『護衛ごっこ』「ボク、今日はパン屋さんまで行くんです!」
朝、空がまだ青く澄んでいる時間。
そう言ったヴァロの隣で、ナターリアは伸びをしてから、にんまり笑った。
「ふーん? じゃあボクが、護衛してあげるよ♪」
「えへへっ、やった〜! 一緒に行ってくれるんですね!」
ヴァロは満面の笑み。
ナターリアはヴァロの肩に手を置いて、ちょこちょこ歩く彼にぴったりついていく。
それを見た通りすがりの兵士が「お、今日は護衛ごっこか?」と笑うと、
「ちがいますよ〜!今日は、おつかいの日なんです!」
と、ヴァロが元気に返していた。
(……ほんと、弟に似てるなあ)
赤い瞳を細めながら、ナターリアは少しだけ顔をゆるめる。
ヴァロの歩幅に合わせて歩くのは、少し物足りない。でも今は、それでいい。
しっぽがひょこひょこ揺れて、耳もピコピコ動く。
そんな後ろ姿を見ていると、守りたくなる気持ちが自然と湧いてくる。
「ところでさヴァロ、パン屋までの道に、物陰に潜んでる怪しいやつがいたらどうする?」
「えっ!?」
「ボクが仕留めるから大丈夫って言うところだけど……
ちゃんと避難ルート、考えといた方がいいよ? 怪しい風桶とか、意外と人入ってるかも」
「……そ、そんなのがあるんですか!? ボク、ぜんぜん気づかなかったです!!」
「でしょ? だからボクがついてて正解ってわけ♪」
(あぁもう……やっぱり弟そっくり)
なんでも信じて目をまるくするところも、素直に嬉しそうに笑うところも。
ほんの少し、胸がチクリとする。
でも、そんな気持ちを振り払うようにナターリアはニッと笑い、
「――ま、任せな。今日のあんたは、最強のハイエナ用心棒つきだよ♪」
と、ふざけた調子で言った。
「わあっ、心強いですっ!」
ヴァロは嬉しそうに笑って、さらに歩幅を早める。
ナターリアはそれを追うように歩きながら、そっと空を見上げた。
その青さは、今日も優しかった。