とある旅人のmemory思い出が増えていく。
捨てられない持ち物が増えていく。
〈旅人〉に相応しくない、役に立たないものばかり。
鞄はもう溢れそうなのに、受け取ることを拒めない。
日差しは柔らかく、風は澄んで暖かい。
水は透き通り、大地は生命に満ちている。
この惑星は祝福されているのだろう。
だって、夢の中までこんなにも優しい。
ボクの中にある羅針盤は、既に干渉されて狂っている。
支配の冠に魅入られ、ソレを手にするために進み続ける。
自分で選んだことなのに、既に引き返すことはできない。
本心と嘘の狭間で、流れに抗うこともできず時計の針は進んでいった。
季節が巡る。
優しいから、苦しい。
向けられる感情が眩しすぎて不愉快だ。
自分にそこまでの価値はないのに。
認めさせたい。
早く、ハヤク、マスタークラウンを手に入れなければ。
ただ唯一の正解は、コレしかない。
──違う、本当はそうじゃない。
否、マスタークラウンを入手することが最良にして唯一。
脳内にノイズが走る。
景色が歪む。
音が遠く聞こえる。
帰り途がわからない。
誰か、誰か、ボクの狂った羅針盤を蹴飛ばして壊して。
帰る場所を『此処だよ』って教えて。
自分で選んだ道なのに、それが正しいという思考と間違っているという感情がぶつかり合う。
苦しい。
本当のボクはどれだ?
本当のボクは何だ?
〈虚言の魔術師〉は自称だったのか他称だったのかすら、既に記憶にない。
ボクの生き様は、ボク自身で選んだはずなのに確証が持てない。
ローア、狂った羅針盤の主人に付き従う哀れな船。
所詮は道具、壊れるまで活用される宿命。
──違う、大切に修理した大事な船だ。
思い出が増えていくたびに、その重さが苦しい。
受け取るフリをして受け流して、棄ててしまえば良いのにソレが出来ない。
こんな感情、向けられた所で何の役にも立たない、はずだった。
鞄からとっくに溢れて散らばる煌めきが、思い出が、ボクの存在を『此処にいるよ』と照らす。
愚か者だと笑われても良い。
虫の良すぎる嘘吐きだと罵られても良い。
ボクの心は、ボクの魂は『此処がいい』と叫んでいる。
だから、どうか、どうか、星のカービィ。
ボクの狂った羅針盤を壊して。
支配の冠から解き放って、そして。
『トモダチ』をやり直させて。