昼間は賑やかなワドルディの町も、皆が寝静まった夜は静かだ。
遥か遠く、異空を超えた遥か彼方にある故郷では、夜に活動する種族も多くいたものだった。この世界にも夜行性の生物は存在しているのだろうが、この町はワドルディで溢れかえっている。彼らはお月さんが顔を出せばみんな自然と棲家に帰り、眠りにつく。そんないい子ちゃんではさらさらねえオレも仮の寝床に横たわってはみるものの、風の音や揺れる草木の音、そして自らの心臓の音がいやに響いて仕方がない。静かな世界で、自分の心のうちだけが煩い。
穏やかなこの町の平和を、洗脳されていたとはいえ、かつて脅かしたのだ。後悔と、ワドルディたちの危機に何もできなかった無力感が、どきり、どきり、鼓動とともに襲いかかる。静かになれ!と騒いだところでどうしようもないし、とりあえず横になってぼんやりと部屋の天井を見上げている。そのうち少しだけうとうとして、いつの間にか太陽が昇る。そんな日が、しばらく続いている。
傍で眠るワドルディが、わにゃわにゃと寝言を言った。いつの間にかずり落ちていた毛布をかけ直してやりながら、閉じた瞳が開いてくれやしないか、と期待を込める。これも毎日続けているが、一度だって目を開けたことはなく、温かな毛布に包まり直してさっさと夢の世界に旅立ってしまう。オレも安眠妨害がしたいわけじゃねえから、心の中の願いとは裏腹に、起こさなくてよかったとも思う。しばらく気の抜けた顔で眠るだいだい色を眺めてみたが、ざわざわとさざめく心のうちは収まりはしなかった。