~〝恋人ごっこ〟する燐ひめ ⑪ 告げられたホテルは徒歩で辿り着ける範囲にあった。一昨日から滞在しているのだとか、言っていたかもしれない。もう三日も。こんなに近くにいた。
目の前に聳え立つドアの威圧感。意を決してインターホンを押し込むと、すぐに人の気配がして。ゆっくりと室内の灯りが見えた、と思った次の瞬間、伸びてきた手に攫われるようにして抱き寄せられていた。
バタン、と背後で重い音を立てて扉が閉まる。
手加減を知らないみたいに背中と腰にきつく回された腕が熱くて、身体の芯まで焼かれそう。顔は見えない。赤い髪の毛が視界の端で揺れる。匂いが、する。
「——っ離せ」
「来たら、もう離せねェって言った」
「そんな自分勝手なことばかり、どんな顔して言うのか見てやりたくなっただけです」
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