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    『ボクのしあわせは、肉のにおい』―ナターリアの昼下がり―

    昼下がりの市場は、熱気と活気、そしてちょっと焦げた匂いでいっぱいだった。

    けれどその一角、屋根の陰に寄りかかって欠伸をしていたのは――
    耳としっぽを揺らす、用心棒のナターリアだった。

    「ん~……昼間って、なんでこんなに眠いんだろうねぇ……」

    陽に弱い夜行性のナターリアにとって、昼の見回りはわりと拷問に近い。
    それでも、依頼は依頼。ボクは用心棒。真面目だからやるけど……
    目の奥がちょっと、とろけてきたその時だった。

    くんっ。

    くん、くんっ……!

    「……ん?」

    鼻先をかすめたのは、香ばしい、肉の匂い。

    ばちっ、とナターリアの目が見開かれた。
    耳がぴんっ!と立ち、しっぽがわさっと跳ねる。

    「ま、まさか……!!」

    視線の先では、炭火の上で肉串が焼かれていた。
    ジューッと音を立てて脂が弾け、濃厚な香りが風に乗ってくる。

    「……あぁもう、ずるい。こっちは任務中だってのに」

    言いながら、足は完全にそっちに向かっていた。
    しれっと通行人を装って屋台に近づくと、店主がにこやかに声をかけてきた。

    「お、嬢ちゃん。今日も見回りかい? 一本どうだ?」

    「……いいの? じゃあ……ボク、一番脂のってるのちょうだい!」

    パァッと笑顔が咲く。
    金の瞳がキラキラと輝き、耳が嬉しそうに揺れていた。

    肉串を受け取ると、目を細めて、においを吸い込む。

    「……これこれ。ボク、生きてるって感じがする……!
    肉って最高。もう、誰か倒してでも食べたいくらい!」

    「お、お嬢ちゃん、それは物騒だな……」

    「冗談だってば~♪ ……多分ね」

    にこっと笑いながら、ナターリアは串をかぷっとかじった。
    炭火で焼かれたジューシーな肉が口の中でじゅわっと広がる。

    「――っっ、は~~……しあわせ……」

    ふわっとしっぽを揺らしながら、ナターリアは小さく呟く。

    「……肉のある人生って、いいよね」

    彼女は今日も、笑顔で物騒なことを言いながら――
    この街の安全と、お肉を守っている。
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