かった。恥を忍んで母親にも聞いてみたから、間違いないだろう。
     流川は頬杖をついて、何も言わずにミシマを見つめている。何を考えているのかわからない瞳に居心地の悪さを感じたが、目はそらさずに話を続けた。

    「私、いきなりこんな事を言い出すような人間だから、一生お付き合いなんて出来ないと思ってた」
    「……」
    「……君には本当に感謝してる。足向けて寝れないくらい」
    「ウソだ。たまに蹴られる」
    「慣用句よ。それにわざと蹴ってる訳じゃない。君がくっつくと暑いの……いや、嫌じゃないけど」

     そう言うと、流川は僅かに目元を緩めて穏やかな顔をする。自分の前でしか見せないこの表情が、ミシマは何よりも好きだった。

    「私の話は以上です。流川くんは何かありますか」
    「……ある」
    「どうぞ」

     流川は椅子から立ち上がって、おもむろにリビングを出ていく。がちゃ、と寝室を出入りする音がしたかと思うと、1分もせずに戻ってきた。てっきり何か持ってくるのかと思いきや、手ぶらである。

    「何してきたの?」
    「寝支度」
    「もう寝るの? 明日休みでしょ?」
    「休みだから」

     流川はリビングのドアを開けたまま、ミシマを立って待つ。早く来いと目で訴えながら。

    「きもちーこと、しようと思って」
    「……何それ」
    「言わなきゃわかんねぇのか」
    「……わかるよ」

     やれやれと、照れを隠しながらミシマも立ち上がった。満足そうな顔をしている流川の脇腹を小突いて、ミシマはリビングの電気を消したのだった。


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